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婚約破棄?
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「ラファス・シトリー伯爵令息との婚約は破棄しますっ!」
「落ち着いて、フェリシア」
「そうよ、アナタ。興奮し過ぎよ」
「違いますっ! これが正常な反応ですわっ!」
父と義母に宥められてもフェリシアの心が落ち着くことはない。
バラム伯爵家の居間では、壮絶な家族会議が始まっていた。
話題の中心であるラファス・シトリー伯爵令息は、真ん中に座らされて小さく縮こまっている。
(情けないっ!)
フェリシアは黒い瞳で婚約者をキッと睨む。
乱れた服を整えた金髪碧眼の貴族らしい風貌の男は、婚約者の鋭い視線に大きな体をさらに縮みこませた。
「お義姉さま。大騒ぎし過ぎです。はしたないですわ」
涼しい顔をしてセリーヌが言う。
「なんてことをっ! はしたないのは、アナタの方でしょ⁈」
「いいえ、お義姉さま。私はラファスさまをお慰めしていただけ。他意はないですわ」
「それはどういう意味ですのっ⁈」
「だって、お義姉さまは、ラファスさまと寝たりなさらないではありませんか」
「当たり前です。婚前の男女が……そんな、はしたないっ!」
「ふふふ。でも、ラファスさまは健康な20歳の男性でしてよ? 発散したいモノだっておありになるわ」
「だからってアナタが……」
「大切なお義姉さまの為ですもの。あのくらい私、なんでもなくってよ?」
「セリーヌっ!」
「私、ラファスさまの事も好きですけど。お義姉さまのことも大好きですの。お義姉さまは、結婚前に純潔を散らすのはお嫌でしょ? ならば。私が代わりを務めても構わないのではありませんか?」
「なんてことを言うのセリーヌっ⁈」
「セリーヌはお義姉さまの味方ですわ。私は、この家とは義理の関係。父親も分からない私生児。もとよりまともな結婚なんて……」
「ああ、セリーヌ。お前がそんな風に考えていたなんて」
「まぁ、私の可愛いセリーヌ。かわいそうに……」
「どうせ幸せを掴めないのなら、せめてこの体。私の体を使ってお慰めできるのなら、と……」
「あぁ! セリーヌ」
「アナタがそんなに思い詰めていたなんて……」
「……」
(これでは、まるで私が悪いみたいじゃないのっ!)
目の前では白々しい芝居のように家族のドラマが進んでいく。
セリーヌは愛する義姉のために自分の身をその婚約者に捧げた犠牲者。
ラファスは性欲をコントロールできない男。
フェリシアは、婚約者を理解できない堅物女。
その流れで話は進んでいく。
(違うでしょ? セリーヌは義姉の婚約者を寝取った、だらしのない女なのよ? なぜ私が責められる流れになっているの?)
「フェリシア。セリーヌも短絡的な所があったかもしれない。だからといって、この子だけを責めても仕方ないだろう? セリーヌにだって幸せになる権利はある」
「そうよ。フェリシア。愚かな娘だけれどセリーヌのことを許してあげてくれないかしら?」
「……」
セリーヌはシクシク泣き始め、ラファスは青い顔をして固まっている。
(泣きたいのは、こっちよ)
ここには誰もフェリシアのことを思ってくれる人はいない。
「フェリシア。どうだろう? ラファスの婚約者はセリーヌということにしては? お前には、新しい婚約者を用意してあげるから」
「お父さま⁈」
「そうしてあげてくれるかしら? フェリシア。このままでは、セリーヌが不憫だわ……」
「お義母さま⁈」
「おとぅさまぁ~、グスン。おかぁさまぁ~、グスングスン。ごめんなさぁ~ぃぃぃ」
「いいんだよ、セリーヌ」
「ごめんなさいね、セリーヌ。アナタの気持ちを分かってあげられなくて」
父と義母は、セリーヌを両側から挟んで抱きしめた。
フェリシアの目の前で。
(どうしてこうなるの⁈)
こうしてフェリシアとラファスの婚約は解消され、彼女には新しい婚約者があてがわれることになった。
「落ち着いて、フェリシア」
「そうよ、アナタ。興奮し過ぎよ」
「違いますっ! これが正常な反応ですわっ!」
父と義母に宥められてもフェリシアの心が落ち着くことはない。
バラム伯爵家の居間では、壮絶な家族会議が始まっていた。
話題の中心であるラファス・シトリー伯爵令息は、真ん中に座らされて小さく縮こまっている。
(情けないっ!)
フェリシアは黒い瞳で婚約者をキッと睨む。
乱れた服を整えた金髪碧眼の貴族らしい風貌の男は、婚約者の鋭い視線に大きな体をさらに縮みこませた。
「お義姉さま。大騒ぎし過ぎです。はしたないですわ」
涼しい顔をしてセリーヌが言う。
「なんてことをっ! はしたないのは、アナタの方でしょ⁈」
「いいえ、お義姉さま。私はラファスさまをお慰めしていただけ。他意はないですわ」
「それはどういう意味ですのっ⁈」
「だって、お義姉さまは、ラファスさまと寝たりなさらないではありませんか」
「当たり前です。婚前の男女が……そんな、はしたないっ!」
「ふふふ。でも、ラファスさまは健康な20歳の男性でしてよ? 発散したいモノだっておありになるわ」
「だからってアナタが……」
「大切なお義姉さまの為ですもの。あのくらい私、なんでもなくってよ?」
「セリーヌっ!」
「私、ラファスさまの事も好きですけど。お義姉さまのことも大好きですの。お義姉さまは、結婚前に純潔を散らすのはお嫌でしょ? ならば。私が代わりを務めても構わないのではありませんか?」
「なんてことを言うのセリーヌっ⁈」
「セリーヌはお義姉さまの味方ですわ。私は、この家とは義理の関係。父親も分からない私生児。もとよりまともな結婚なんて……」
「ああ、セリーヌ。お前がそんな風に考えていたなんて」
「まぁ、私の可愛いセリーヌ。かわいそうに……」
「どうせ幸せを掴めないのなら、せめてこの体。私の体を使ってお慰めできるのなら、と……」
「あぁ! セリーヌ」
「アナタがそんなに思い詰めていたなんて……」
「……」
(これでは、まるで私が悪いみたいじゃないのっ!)
目の前では白々しい芝居のように家族のドラマが進んでいく。
セリーヌは愛する義姉のために自分の身をその婚約者に捧げた犠牲者。
ラファスは性欲をコントロールできない男。
フェリシアは、婚約者を理解できない堅物女。
その流れで話は進んでいく。
(違うでしょ? セリーヌは義姉の婚約者を寝取った、だらしのない女なのよ? なぜ私が責められる流れになっているの?)
「フェリシア。セリーヌも短絡的な所があったかもしれない。だからといって、この子だけを責めても仕方ないだろう? セリーヌにだって幸せになる権利はある」
「そうよ。フェリシア。愚かな娘だけれどセリーヌのことを許してあげてくれないかしら?」
「……」
セリーヌはシクシク泣き始め、ラファスは青い顔をして固まっている。
(泣きたいのは、こっちよ)
ここには誰もフェリシアのことを思ってくれる人はいない。
「フェリシア。どうだろう? ラファスの婚約者はセリーヌということにしては? お前には、新しい婚約者を用意してあげるから」
「お父さま⁈」
「そうしてあげてくれるかしら? フェリシア。このままでは、セリーヌが不憫だわ……」
「お義母さま⁈」
「おとぅさまぁ~、グスン。おかぁさまぁ~、グスングスン。ごめんなさぁ~ぃぃぃ」
「いいんだよ、セリーヌ」
「ごめんなさいね、セリーヌ。アナタの気持ちを分かってあげられなくて」
父と義母は、セリーヌを両側から挟んで抱きしめた。
フェリシアの目の前で。
(どうしてこうなるの⁈)
こうしてフェリシアとラファスの婚約は解消され、彼女には新しい婚約者があてがわれることになった。
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