3 / 40
努力を踏みにじる婚約破棄 3
しおりを挟む
ペドロさまと学園の卒業式典でダンスをして、それが終われば国を挙げての結婚式が待っている。
結婚をすれば王太子妃。王太子妃となれば、次に待っている役目は王妃。国を背負う王を一番側で支える役目だ。
やりがいのある仕事。生きがいのある人生。
アリシアとペドロの結婚は政略的なものだけれど、彼女はそんなものを飛び越えてペドロの事が好きだった。
やりがいのある仕事と愛のある、生きがいのある人生。それがアリシアを待っているはずだった。
だから頑張ったのだ。王妃教育も、勉強も、王太子殿下の手伝いも。いつも、いつも、頑張っていた。
なのに、辿り着いた先がコレなのか?
(そんな残酷な運命を辿るなんて……まさか、わたくしが? いえ、ありえない……)
アリシアは王太子との結婚を夢見ていたし、その夢は覚めてなどいなかった。
少なくとも、深紅に金刺繍のドレスにゴールドのアクセサリーを合わせた、今朝までは。
王太子の色をまとって輝く金髪を結い上げて、褒め称す侍女たちに送り出されたのは幻だったのか。
(そんな……嘘よ……)
シンと静まった広い会場でアリシアに集まる人々の視線。
視線は集まりはするけれど、誰も声をかけてくれる人はいない。
アリシアを庇ってくれる人はここにはいないのだ。
自分が独りだと思い知らされ佇むアリシアに愛しい人は追い打ちをかける。
「私はミラと結婚する」
「そんな……」
見上げるアリシアを、緑に金のブレードをあしらった騎士服をまとった王太子殿下が見下ろしていた。
冷徹な空気をまとったペドロが態度を変える様子はない。
その隣で男爵令嬢は、アリシアの絶望を勝ち誇ったように眺めていた。
「そんな……」
アリシアの唇は戦慄く。いや、全身が戦慄いていた。
私は負けたのだ。
(そんなバカな!)
婚約が決まった10歳から王宮に住まいを移し、未来に向けて努力と勉強の日々を過ごした。
親に甘えるどころか顔を見る機会すら減ってしまったというのに。
アリシアの人生は『王太子殿下の配偶者となる』ためだけに消費されてきたというのに。
(そんなバカな事って、ある⁈)
アリシアは背筋をスッと伸ばし正面からペドロをキッと睨んだ。
「王太子殿下っ! わたくしとの結婚は政略的なものですわっ! 殿下お一人の判断で破棄になどできませんっ!」
「えぇいっ! 忌々しいっ! お前の、そんな生意気な所がっ! 私はっ! 嫌いなんだっ!」
吐き捨てるように言われてアリシアは目を見張った。
「殿下ッ⁈」
「知識をひけらかしおってっ! 自分よりも成績の良い女と結婚したい男などいないっ!」
確かにアリシアの成績は良かった。学年でトップである。トップであるということは、王太子よりも上位であるということだ。
「殿下ッ! わたくしは、殿下のためにっ……」
だが、それは全て未来の王となるペドロを支えるためにした努力である。
(アナタは、わたくしの努力を無駄だった、と、おっしゃりたいの?)
アリシアとて勉学が好きとは言えない。
それでも王太子の婚約者として恥ずかしくないように、と、頑張ってきたのだ。
なのに――――。
「王太子である私よりも賢い女など要らんっ! お前は国を乗っ取る気か⁈」
「そんなことはございませんっ!」
ペドロの横で男爵令嬢がウフフと笑う。
「王妃教育の合間にチャッチャッと学園の勉強も済ませるなどという器用なこと、私には真似できませんわ。ペドロさま」
「ああ、ミラよ。キミには、そんな苦労はかけないよ」
男は愛しげに令嬢を見つめると、ピンク色の髪とバラ色の頬をそっと撫でた。
「はい、ペドロさま」
令嬢は、頬を撫でる手に顔を寄せ、うっとりとした目でペドロを見上げた。
「それに学園の勉強はもう必要ないだろう? なにしろ今日で卒業だ」
「そうでございますわね。ふふっ」
「王妃教育もキミなら難なくこなせるだろう。男爵令嬢だというのに、見事な所作だ」
「ありがとうございます、ペドロさま」
ミラは優雅なカーテシーを披露した。
(確かにミラ・カリアス男爵令嬢は男爵令嬢という地位にあるにも関わらず、高位貴族の令嬢と変わらぬレベルの教養を身につけているわ。……あぁ、そこに気付かないなんて! これは全て計算ずくなのだわ。彼女ひとりの意志ではない。浅はかな男爵令嬢が色仕掛けで王妃の地位を狙ったのではなく……)
もしや、自分は見事にはめられたのではないか? アリシアは悪い予感に包まれた。
結婚をすれば王太子妃。王太子妃となれば、次に待っている役目は王妃。国を背負う王を一番側で支える役目だ。
やりがいのある仕事。生きがいのある人生。
アリシアとペドロの結婚は政略的なものだけれど、彼女はそんなものを飛び越えてペドロの事が好きだった。
やりがいのある仕事と愛のある、生きがいのある人生。それがアリシアを待っているはずだった。
だから頑張ったのだ。王妃教育も、勉強も、王太子殿下の手伝いも。いつも、いつも、頑張っていた。
なのに、辿り着いた先がコレなのか?
(そんな残酷な運命を辿るなんて……まさか、わたくしが? いえ、ありえない……)
アリシアは王太子との結婚を夢見ていたし、その夢は覚めてなどいなかった。
少なくとも、深紅に金刺繍のドレスにゴールドのアクセサリーを合わせた、今朝までは。
王太子の色をまとって輝く金髪を結い上げて、褒め称す侍女たちに送り出されたのは幻だったのか。
(そんな……嘘よ……)
シンと静まった広い会場でアリシアに集まる人々の視線。
視線は集まりはするけれど、誰も声をかけてくれる人はいない。
アリシアを庇ってくれる人はここにはいないのだ。
自分が独りだと思い知らされ佇むアリシアに愛しい人は追い打ちをかける。
「私はミラと結婚する」
「そんな……」
見上げるアリシアを、緑に金のブレードをあしらった騎士服をまとった王太子殿下が見下ろしていた。
冷徹な空気をまとったペドロが態度を変える様子はない。
その隣で男爵令嬢は、アリシアの絶望を勝ち誇ったように眺めていた。
「そんな……」
アリシアの唇は戦慄く。いや、全身が戦慄いていた。
私は負けたのだ。
(そんなバカな!)
婚約が決まった10歳から王宮に住まいを移し、未来に向けて努力と勉強の日々を過ごした。
親に甘えるどころか顔を見る機会すら減ってしまったというのに。
アリシアの人生は『王太子殿下の配偶者となる』ためだけに消費されてきたというのに。
(そんなバカな事って、ある⁈)
アリシアは背筋をスッと伸ばし正面からペドロをキッと睨んだ。
「王太子殿下っ! わたくしとの結婚は政略的なものですわっ! 殿下お一人の判断で破棄になどできませんっ!」
「えぇいっ! 忌々しいっ! お前の、そんな生意気な所がっ! 私はっ! 嫌いなんだっ!」
吐き捨てるように言われてアリシアは目を見張った。
「殿下ッ⁈」
「知識をひけらかしおってっ! 自分よりも成績の良い女と結婚したい男などいないっ!」
確かにアリシアの成績は良かった。学年でトップである。トップであるということは、王太子よりも上位であるということだ。
「殿下ッ! わたくしは、殿下のためにっ……」
だが、それは全て未来の王となるペドロを支えるためにした努力である。
(アナタは、わたくしの努力を無駄だった、と、おっしゃりたいの?)
アリシアとて勉学が好きとは言えない。
それでも王太子の婚約者として恥ずかしくないように、と、頑張ってきたのだ。
なのに――――。
「王太子である私よりも賢い女など要らんっ! お前は国を乗っ取る気か⁈」
「そんなことはございませんっ!」
ペドロの横で男爵令嬢がウフフと笑う。
「王妃教育の合間にチャッチャッと学園の勉強も済ませるなどという器用なこと、私には真似できませんわ。ペドロさま」
「ああ、ミラよ。キミには、そんな苦労はかけないよ」
男は愛しげに令嬢を見つめると、ピンク色の髪とバラ色の頬をそっと撫でた。
「はい、ペドロさま」
令嬢は、頬を撫でる手に顔を寄せ、うっとりとした目でペドロを見上げた。
「それに学園の勉強はもう必要ないだろう? なにしろ今日で卒業だ」
「そうでございますわね。ふふっ」
「王妃教育もキミなら難なくこなせるだろう。男爵令嬢だというのに、見事な所作だ」
「ありがとうございます、ペドロさま」
ミラは優雅なカーテシーを披露した。
(確かにミラ・カリアス男爵令嬢は男爵令嬢という地位にあるにも関わらず、高位貴族の令嬢と変わらぬレベルの教養を身につけているわ。……あぁ、そこに気付かないなんて! これは全て計算ずくなのだわ。彼女ひとりの意志ではない。浅はかな男爵令嬢が色仕掛けで王妃の地位を狙ったのではなく……)
もしや、自分は見事にはめられたのではないか? アリシアは悪い予感に包まれた。
75
お気に入りに追加
1,535
あなたにおすすめの小説
婚約「解消」ではなく「破棄」ですか? いいでしょう、お受けしますよ?
ピコっぴ
恋愛
7歳の時から婚姻契約にある我が婚約者は、どんな努力をしても私に全く関心を見せなかった。
13歳の時、寄り添った夫婦になる事を諦めた。夜会のエスコートすらしてくれなくなったから。
16歳の現在、シャンパンゴールドの人形のような可愛らしい令嬢を伴って夜会に現れ、婚約破棄すると宣う婚約者。
そちらが歩み寄ろうともせず、無視を決め込んだ挙句に、王命での婚姻契約を一方的に「破棄」ですか?
ただ素直に「解消」すればいいものを⋯⋯
婚約者との関係を諦めていた私はともかく、まわりが怒り心頭、許してはくれないようです。
恋愛らしい恋愛小説が上手く書けず、試行錯誤中なのですが、一話あたり短めにしてあるので、サクッと読めるはず? デス🙇
【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。
くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」
「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」
いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。
「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と……
私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。
「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」
「はい、お父様、お母様」
「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」
「……はい」
「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」
「はい、わかりました」
パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、
兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。
誰も私の言葉を聞いてくれない。
誰も私を見てくれない。
そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。
ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。
「……なんか、馬鹿みたいだわ!」
もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる!
ふるゆわ設定です。
※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい!
※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ!
追加文
番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
本の虫令嬢は幼馴染に夢中な婚約者に愛想を尽かす
初瀬 叶
恋愛
『本の虫令嬢』
こんな通り名がつく様になったのは、いつの頃からだろうか?……もう随分前の事で忘れた。
私、マーガレット・ロビーには婚約者が居る。幼い頃に決められた婚約者、彼の名前はフェリックス・ハウエル侯爵令息。彼は私より二つ歳上の十九歳。いや、もうすぐ二十歳か。まだ新人だが、近衛騎士として王宮で働いている。
私は彼との初めての顔合せの時を思い出していた。あれはもう十年前だ。
『お前がマーガレットか。僕の名はフェリックスだ。僕は侯爵の息子、お前は伯爵の娘だから『フェリックス様』と呼ぶように」
十歳のフェリックス様から高圧的にそう言われた。まだ七つの私はなんだか威張った男の子だな……と思ったが『わかりました。フェリックス様』と素直に返事をした。
そして続けて、
『僕は将来立派な近衛騎士になって、ステファニーを守る。これは約束なんだ。だからお前よりステファニーを優先する事があっても文句を言うな』
挨拶もそこそこに彼の口から飛び出したのはこんな言葉だった。
※中世ヨーロッパ風のお話ですが私の頭の中の異世界のお話です
※史実には則っておりませんのでご了承下さい
※相変わらずのゆるふわ設定です
※第26話でステファニーの事をスカーレットと書き間違えておりました。訂正しましたが、混乱させてしまって申し訳ありません
殿下が恋をしたいと言うのでさせてみる事にしました。婚約者候補からは外れますね
さこの
恋愛
恋がしたい。
ウィルフレッド殿下が言った…
それではどうぞ、美しい恋をしてください。
婚約者候補から外れるようにと同じく婚約者候補のマドレーヌ様が話をつけてくださりました!
話の視点が回毎に変わることがあります。
緩い設定です。二十話程です。
本編+番外編の別視点
竜帝は番に愛を乞う
浅海 景
恋愛
祖母譲りの容姿の両親から疎まれている男爵令嬢のルー。自分とは対照的に溺愛される妹のメリナは周囲からも可愛がられ、狼族の番として見初められたことからますます我儘に振舞うようになった。そんなメリナの我儘を受け止めつつ使用人のように働き、学校では妹を虐げる意地悪な姉として周囲から虐げられる。無力感と諦めを抱きながら淡々と日々を過ごしていたルーは、ある晩突然現れた男性から番であることを告げられる。しかも彼は獣族のみならず世界の王と呼ばれる竜帝アレクシスだった。誰かに愛されるはずがないと信じ込む男爵令嬢と番と出会い愛を知った竜帝の物語。
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる