魔法使いの恋人は政治すら愛を伝える道具にする美人宰相さま

天田れおぽん

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宰相の幸せ

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「おはようございます。……おや。カイゼルさまは、お帰りになってしまわれたのですか?」
「あぁ。今朝も逃げられてしまったよ」
「それはそれは……」

 執事のヨアンは灰色の目を細めて主人を見た。
 長年仕えているレイモンドは、孤独な人でもある。早くに両親を亡くし、兄弟もない。財産にも地位にも恵まれているが、その分、責任は重いことをヨアンは知っている。白髪交じりの執事は、改めて主人を見る。とても幸せそうなレイモンドを眺められることは、執事としての自分も満たしてくれるとヨアンは感じた。

「朝食はいかがいたしますか?」
「キチンと食べていくよ。今日も忙しいからね。力をつけなきゃ」
「さようでございますか。法案は通りそうなのですか?」
「ああ。なんとかいけそうだ」
「それはようございました」

 主人が同性での婚姻が認められるよう法改正しようとしていることを執事は知っていた。

「法改正されたら、カイゼルさまとのご結婚が可能になりますね」
「いや、同性での婚姻が認められても、私たちは結婚しないよ?」
「えっ? そうなのですか?」
「私たちが結婚したいから法を変えたいわけではない。皆が暮らしやすくなるように法を変えるだけだよ」
「命がけの法改正ですのに? それではレイモンドさまご自身は報われないではないですか」
「ふふふっ。報われるとは、単純に自分たちの利益になることとは限らないよ」
「そうでしょうか?」
「ああ。私たちは大丈夫。ふたりとも独立した存在であるし、誰も私たちの邪魔はしない。でも、自分の思うように生きられる者ばかりではない。それが他の事を諦めても譲れないことだったとしてもね。それが同性での結婚である場合もあるし、女性の爵位継承である場合もあるだろう。そこを私たちは変えたいだけだ」
「ですが、無欲でいる必要もないのではありませんか? 特にご自分であげた成果なのであれば、その利益を享受しても文句を言う者はいないのではありませんか?」
「ふふふ。私は幸せだからね。これ以上は要らないよ」
「ですが……」
「今まで不都合だったものが良くなれば。不都合ゆえに起きていた悪事が減って平和になる。それだけで十分だよ。私は幸せだからこそ、より良い未来を創る仕組み作りをしたいんだ」

 ヨアンは眩しそうに灰色の目を細めて主人を見た。孤独だった少年は愛を知って大人になり、立派な成果を上げようとしている。

 それはとても幸せなことであると長年仕えてきた執事は感じた。
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