36 / 40
王太子夫妻の亀裂
しおりを挟む
「なぜ出来ないっ⁉」
ペドロは苛立っていた。
結婚して一年が過ぎても、二年が過ぎても、ミラには懐妊の兆候がない。
「子どもができなければ、王位を継ぐことができないではないかっ」
苛立つペドロにとっては、豪華な調度品も道具に過ぎない。
だから怒りに任せて振り回した手の先で、高価な壺が大きな音を立てて割れても、そのこと自体はどうでもいいことだ。
ペドロには、もっと気になることがある。
「私はお前に「金の魔法」をかけたはずだ、ミラ。なのに、なぜに子ができない⁉」
「そう言われましても……」
(ペドロの苛立ちは分かるけど、こっちだって困ってるのよ。私だって、子どもが出来ずに悩むなんて思わなかったわ)
ミラにしても、子どもができないというのは計算外だった。
(子どもってやるべきことをやってたら、出来るもんじゃないの⁉)
すべきことはしっかりしていたミラにとって、子どもができない原因を1人背負わされるのは、言いがかりも甚だしいとしか思えない。
(お医者さまにだって、私の体に問題はないと言われているのよ? これ以上、どうしたらいいのよ)
ミラにしても、単純に受け身でいたわけではない。
様々な手段を講じているのだ。
シェリダン侯爵家の伝手も使って、子どもを授かる努力をしている。
だが、出来ないのだ。
「父と側妃の間に子どもが出来た、という噂も流れてきている。しかも、あの側妃の実家には力がある。シェリダン侯爵家の協力があるから、子が出来なくとも次期国王は私になるだろう。だが私の次に国王となるのは、その子になってしまうかもしれない」
ペドロはギリと音がするほど歯を噛みしめた。
時間が経つにつれ、ペドロの危惧は現実に近くなっていく。
結婚から三年が過ぎるころには、周りからの圧力はより強くなり、なかなか妊娠しないミラの立場は悪くなっていった。
「せっかくお前に目をかけてやったというのに。子をなすという簡単な女の務めも果たせないとは」
侮蔑の言葉と共に、シェリダン侯爵家からも圧力をかけられた。
(だからって私にはどうしようもないじゃないっ)
ミラは唇を噛んだ。
側妃が男児を産んだことで、王妃からも嫌味を言われた。
「貴女が息子との間に子をなせないから、王が張り切りって新しく子を作ってしまったわ。結婚に反対もせず貴女を受け入れたというのに、恩を仇で返されるなんて。なんて私は不幸なのかしら」
そう言って鳴きまねをする王妃に、ミラは黙って頭を下げるしかなかった。
子を授かれない王太子妃への風当たりの強さは、多岐にわたった。
「そのくらいは当たり前」
「しっかりしてくれなくては困ります」
「コレも、やっておいてくれ」
公務や社交、日頃の生活態度など、様々な場面でペドロや両陛下に叱責を受けた。
(何なのよコレ。私は王太子妃なのよ⁉ 使用人ではないし、ましてや奴隷ではないっ!)
ミラ自身がそう思っていても、周りの対応は変わらない。
最近では、使用人たちの態度もおかしくなってきたような気がする。
(子どもさえできれば……)
勝ったと思っていたアリシア・ダナン侯爵夫人のところには、また子どもが出来たと聞いた。
(あの女に出来て私に出来ないって、おかしいでしょ⁉)
そうも思っても、叫ぶことはできない。
ここは王宮。どこにスパイがいるか分からない。
ミラはキッと唇を噛んだ。
最近はペドロも夫婦の寝室ではなく、側妃のもとに行く夜が増えた。
(これじゃ、出来るものも出来ないじゃない……あぁ、子どもさえできれば……)
しかし1人寝では子どもはできない。
それが分かっていても、ミラは1人寂しくベッドに横になるしかなかった。
ペドロは苛立っていた。
結婚して一年が過ぎても、二年が過ぎても、ミラには懐妊の兆候がない。
「子どもができなければ、王位を継ぐことができないではないかっ」
苛立つペドロにとっては、豪華な調度品も道具に過ぎない。
だから怒りに任せて振り回した手の先で、高価な壺が大きな音を立てて割れても、そのこと自体はどうでもいいことだ。
ペドロには、もっと気になることがある。
「私はお前に「金の魔法」をかけたはずだ、ミラ。なのに、なぜに子ができない⁉」
「そう言われましても……」
(ペドロの苛立ちは分かるけど、こっちだって困ってるのよ。私だって、子どもが出来ずに悩むなんて思わなかったわ)
ミラにしても、子どもができないというのは計算外だった。
(子どもってやるべきことをやってたら、出来るもんじゃないの⁉)
すべきことはしっかりしていたミラにとって、子どもができない原因を1人背負わされるのは、言いがかりも甚だしいとしか思えない。
(お医者さまにだって、私の体に問題はないと言われているのよ? これ以上、どうしたらいいのよ)
ミラにしても、単純に受け身でいたわけではない。
様々な手段を講じているのだ。
シェリダン侯爵家の伝手も使って、子どもを授かる努力をしている。
だが、出来ないのだ。
「父と側妃の間に子どもが出来た、という噂も流れてきている。しかも、あの側妃の実家には力がある。シェリダン侯爵家の協力があるから、子が出来なくとも次期国王は私になるだろう。だが私の次に国王となるのは、その子になってしまうかもしれない」
ペドロはギリと音がするほど歯を噛みしめた。
時間が経つにつれ、ペドロの危惧は現実に近くなっていく。
結婚から三年が過ぎるころには、周りからの圧力はより強くなり、なかなか妊娠しないミラの立場は悪くなっていった。
「せっかくお前に目をかけてやったというのに。子をなすという簡単な女の務めも果たせないとは」
侮蔑の言葉と共に、シェリダン侯爵家からも圧力をかけられた。
(だからって私にはどうしようもないじゃないっ)
ミラは唇を噛んだ。
側妃が男児を産んだことで、王妃からも嫌味を言われた。
「貴女が息子との間に子をなせないから、王が張り切りって新しく子を作ってしまったわ。結婚に反対もせず貴女を受け入れたというのに、恩を仇で返されるなんて。なんて私は不幸なのかしら」
そう言って鳴きまねをする王妃に、ミラは黙って頭を下げるしかなかった。
子を授かれない王太子妃への風当たりの強さは、多岐にわたった。
「そのくらいは当たり前」
「しっかりしてくれなくては困ります」
「コレも、やっておいてくれ」
公務や社交、日頃の生活態度など、様々な場面でペドロや両陛下に叱責を受けた。
(何なのよコレ。私は王太子妃なのよ⁉ 使用人ではないし、ましてや奴隷ではないっ!)
ミラ自身がそう思っていても、周りの対応は変わらない。
最近では、使用人たちの態度もおかしくなってきたような気がする。
(子どもさえできれば……)
勝ったと思っていたアリシア・ダナン侯爵夫人のところには、また子どもが出来たと聞いた。
(あの女に出来て私に出来ないって、おかしいでしょ⁉)
そうも思っても、叫ぶことはできない。
ここは王宮。どこにスパイがいるか分からない。
ミラはキッと唇を噛んだ。
最近はペドロも夫婦の寝室ではなく、側妃のもとに行く夜が増えた。
(これじゃ、出来るものも出来ないじゃない……あぁ、子どもさえできれば……)
しかし1人寝では子どもはできない。
それが分かっていても、ミラは1人寂しくベッドに横になるしかなかった。
170
お気に入りに追加
1,535
あなたにおすすめの小説
婚約「解消」ではなく「破棄」ですか? いいでしょう、お受けしますよ?
ピコっぴ
恋愛
7歳の時から婚姻契約にある我が婚約者は、どんな努力をしても私に全く関心を見せなかった。
13歳の時、寄り添った夫婦になる事を諦めた。夜会のエスコートすらしてくれなくなったから。
16歳の現在、シャンパンゴールドの人形のような可愛らしい令嬢を伴って夜会に現れ、婚約破棄すると宣う婚約者。
そちらが歩み寄ろうともせず、無視を決め込んだ挙句に、王命での婚姻契約を一方的に「破棄」ですか?
ただ素直に「解消」すればいいものを⋯⋯
婚約者との関係を諦めていた私はともかく、まわりが怒り心頭、許してはくれないようです。
恋愛らしい恋愛小説が上手く書けず、試行錯誤中なのですが、一話あたり短めにしてあるので、サクッと読めるはず? デス🙇
【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。
くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」
「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」
いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。
「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と……
私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。
「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」
「はい、お父様、お母様」
「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」
「……はい」
「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」
「はい、わかりました」
パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、
兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。
誰も私の言葉を聞いてくれない。
誰も私を見てくれない。
そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。
ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。
「……なんか、馬鹿みたいだわ!」
もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる!
ふるゆわ設定です。
※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい!
※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ!
追加文
番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
本の虫令嬢は幼馴染に夢中な婚約者に愛想を尽かす
初瀬 叶
恋愛
『本の虫令嬢』
こんな通り名がつく様になったのは、いつの頃からだろうか?……もう随分前の事で忘れた。
私、マーガレット・ロビーには婚約者が居る。幼い頃に決められた婚約者、彼の名前はフェリックス・ハウエル侯爵令息。彼は私より二つ歳上の十九歳。いや、もうすぐ二十歳か。まだ新人だが、近衛騎士として王宮で働いている。
私は彼との初めての顔合せの時を思い出していた。あれはもう十年前だ。
『お前がマーガレットか。僕の名はフェリックスだ。僕は侯爵の息子、お前は伯爵の娘だから『フェリックス様』と呼ぶように」
十歳のフェリックス様から高圧的にそう言われた。まだ七つの私はなんだか威張った男の子だな……と思ったが『わかりました。フェリックス様』と素直に返事をした。
そして続けて、
『僕は将来立派な近衛騎士になって、ステファニーを守る。これは約束なんだ。だからお前よりステファニーを優先する事があっても文句を言うな』
挨拶もそこそこに彼の口から飛び出したのはこんな言葉だった。
※中世ヨーロッパ風のお話ですが私の頭の中の異世界のお話です
※史実には則っておりませんのでご了承下さい
※相変わらずのゆるふわ設定です
※第26話でステファニーの事をスカーレットと書き間違えておりました。訂正しましたが、混乱させてしまって申し訳ありません
殿下が恋をしたいと言うのでさせてみる事にしました。婚約者候補からは外れますね
さこの
恋愛
恋がしたい。
ウィルフレッド殿下が言った…
それではどうぞ、美しい恋をしてください。
婚約者候補から外れるようにと同じく婚約者候補のマドレーヌ様が話をつけてくださりました!
話の視点が回毎に変わることがあります。
緩い設定です。二十話程です。
本編+番外編の別視点
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
うたた寝している間に運命が変わりました。
gacchi
恋愛
優柔不断な第三王子フレディ様の婚約者として、幼いころから色々と苦労してきたけど、最近はもう呆れてしまって放置気味。そんな中、お義姉様がフレディ様の子を身ごもった?私との婚約は解消?私は学園を卒業したら修道院へ入れられることに。…だったはずなのに、カフェテリアでうたた寝していたら、私の運命は変わってしまったようです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる