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父と義母と義妹
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「あの子は本当に可愛くない」
アンドラゴスは太い眉毛を歪めた。
実の娘であるフェリシアは、自分にあまり似ていない。
全く似ていないのであれば、いっそ楽だ。
とことん追い詰めて欲しいものを奪えばよい。
チラチラと時折見せる表情の中に自分と似た所を見つけてしまうから、血のつながりとは恐ろしいものだ。
自分の娘だと思えば愛着も出てくる。
簡単に始末できるものでもない。
だが、自分の欠点を見せつけられている気分になる時もあるし。
私に従うつもりがないことも、父親に向ける愛情が母親に向けるそれよりも遥かに少ないことも、手に取るように分かる。
だから同時に、憎しみも増すのだ。
血のつながりとは恐ろしくも厄介なものである。
「フェリシアは、母親似ですものね」
「そうだな、キャロル。あぁ、最初からキミと結婚出来ていたら。フェリシアの顔を見ることもなかったのに」
「まぁ、旦那さまってば」
「お義父さま。最初から母と結婚していたら、バラム伯爵家が手に入りませんわ」
「ああ、そうだな。セリーヌ。ずる賢いお前がいると思うとホッとするよ」
「ふふ、旦那さまってば……」
「お義父さま。ずる賢いは褒め言葉ではありませんわ」
「気疲れする生活というのは嫌なものだ。マリアが亡くなってくれるまでの10数年がどれだけ大変だったか……そもそも、キャロル。キミと私の家は、男爵家と伯爵家だ。本来であれば、結婚そのものには問題がなかった」
「でも、お金が……でしょ? お義父さま」
「ああ。そうだ。お前が聞き分けがよくて助かるよ、セリーヌ」
「ええ、本当に。セリーヌは賢くて優しい子ですのよ、旦那さま。実の父を義父と呼ぶことを全く厭いませんの」
「ふふっ、その位。お安い御用ですわ。お母さま。だって、お金のためですもの」
「ああ、そうだ。金のためだ。どちらの家にも金がなかったし……そもそも、次男と次女だ。たいした援助は望めない。金と地位があったなら、私だって好きな相手と結婚できた。十分な金があったなら、私の娘はお前だけだったよ、セリーヌ」
「まぁ、嬉しい事を。旦那さま」
「ふふっ。私も嬉しいわ、お義父さま」
「キャロル。キミと一緒になりたい気持ちを抑えてまでして婿養子に入って。邪魔なマリアが亡くなって。やっと、この家を私の自由にできると思っていたのに……」
「仕方ありませんわ、旦那さま」
「そうよ、お義父さま。うるさい親戚連中がいたのでしょう?」
「ああ。何かと口を出してくるマリアの叔父や叔母たちがな。幸い、もう亡くなったが」
「ええ、ええ。うるさい人たちが亡くなって、清々しましたわ」
ほほほっとキャロルは甲高い笑い声を立てた。
「お前は何かと言われて大変だったからな。うん」
「ホントですわ。私はフェリシアに令嬢としての教育を施していただけですのに、虐待だのなんだのうるさくて。女性がマナーや所作をうるさく言われるのは当然のことですし、家の事を手伝うのも勉強のひとつですわ。それなのに、あの方たちときたら。刺繍よりも祈りのほうが大事だ、なんて。そりゃね。バラム家のことは、たいして知りませんけどね。令嬢としての教育よりも祈りをさせろ、家業なんだから、と、言われても。そちらの方が虐待ですとしか思えませんわ」
「フェリシアも頑固だからね」
「そうそう。私の言いつけた事を済ませた後に祈りもやったりね。それで睡眠時間が少なくなってフラフラになって……私が怒鳴られたこともありましたっけ。あの子の判断なのに、私が怒られるなんて……」
「そうだね、うんうん。苦労かけてすまない」
「いいんですのよ、旦那さま。貴方のためなら、私、頑張りますわ」
「うふふ。仲良し夫婦ですのね」
「まぁ、この子ってば。親を揶揄って」
三人揃って顔を見合わせ、声を立てて笑う。
そこだけ見れば、ただの仲良し家族だ。
フェリシアだけが異端であり、邪魔者である。
それが、この家族の認識であった。
だからセリーヌは、いつも考えていた。
どうしたら邪魔なフェリシアを穏便に片づけることができるのか、と。
アンドラゴスは太い眉毛を歪めた。
実の娘であるフェリシアは、自分にあまり似ていない。
全く似ていないのであれば、いっそ楽だ。
とことん追い詰めて欲しいものを奪えばよい。
チラチラと時折見せる表情の中に自分と似た所を見つけてしまうから、血のつながりとは恐ろしいものだ。
自分の娘だと思えば愛着も出てくる。
簡単に始末できるものでもない。
だが、自分の欠点を見せつけられている気分になる時もあるし。
私に従うつもりがないことも、父親に向ける愛情が母親に向けるそれよりも遥かに少ないことも、手に取るように分かる。
だから同時に、憎しみも増すのだ。
血のつながりとは恐ろしくも厄介なものである。
「フェリシアは、母親似ですものね」
「そうだな、キャロル。あぁ、最初からキミと結婚出来ていたら。フェリシアの顔を見ることもなかったのに」
「まぁ、旦那さまってば」
「お義父さま。最初から母と結婚していたら、バラム伯爵家が手に入りませんわ」
「ああ、そうだな。セリーヌ。ずる賢いお前がいると思うとホッとするよ」
「ふふ、旦那さまってば……」
「お義父さま。ずる賢いは褒め言葉ではありませんわ」
「気疲れする生活というのは嫌なものだ。マリアが亡くなってくれるまでの10数年がどれだけ大変だったか……そもそも、キャロル。キミと私の家は、男爵家と伯爵家だ。本来であれば、結婚そのものには問題がなかった」
「でも、お金が……でしょ? お義父さま」
「ああ。そうだ。お前が聞き分けがよくて助かるよ、セリーヌ」
「ええ、本当に。セリーヌは賢くて優しい子ですのよ、旦那さま。実の父を義父と呼ぶことを全く厭いませんの」
「ふふっ、その位。お安い御用ですわ。お母さま。だって、お金のためですもの」
「ああ、そうだ。金のためだ。どちらの家にも金がなかったし……そもそも、次男と次女だ。たいした援助は望めない。金と地位があったなら、私だって好きな相手と結婚できた。十分な金があったなら、私の娘はお前だけだったよ、セリーヌ」
「まぁ、嬉しい事を。旦那さま」
「ふふっ。私も嬉しいわ、お義父さま」
「キャロル。キミと一緒になりたい気持ちを抑えてまでして婿養子に入って。邪魔なマリアが亡くなって。やっと、この家を私の自由にできると思っていたのに……」
「仕方ありませんわ、旦那さま」
「そうよ、お義父さま。うるさい親戚連中がいたのでしょう?」
「ああ。何かと口を出してくるマリアの叔父や叔母たちがな。幸い、もう亡くなったが」
「ええ、ええ。うるさい人たちが亡くなって、清々しましたわ」
ほほほっとキャロルは甲高い笑い声を立てた。
「お前は何かと言われて大変だったからな。うん」
「ホントですわ。私はフェリシアに令嬢としての教育を施していただけですのに、虐待だのなんだのうるさくて。女性がマナーや所作をうるさく言われるのは当然のことですし、家の事を手伝うのも勉強のひとつですわ。それなのに、あの方たちときたら。刺繍よりも祈りのほうが大事だ、なんて。そりゃね。バラム家のことは、たいして知りませんけどね。令嬢としての教育よりも祈りをさせろ、家業なんだから、と、言われても。そちらの方が虐待ですとしか思えませんわ」
「フェリシアも頑固だからね」
「そうそう。私の言いつけた事を済ませた後に祈りもやったりね。それで睡眠時間が少なくなってフラフラになって……私が怒鳴られたこともありましたっけ。あの子の判断なのに、私が怒られるなんて……」
「そうだね、うんうん。苦労かけてすまない」
「いいんですのよ、旦那さま。貴方のためなら、私、頑張りますわ」
「うふふ。仲良し夫婦ですのね」
「まぁ、この子ってば。親を揶揄って」
三人揃って顔を見合わせ、声を立てて笑う。
そこだけ見れば、ただの仲良し家族だ。
フェリシアだけが異端であり、邪魔者である。
それが、この家族の認識であった。
だからセリーヌは、いつも考えていた。
どうしたら邪魔なフェリシアを穏便に片づけることができるのか、と。
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