上 下
27 / 40

和やかな結婚式

しおりを挟む
 良く晴れた七月のある日。

 アリシア・ダナン侯爵令嬢とレアン・スタイツ伯爵令息の結婚式は行われることとなった。

 領内にある聖堂では支度部屋にてアリシアの準備が進められていた。

「お式は王都の大聖堂でも良かったのに」

「いえ、お母さま。これからは領民と共に生きるのですもの。こちらを選んで正解ですわ」

 アリシアの母であるニアは娘の支度を手伝いながら嘆くも、当の本人はケロッとした様子で淡々としている。

「わたしは領内の聖堂でお式が出来て、むしろ嬉しいですわ」

 アリシアの結婚式は本人の希望で領内の聖堂で行われることになった。

 ダナン侯爵家の領地は栄えているため、領内の聖堂といってもみすぼらしいものではない。

 むしろ観光資源となっている聖堂である。

「可愛らしくてわたしは好きよ。ねぇ、マイラはどう思う?」

「はい、お嬢さま。王都の大聖堂はもちろん素敵ですけれど、こちらの聖堂も温かみがあって素敵でございます」

「ほら、マイラもこう言っているし。お母さまは心配しすぎよ」

「だって王家にコケにされたのだもの。予算など気にせず思い切り派手にしてもよかったのよ?」

「ふふふ、お母さま。お式にお金をかけてもしかたないわよ。お金をかけるなら、これからの生活にかけるほうがいいわ」

「そう? ドレスも私の着た物でよいなんて言うし。地味すぎではないかしら?」

 マイペースな娘にニアは溜息をついた。

「そんなことはないわ。お母さまのドレス、素敵よ?」

 支度の整ったアリシアは椅子から立ち上がるとクルリと一回転して見せた。 

 レースの襟が付いたウエディングドレスは露出している部分をチュールレースで隠す品の良いデザインになっている。

 白いシルクタフタを覆うようにたっぷりとチュールレースが使われているドレスは、軽やかでありながら華やかなものだ。

 アリシアには、とてもよく似合っていた。

 楽しそうな様子の娘に頬を緩めながらも、ニアは不満げに言う。

「でも一生に一度の結婚式ですもの。王太子殿下の結婚式とまでいかなくても、華やかなものにしても良かったのよ? 予算には余裕があるのだし」

「ふふ。わたしたちのお式にだけお金をかけても仕方ないでしょ? これからいろいろと物入りなのですし、侯爵夫人となれば領民のためにお金を使わなければいけない場面もあるわ」

「それはそうだけれど……アナタにばかり我慢させるのは親として辛いわ」

「お母さま。わたしはもう我慢などしておりませんので大丈夫です」
 
 曇りのない笑顔の娘に、母は「仕方ないわね」といいながら笑みを返した。

 美しい金髪を結い上げたアリシアは、長くて白いベールを金の台座にダイヤモンドを散らしたヘッドドレスで留めている。

 白い手袋をはめた手には白いカラーとスノーボールで作ったブーケ。

 美しく装ったアリシアを何よりも引き立てているのは、その笑顔。

 何の憂いもない花嫁は、母と侍女に付き添われて支度部屋から出て行った。

 高い所にある窓から差し込む光に浮かび上がる聖堂のなか、赤い絨毯の上を父に手を取られてアリシアは進む。

 両側には茶色の長い椅子が並び、近しい貴族や地位のある領民たちが座っている。

 白い花とレースで飾られた聖堂内は、いつもよりも壮麗ではあったが温かみを失うことはない。

 高い天井に響いていくオルガンの音色。

(緊張に体が震えるわ。あぁ、違う。これは緊張だけではないわ。これは……喜び)

 歩む先に愛しい人が見える。

 アリシアは迷いのない足取りで進み、その手を父から夫となる人へと渡された。

 見届け人の前で永遠の愛を誓い、結婚証明書にサインをする。

「ふたりを夫婦と認める」

 厳かでいて明るく響く見届け人の声を合図に巻き起こる拍手と歓声。

「これからはずっと一緒だよ、アリシア」

 レアンがアリシアの耳元でささやく。

「ええ、もちろん。もちろんよ」

 ふたりは繋いだ手をギュッと握り合った。

 式が終わったふたりは、飾り立てられた馬車に乗った。

 領民へのお披露目である。  

 ダナン侯爵領民は、ふたりの結婚を祝福した。

 その手で揺れるのは白くて丸いスノーボールの花。

 スノーボールの花言葉は「茶目っ気」に「誓い」。

「ふふ。領民にも認められたようね。ダナン侯爵さま」

「そうだね。ダナン侯爵夫人」

 レアンは結婚を機にスタイツ伯爵位を優秀な親族男性に譲り、ダナン侯爵となる。

 ふたりの結婚式は、愛する人々に見守られた温かなものとなった。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

婚約「解消」ではなく「破棄」ですか? いいでしょう、お受けしますよ?

ピコっぴ
恋愛
7歳の時から婚姻契約にある我が婚約者は、どんな努力をしても私に全く関心を見せなかった。 13歳の時、寄り添った夫婦になる事を諦めた。夜会のエスコートすらしてくれなくなったから。 16歳の現在、シャンパンゴールドの人形のような可愛らしい令嬢を伴って夜会に現れ、婚約破棄すると宣う婚約者。 そちらが歩み寄ろうともせず、無視を決め込んだ挙句に、王命での婚姻契約を一方的に「破棄」ですか? ただ素直に「解消」すればいいものを⋯⋯ 婚約者との関係を諦めていた私はともかく、まわりが怒り心頭、許してはくれないようです。 恋愛らしい恋愛小説が上手く書けず、試行錯誤中なのですが、一話あたり短めにしてあるので、サクッと読めるはず? デス🙇

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

身代わりの私は退場します

ピコっぴ
恋愛
本物のお嬢様が帰って来た   身代わりの、偽者の私は退場します ⋯⋯さようなら、婚約者殿

本の虫令嬢は幼馴染に夢中な婚約者に愛想を尽かす

初瀬 叶
恋愛
『本の虫令嬢』 こんな通り名がつく様になったのは、いつの頃からだろうか?……もう随分前の事で忘れた。 私、マーガレット・ロビーには婚約者が居る。幼い頃に決められた婚約者、彼の名前はフェリックス・ハウエル侯爵令息。彼は私より二つ歳上の十九歳。いや、もうすぐ二十歳か。まだ新人だが、近衛騎士として王宮で働いている。 私は彼との初めての顔合せの時を思い出していた。あれはもう十年前だ。 『お前がマーガレットか。僕の名はフェリックスだ。僕は侯爵の息子、お前は伯爵の娘だから『フェリックス様』と呼ぶように」 十歳のフェリックス様から高圧的にそう言われた。まだ七つの私はなんだか威張った男の子だな……と思ったが『わかりました。フェリックス様』と素直に返事をした。 そして続けて、 『僕は将来立派な近衛騎士になって、ステファニーを守る。これは約束なんだ。だからお前よりステファニーを優先する事があっても文句を言うな』 挨拶もそこそこに彼の口から飛び出したのはこんな言葉だった。 ※中世ヨーロッパ風のお話ですが私の頭の中の異世界のお話です ※史実には則っておりませんのでご了承下さい ※相変わらずのゆるふわ設定です ※第26話でステファニーの事をスカーレットと書き間違えておりました。訂正しましたが、混乱させてしまって申し訳ありません

殿下が恋をしたいと言うのでさせてみる事にしました。婚約者候補からは外れますね

さこの
恋愛
恋がしたい。 ウィルフレッド殿下が言った… それではどうぞ、美しい恋をしてください。 婚約者候補から外れるようにと同じく婚約者候補のマドレーヌ様が話をつけてくださりました! 話の視点が回毎に変わることがあります。 緩い設定です。二十話程です。 本編+番外編の別視点

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

処理中です...