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つがう

第五話

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「疲れたぁ~」

 屋敷に戻ったオレはヨロヨロと倒れ込むようにして自室のソファに座った。

 無事、つがい休暇に入る貰うことは出来たが、精神的な消耗が激しい。

「ふふ。お疲れさま」

 しかしオレの隣に腰を下ろしたルノは元気そうだ。

「ルノはあんまり疲れてないみたいだね」

「んっ。慣れているから」

 国王さまも王妃さまもルノの幼馴染だからオレとは感覚が違うのか。

 でもさ。

 オレは実家そのままにいたら王宮へ行く必要もなかったのに、オレが疲れてルノが疲れていないのって理不尽じゃないか?

 なんとなく不公平だなと思ったら眉間にシワが寄ったのが自分でも分かった。

 そんなオレを見てルノは、

「ふふふ。疲れてるキミも魅力的だね」

 などと言いながらオレの額にキスを落とした。

 んっ。感覚じゃなくてスケベ度の違いか。

 視線を上げると欲を含んだ青い瞳と目が合った。

 ホントに番になるんだな、と、ちょっとだけ実感が湧いて、ちょっとだけ照れる。

「つがい休暇を伝えるのって、恥ずかしいよな」

 アレをしますよ、っていうのを宣言して回るようなものなのだ。

 赤面せずにはいられない。

 毎日のようにすることはしているが、ソレはソレ。コレはコレなのだ。

「ふふ。まあ、黙って休暇に入ってしまったら迷惑をかけることになるし。番になれば安定するからオメガにとってもアルファにとってもメリットがあるからおめでたいことでもあるよね。それに子どもが出来やすくなるから、その意味でも祝う価値がある」

「でもさぁ……。やっぱり、あの状態に入るのを他人に知られるのは恥ずかしいよ」

「でも、やることやらないと子どもは出来ないからね」

 なのにルノは余裕の笑みだ。

 こんな時だけ立派なアルファ化するのムカつくな。

 不機嫌さが顔に出ているのか、ルノが言い訳するように言う。

「でも私は子どもが絶対欲しい、絶対必要と思っているわけでもないよ。子どもが出来たら出来たで色々と楽しいだろうなぁ、と、思っているけど」

「そうだね」

 確かに子どもがいたら楽しいだろう。

 ルノに似た子どもは可愛くなるだろうしね。

 コイツ、見た目だけは抜群だもの。

 サラサラの銀髪にキラキラの青い瞳。まつ毛も長いし、整った彫の深い顔は綺麗だ。

 ルノに似た女の子が生まれたら美形すぎて心配になるかもしれない。

 白い肌に覆われた体は日々の鍛錬で鍛えられて筋肉がバッキバキ。

 背が高くでスラッとしているから細身に見えるけど、実に男性的でたくましい体をしている。

 ルノに似た男の子が生まれたら、淑女たちのハートを盗みまくることだろう。

 ……ま、いずれにせよ産むのはオレらしいけど。

 そこはちょっとだけ複雑だ。

「私たちの子どもがアルたちの子どもと結婚したら、アルたちとも親族になるし。それはそれで面白いと思っているよ」

「ん?」

 あ、陛下たちとした子ども同士の婚約の話。

 ルノはアレに乗り気なのか。

「侯爵といっても、我が家は力のある家系だからね。それでいて早々に両親が亡くなったりして隙があるように見えるから他家から目を付けられて私は大変だった。いち貴族としても、後ろ盾や繋がりは大切だ。我が子に苦労をかけたくないから、旧知の間柄の王族と早々に繋いでしまうというのもひとつの手だよ」

「マジか」

「ん。マジだ」

 ルノは顔をズイと近付けてきて耳元で囁く。

「ねぇ、ミカエル」

「ん?」

「私としては子どもはいてもいなくてもいいけど。やることやらないと出来るものもできないわけだし」

「んん?」

「子どもが出来ても出来なくても。やることはやり続けたいと思っているんだよね」

「んんんっ?」

 ルノの手がサワサワとオレの体の上を探るように蠢く。

「ねぇ? 愛してるよ、ミカエル」

 キスが降ってくる。

 髪に、額に、頬に。

 そして唇に。

 温かくて柔らかな唇がオレの口を覆う。

 驚きに半開きの唇から侵入してくるルノの舌が、オレの口内で好き勝手に動く。

 息が苦しい。体が熱くなる。

「ンッ」

 勝手に降りてきたルノの唇は勝手なタイミングで離れていき、蓋を失くしたオレの口から妙に色っぽい音が大きく響く。

「ねぇ、ミカエル。いい?」

 と、ルノが言った時には、オレの衣類は寛げられていて半分はだけている始末だ。

「んっ……ベッドへ」

 息も絶え絶えにそれだけ言うオレの耳元でクスリと笑うルノの気配。

 なんかムカつくんですけど、このアルファ。

 とはいえ、そのまま放置されてしまうのも困るほど臨戦態勢に入ってしまったオレ。

 せめてベッドへと希望を伝え、大人しくお姫さま抱っこされてルノに運ばれるのは癪に障るが仕方ない。

 こうしてオレとルノは、なぜか夕食前の一戦を交えることとなったのである。
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