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王家への救援要請

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「フェリシア・バラム伯爵令嬢からサポートの要請が来たって?」

「はい、陛下」

 豪奢な国王の執務室では、宰相と陛下による密談が行われていた。

「フェリシア・バラム伯爵令嬢って……あぁ、黒髪の不気味な子か」

「そうです。黒髪で黒目の。その令嬢です」

「バラム家といえば。跡取り娘が早くに死んじゃったんだっけ?」

「そうです、陛下。爵位は入り婿が継いだ、あのバラム家です。死んだ跡取り娘の子供がフェリシア・バラム伯爵令嬢になります」

「ふーん。それで、なんだって?」

「なんでも、入り婿である父親がバラム家の役目に理解がないそうで」

「ほう」

「役目を果たす上で重要な家督の相続がスムーズにいかないかもしれない、と危惧しているようです」

「ほほう?」

「フェリシア・バラム伯爵令嬢は、自分は役目を果たせる直系の血筋、最後のひとりであるから助けて欲しい、と。要約すると、こんな感じです」

「ふぅ~ん」

 国王は椅子に座って執務机に肘をつき、思案深げな視線を窓の外に落とした。

「……ねぇ、宰相。バラム家って、王都に広大な土地を持っているよね?」

「はい、そうです。陛下」

「あの土地は、バラム家の役目を果たす、という条件で、爵位に紐づけて与えたものだよね?」

「はい、そうです。陛下」

「ふぅ~ん」

 国王はグルンと振り返り、ニヤリと笑って宰相を見た。

「役目を果たせなかった時には、国に戻せるよね? あの土地」

「はい、そうです。陛下」

 宰相もニヤリと笑って国王を見た。

「まぁ、ぶっちゃけ。バラム家って必要なの? ってトコだよね。災厄を防ぐために、という名目そのものが証明しにくいものであるし」

「はい。そうですよね、呪いとか、アンデッドとか。バラム家以外の者には分からないというモノの扱いをどうするか。悩ましい問題ではあります」

「それも王家や国の中枢にいる者だけが知る極秘事項でもある。そこからして怪しい。情報そのものが間違っているかもしれない。確かめようがないもの」

「そうですね、陛下」

「建国時にバラム家が呪いによりアンデッドを鎮めるという大きな功績を果たし。爵位とアンデッドたちを縛るための広大な土地を与えられた。物語としては面白いけどさ。アンデッドなんて、この世に存在していると思う? 宰相閣下殿」

「そうですねぇ、国王陛下。私は、迷信だと思っています」

「私もだよ。……ン~、と、言う事は。分かるよね? 宰相」

「はい、陛下。この要請は黙殺して様子見、ということですね」

「正解」

「フェリシア・バラム伯爵令嬢が爵位継承から外れたタイミングで動けば宜しいですか?」

「そうだね。それがいい。そもそも、今のバラム伯爵には正当性がない」

「あの家が行っている商売の方は、いかがいたしましょうか?」

「あー、薬草とかの商売か?」

「はい。あの家の商売は上手くいっているように見えますが。かなり税制の優遇を受けております」

「そうだったね。役目を果たす、という名目で様々な優遇を受けているんだった」

「そうです、陛下」

「んー……、あの家を取り潰しにすれば、全部要らなくなるよね?」

「そうです、陛下」

「なら、そうしよう」

「はい、陛下。バラム伯爵家に関しては他の貴族たちからの不平不満も出ていますので。早々に対処したほうが良いかと」

「そうだねぇ~。なら、フェリシア・バラム伯爵令嬢が結婚するタイミングで考えようか?」

「と、申しますと?」

「女性でも爵位継承できる特別措置が我が国にあるよね? 本来であればフェリシア・バラム伯爵令嬢の成人時に申請があってしかるべきだけど。いまもって申請がなされていないわけでしょ?」

「はい。申請などされていません」

「ならさ。結婚のタイミングで出てこないなら、将来に渡ってする気がないって事でしょ? そこを突いて、さっさと片付けちゃおうよ」

「はい、陛下。よいお考えだと思います」

「あの爵位や土地は、バラム家の血筋に与えているわけだからさ。本来なら既に契約違反なわけだよ。それを令嬢の結婚まで待ちました、って形にすれば、王家酷い、国が非情だ、なんて陰口を防げるでしょ」

「そうですね。ゼロにはならないと思いますが。減ると思います」

「ハハハッ。貴族たち相手だもの。ゼロは無理だよ、ゼロは。どっちにしたって、誰かが何か難癖付けてくるよ。そこは仕方ないよね」

「はい、陛下。……と、いうことは。我々が考えるべきは、戻ってきた土地をどうするか、という問題ですね」

「ああ。話が早いな、宰相」

「再分配するか、再開発か。悩ましいところですね」

「うん。あれだけ広い土地があれば、色々と出来るよね。忙しいだろうけど、ちょっと考えておいてね」

「はい、陛下。では次に、この件についてですが……」

 豪奢な国王の執務室で宰相と陛下は、冷たくフェリシアを切り捨てた。

 そして。

 そのことは、フェリシアに伝えられる事すらなかったのだった。
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