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慌ただしい子育て
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春の暖かな午後の日差し差し込む子ども部屋では、親になりたてのアリシアとレアンは騒いでいた。
「あぁ、レアン。おむつはそれじゃダメよ。汚れちゃうわ」
「えっ? 言われた通りにしたつもりだけど……」
アリシアに言われて、レアンは戸惑ったように眉を下げた。
産まれてから一ヶ月にも満たない小さな体に、ただでさえダボつくおむつをつけるのは難しい。
レアンは、やり直すつもりでおむつを外した。
「あぁ、ダメッ!」
アリシアが悲痛な叫びを上げたが、時すでに遅し。
レアンが、付け直すためにおむつを外したタイミングで、小さな体からは勢いのよい放水が始まった。
「子育てしたいのは分かるけど、なぜおむつ替えを選んだのかしら?」
「男の子だから、か?」
レアンの義母と義父は、突然の放尿にワタワタと慌てる婿を見ながら首を傾げた。
アリシアが産んだ子どもは、男の子だった。
名はアロン。
次代のダナン侯爵である。
金の髪と瞳を持つアロンは、レアンの血を濃く継いでいた。
最初に彼を見た時、誰もが命を狙われることを恐れた。
リチャードは屋敷の守りを強化することを指示し、ニアはアリシアに寄り添った。
レアンは自分の健康を保つことの重要性を改めて感じた。
アリシアは、そんな彼を愛し、支えようと心に誓った。
「もう、レアンったら。同じ男性なのだから、わかるでしょ?」
「なにが⁉」
レアンと二人寄り添いながら小さなアロンと向き合う時間は、大変だが穏やかで楽しい。
それはレアンにしても同じだった。
二人は両親であるリチャードとニアが笑ってしまうほど、いつも一緒にいる。
「さぁさ、若旦那さま。後は私が引き継ぎますね」
年かさのばあやが、クスクス笑いながらレアンからおむつ替えを引き継いだ。
「あぁ、そろそろ仕事をしないとな。今日もアリシアはレアンを手伝うのかい?」
「ええ、お父さま」
アリシアは澄ました顔をして答えた。
「わたしは、レアンのパートナーですもの。そもそもダナン侯爵家は、わたしの家ですからね。いくらレアンが夫でも、任せきりはよくないでしょ?」
「まぁ、お前がそれでいいなら、いいけど」
リチャードは娘の様子をみながら笑みを浮かべた。
未来の王妃として教育を受けてきた娘は有能で、レアンの片腕となるのに不足はない。
「ふふ、アリシアは頑張り屋さんですものね。子育ても、お仕事も、どちらもできるわ」
「ええ、お母さま。わたしは出来る子ですの」
「まぁ、この子ったら」
ニアはおどけた様子で目を見開いてみせた。
そして母子はよく似た笑顔を浮かべて二人して声を立てて笑った。
「まぁ、アロンには立派な乳母がついているから、下手にアリシアがべったり張り付いて子育てするより……」
「お父さま⁉」
リチャードのつぶやきを聞き逃さなかったアリシアは、すさかず突っ込みを入れ。
その様子を見ていたレアンは、声をたてて笑った。
慌ただしくも暖かく、穏やかな空気が、ダナン侯爵家には満ちていたのだった。
「あぁ、レアン。おむつはそれじゃダメよ。汚れちゃうわ」
「えっ? 言われた通りにしたつもりだけど……」
アリシアに言われて、レアンは戸惑ったように眉を下げた。
産まれてから一ヶ月にも満たない小さな体に、ただでさえダボつくおむつをつけるのは難しい。
レアンは、やり直すつもりでおむつを外した。
「あぁ、ダメッ!」
アリシアが悲痛な叫びを上げたが、時すでに遅し。
レアンが、付け直すためにおむつを外したタイミングで、小さな体からは勢いのよい放水が始まった。
「子育てしたいのは分かるけど、なぜおむつ替えを選んだのかしら?」
「男の子だから、か?」
レアンの義母と義父は、突然の放尿にワタワタと慌てる婿を見ながら首を傾げた。
アリシアが産んだ子どもは、男の子だった。
名はアロン。
次代のダナン侯爵である。
金の髪と瞳を持つアロンは、レアンの血を濃く継いでいた。
最初に彼を見た時、誰もが命を狙われることを恐れた。
リチャードは屋敷の守りを強化することを指示し、ニアはアリシアに寄り添った。
レアンは自分の健康を保つことの重要性を改めて感じた。
アリシアは、そんな彼を愛し、支えようと心に誓った。
「もう、レアンったら。同じ男性なのだから、わかるでしょ?」
「なにが⁉」
レアンと二人寄り添いながら小さなアロンと向き合う時間は、大変だが穏やかで楽しい。
それはレアンにしても同じだった。
二人は両親であるリチャードとニアが笑ってしまうほど、いつも一緒にいる。
「さぁさ、若旦那さま。後は私が引き継ぎますね」
年かさのばあやが、クスクス笑いながらレアンからおむつ替えを引き継いだ。
「あぁ、そろそろ仕事をしないとな。今日もアリシアはレアンを手伝うのかい?」
「ええ、お父さま」
アリシアは澄ました顔をして答えた。
「わたしは、レアンのパートナーですもの。そもそもダナン侯爵家は、わたしの家ですからね。いくらレアンが夫でも、任せきりはよくないでしょ?」
「まぁ、お前がそれでいいなら、いいけど」
リチャードは娘の様子をみながら笑みを浮かべた。
未来の王妃として教育を受けてきた娘は有能で、レアンの片腕となるのに不足はない。
「ふふ、アリシアは頑張り屋さんですものね。子育ても、お仕事も、どちらもできるわ」
「ええ、お母さま。わたしは出来る子ですの」
「まぁ、この子ったら」
ニアはおどけた様子で目を見開いてみせた。
そして母子はよく似た笑顔を浮かべて二人して声を立てて笑った。
「まぁ、アロンには立派な乳母がついているから、下手にアリシアがべったり張り付いて子育てするより……」
「お父さま⁉」
リチャードのつぶやきを聞き逃さなかったアリシアは、すさかず突っ込みを入れ。
その様子を見ていたレアンは、声をたてて笑った。
慌ただしくも暖かく、穏やかな空気が、ダナン侯爵家には満ちていたのだった。
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