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王太子有責の婚約破棄
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アリシアのあずかり知らぬ所で、婚約破棄はなされた。
王太子有責の婚約破棄である。
王家が相応の責任を負うことになったのだが、どんな形であればケジメをつけ責任を果たすことが出来るというのであろうか。
何をしたところで傷付いたアリシアの心は元に戻らないし、失った時間も戻ってはこない。
燃え尽きたように表情を無くしたアリシアに対し、王太子はミラ・カリアス男爵令嬢との婚約を決めた。
男爵令嬢はシェリダン侯爵家の養女となった。
侯爵家に養女として入ってから王家へ嫁入りするのであれば問題がない。
そして意外な事に、ミラは王妃教育も順調にこなしている。
アリシアの両親は悔しさに歯噛みしたが、彼女自身にとっては、どうでも良い事柄であった。
未来の王妃として望まれ光り輝いていた彼女は、今はもう居ない。
したい事もなかったし、しなければならない事もなかった。
王宮からの引っ越しは簡単に済んだ。
10歳から18歳までを過ごしたと思えないほど荷物は少ない。
ドレスなどは処分してしまったし、王太子から貰った物も不用品となった。
贈り物の数々を、返せ、と言われたわけでもないが。
婚約破棄してくるような男からの贈り物が、欲しい物からも、必要な物からも、外れてしまうのは自然な流れだ。
アリシアは殆ど身一つで侯爵家へと戻って来た。
実家には彼女にとって必要な物は揃っているし、侯爵家の侍女たちが側に控えているのだから不都合はない。
不都合があるとしたら。
それはアリシア自身の仕上がり具合のみだ、と、彼女は感じていた。
(私の努力にも、我慢にも、価値がないのだとしたなら……私自身にだって何の価値も無いわね)
10歳まで使っていた自室は、時が止まったような部屋だった。
大きな部屋のなかには天蓋付きの大きなベッドがひとつに白いチェスト。
高い天井には大きなシャンデリア。
白い壁紙には銀色と淡いブルーグリーンの嫌味の無い上品な柄が入っている。
天井近くまである大きな窓には白いレースのカーテン。その上に淡いブルーグリーンの厚手のカーテンが綺麗なドレープを作って重なっていた。
そこに、18歳のアリシアにとって必要な物が少しずつ運ばれて来る。
大人サイズの寝巻に普段着。広いクローゼットには余裕があり、運び込まれたものは吸い込まれるように消えていく。
身づくろいをするために必要なヘアブラシや化粧品などの品々は大きな白いドレッサーに収められた。
もともと調度品も一揃い整っている部屋だ。運び入れる必要がある物など知れている。
教科書なども必要ない。
学園は卒業してしまったし、王妃教育だって不要になったのだ。
学ぶ必要など無くなった。
そうなったら必要な物など知れている。
(勉強と王太子殿下……そのふたつが人生から消えてしまった私にとって必要な物などたいしてないわ。私自身の価値と同じ……)
私物の少なさが自分自身の価値と結びついているように思えてアリシアは薄く笑った。
10歳の頃に使っていた私室とはいえ、貴族令嬢のそれは豪奢な品の良さとは切り離せない。
その部屋は18歳の自分が使っても不自然ではない物たちで作り上げられていた。
(王宮に引っ越しをした時、私は何を持って行ったのかしら?)
アリシアには思い出せなかった。
10歳の少女が実家を離れる時の心情とは、どのようなものだったのだろうか?
(思い出せないわ)
アリシアは自分の事でありながら、どんな気持ちだったのか何を必要だと考えたのか、さっぱり思い出せない。
(昔のことも忘れてしまったし、今したいことも特にないわ)
何をすればよいのか分からない。
アリシアは部屋にあるソファに座って、ぼんやりと窓の外を眺めながら一日の大半の時間を過ごした。
侍女やメイドたちに任せておけば、一通りの必要なことは自分の上を過ぎていく。
大きなベッドの上でシルクの感触を楽しみながら一日過ごすのも良いけれど、そこまで怠惰に過ごしてよいとは考えられなかった。
頻繁に自分の顔を見に来る両親の存在があったからだ。
(あんなに悲しげな表情を浮かべて見るなんて……わたくし、とてつもなく親不孝をしているのではないかしら?)
そこまで考えて思考は止まる。
(わたくしには……やはり価値が、ない)
結論が簡単に出るからだ。
出した結論を誰に語るでもなく、アリシアは黙って自分を責める。
そうやって自分を責めながら、窓から空をぼんやりと眺めて一日の大半を過ごす。
それがアリシアの生活となっていた。
王太子有責の婚約破棄である。
王家が相応の責任を負うことになったのだが、どんな形であればケジメをつけ責任を果たすことが出来るというのであろうか。
何をしたところで傷付いたアリシアの心は元に戻らないし、失った時間も戻ってはこない。
燃え尽きたように表情を無くしたアリシアに対し、王太子はミラ・カリアス男爵令嬢との婚約を決めた。
男爵令嬢はシェリダン侯爵家の養女となった。
侯爵家に養女として入ってから王家へ嫁入りするのであれば問題がない。
そして意外な事に、ミラは王妃教育も順調にこなしている。
アリシアの両親は悔しさに歯噛みしたが、彼女自身にとっては、どうでも良い事柄であった。
未来の王妃として望まれ光り輝いていた彼女は、今はもう居ない。
したい事もなかったし、しなければならない事もなかった。
王宮からの引っ越しは簡単に済んだ。
10歳から18歳までを過ごしたと思えないほど荷物は少ない。
ドレスなどは処分してしまったし、王太子から貰った物も不用品となった。
贈り物の数々を、返せ、と言われたわけでもないが。
婚約破棄してくるような男からの贈り物が、欲しい物からも、必要な物からも、外れてしまうのは自然な流れだ。
アリシアは殆ど身一つで侯爵家へと戻って来た。
実家には彼女にとって必要な物は揃っているし、侯爵家の侍女たちが側に控えているのだから不都合はない。
不都合があるとしたら。
それはアリシア自身の仕上がり具合のみだ、と、彼女は感じていた。
(私の努力にも、我慢にも、価値がないのだとしたなら……私自身にだって何の価値も無いわね)
10歳まで使っていた自室は、時が止まったような部屋だった。
大きな部屋のなかには天蓋付きの大きなベッドがひとつに白いチェスト。
高い天井には大きなシャンデリア。
白い壁紙には銀色と淡いブルーグリーンの嫌味の無い上品な柄が入っている。
天井近くまである大きな窓には白いレースのカーテン。その上に淡いブルーグリーンの厚手のカーテンが綺麗なドレープを作って重なっていた。
そこに、18歳のアリシアにとって必要な物が少しずつ運ばれて来る。
大人サイズの寝巻に普段着。広いクローゼットには余裕があり、運び込まれたものは吸い込まれるように消えていく。
身づくろいをするために必要なヘアブラシや化粧品などの品々は大きな白いドレッサーに収められた。
もともと調度品も一揃い整っている部屋だ。運び入れる必要がある物など知れている。
教科書なども必要ない。
学園は卒業してしまったし、王妃教育だって不要になったのだ。
学ぶ必要など無くなった。
そうなったら必要な物など知れている。
(勉強と王太子殿下……そのふたつが人生から消えてしまった私にとって必要な物などたいしてないわ。私自身の価値と同じ……)
私物の少なさが自分自身の価値と結びついているように思えてアリシアは薄く笑った。
10歳の頃に使っていた私室とはいえ、貴族令嬢のそれは豪奢な品の良さとは切り離せない。
その部屋は18歳の自分が使っても不自然ではない物たちで作り上げられていた。
(王宮に引っ越しをした時、私は何を持って行ったのかしら?)
アリシアには思い出せなかった。
10歳の少女が実家を離れる時の心情とは、どのようなものだったのだろうか?
(思い出せないわ)
アリシアは自分の事でありながら、どんな気持ちだったのか何を必要だと考えたのか、さっぱり思い出せない。
(昔のことも忘れてしまったし、今したいことも特にないわ)
何をすればよいのか分からない。
アリシアは部屋にあるソファに座って、ぼんやりと窓の外を眺めながら一日の大半の時間を過ごした。
侍女やメイドたちに任せておけば、一通りの必要なことは自分の上を過ぎていく。
大きなベッドの上でシルクの感触を楽しみながら一日過ごすのも良いけれど、そこまで怠惰に過ごしてよいとは考えられなかった。
頻繁に自分の顔を見に来る両親の存在があったからだ。
(あんなに悲しげな表情を浮かべて見るなんて……わたくし、とてつもなく親不孝をしているのではないかしら?)
そこまで考えて思考は止まる。
(わたくしには……やはり価値が、ない)
結論が簡単に出るからだ。
出した結論を誰に語るでもなく、アリシアは黙って自分を責める。
そうやって自分を責めながら、窓から空をぼんやりと眺めて一日の大半を過ごす。
それがアリシアの生活となっていた。
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