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贈り物

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 秋も終わりに近づいていく十月の終わりのころ。

 晴れた空の下、乾いていく空気を感じながらアリシアは思う。

(あのままペドロさまと結婚しなくて良かったわ。当時はミラさまに対してもペトロさまに対しても色々と思うところがあったけれど、今にして思えばちっぽけなことよ)

 いつのまにか庭に咲く花は秋の色へと変わっていた。

 濃くて小ぶりな薔薇の花に柔らかく揺れるピンクのコスモス、ふんわりと咲く色鮮やかなケイトウ。

(咲き始めは暑苦しく感じるケイトウも、少し涼しくなってくれば温かみある風合いがむしろ好ましくなっていくのですもの。季節で受け止め方が変わるように、人生も状況によって感じ方は変わるわね)

 アリシアは庭を眺めながら呟く。

「結果的に、わたしはコレでよかったのね」

「何がよかったんだい?」

 レアンが肩を抱きながら問う。

 アリシアは隣に立つ愛しい人に笑顔を向けた。

「ケイトウの花言葉って知ってる?」

「いや、知らない」

 花壇のケイトウと妻とを見比べながら、レアンは軽く首を傾げた。

 金色の長い髪がふわっと揺れて、秋の日差しを浴びて輝く。

 その温かな輝きを眺めながら、アリシアは呟くように教える。

「『おしゃれ』に『気取り屋』、『個性』に『風変わり』。あとは『情愛』でしょ。それと『色あせぬ恋』。ほかに『警戒心』『勇敢』などもケイトウの花言葉よ」

「ふぅん。色々あるんだね」

 それが今の私たちにどう関係するのだろうか、と、言いたげな夫にアリシアは笑いながら答える。

「わたしは『おしゃれ』な女性に『気取り屋』の婚約者を取られてしまったけれど、わたし自身が『個性』的過ぎるから仕方ないわ。それに『風変わり』で『情愛』が深い幼馴染が『警戒心』の強いわたしへ『勇敢』にも挑んでくれたから『色あせぬ恋』を思い出したの。そしてわたしは幸せになりました。めでたしめでたし」

「ん? 私は。『風変わり』なのかい?」

「ふふ。少し強引だったわね。でも、わたしがとても辛いと感じたことも、とても幸運だったことも、ケイトウの花言葉ひとつで表現できてしまうのよ」

「うん。そうか」

 アリシアは自分よりも二回り大きい愛しい人の手を取って、自分の指を絡めた。

「悩むことも愛することも価値があることだけれど……時間を止めたくなるような立ち止まり方は勿体なかったな、と、思って」

「ん。そうだね。花言葉で例えるのは、ちょっと強引だけど」

 レアンは自分の手ごとアリシアの手を引き寄せて、その指先にキスをした。

 アリシアはくすぐったそうに笑う。

「そうね、ちょっと強引だったわね」

 ふたりは顔を見合わせてふふふと笑った。

 笑い声が収まったタイミングで、アリシアは夢見るようささやく。

「ねぇ、レアン?」

「なんだい?」

 アリシアは自分を甘く見つめる金の瞳を覗き込むようにしながら、そっと秘密を打ち明けた。

「わたし、赤ちゃんができたみたい」

 金の髪に金の瞳の青年は一瞬息をのみ、そして太陽のように輝く笑顔で愛しい人を腕の中へ抱いた。
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