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新しい計画

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「よりによってフェリシアに見られるなんて……」

「まさか、わざとではないだろうな?」

「いえ、違うわ。お母さま。お義父さま。偶然よ」

 バラム家の居間では、アンドラゴラス、キャロル、セリーヌによる家族会議が行われていた。

 午後のティータイム前、フェリシアが『仕事』をしている間の貴重な時間。

 この時間に、彼らはよく『家族会議』をしていた。

「最初の計画では、フェリシアとラファスの、アナタとの密通を知らせることになっていたわよね?」

「ええ、お母さま」

「それを見たフェリシアが自ら命を絶つように仕向ける予定だったよな?」

「はい、お義父さま」

「それなのに、いまバラしてしまうなんて。まだ結婚前なのよ? 婚約なんてどうとでもなるわ」

「そうね、お母さま」

「どうするつもりなんだ? ラファスは悪い男ではないが、アレには何の力も財産もない」

「分かっていますわ、お義父さま。だから、私もバラしてしまう予定ではありませんでしたのよ」

 本当に分からない。

 セリーヌも不思議に思っていた。

 いつも通り、ドアはキチンと閉めたはずだ。

 なんなら鍵も閉めたはずなのに。

 実際にはドアは隙間が分かるほど開いていて、フェリシアにラファスとの関係がバレてしまった。

「どうするのだ? ラファスは捨てるのか?」

「いいえ、お義父さま。私、ラファスさまが気に入っているの。手元に置いておきたいわ」

「そうなの、セリーヌ。珍しいわね、アナタが気に入るなんて」

「そうなのよ。だからラファスさまはキープさせて頂くわ、お義父さま」

「そうか……では、フェリシアの結婚相手はどうする?」

「そうね……お母さま? 私の従兄妹にカイムって居たでしょ? あの方、どうかしら?」

「カイム? ……ああ、カイム・ベリアル伯爵令息ね。確か、フェリシアと同い年の20歳の子よね?」

「ええ。その方よ」

「んん……そうね。いいかもしれない。金髪に青い目、整った容姿と貴族らしい風貌をしているし」

「見た目で私との血縁が分かるから。今度は寝取られる心配は要らないと、お義姉は安心されるのではないかしら?」

「お前、自分で寝取ったなどと……」

「ふふ。お義父さま。今さらよ」

「まぁ、この子ったら……でも、そうね。あの子を使えば面倒が少ないかも」

「そうでしょ? バラム家の婿に、と、言えば、カイムだって2つ返事で乗って来ると思うわ」

「そうか……キャロル、頼めるか?」

「はい、旦那さま」

「今から手配できれば、結婚式は予定通りに出来るな」

「そうですわね」

「フェリシアには、『結婚式を取りやめになど出来ない』という理由で婚約を認めさせよう」

「それがよろしいと思いますわ、旦那さま」

「ふふ。でも、ちょっと残念。カイムでは、少し物足りない気もするわ」

「何がだ? セリーヌ」

「私、美しいお義姉さまのことは気に入っておりますの。あの端正なお人形のようなお義姉が、ヒキガエルのように醜い男に組み敷かれている所を見てみたい、という欲望もございますのよ。お義父さま」

「お前、何を言って……」

「あら、アナタも? ふふ。やはり母娘ね」

「カイムは私と兄弟と言っても通じるくらい似ていますの。要は、美形ですのよ。中身は……ですけどね。ふふ」

「美男美女のお似合いのカップル、と、言っておけば丸く収まるわよね」

「なんだかお前たちが恐く思えてきたよ」

「あら、旦那さま。今さらですわ」

「そうですわ、お義父さま。自分お一人だけ違うというおつもりですの? カイムが婿になったとしても、お義姉さまの末路は変わりませんのよ?」

「それもそうだな」

「計画が終われば、ようやくバラム伯爵家は旦那さまのモノ」

「そうですわ、お義父さま。そうなれば、私は晴れてお義父さまのことをお父さまじつのちちとして公表できますわ」

「ああ、そうだね」

「そうなれば、幸せですわ」

「ああ。早くそうなればいい」

 バラム家の居間は軽やかな笑い声に包まれた。
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