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妖精令嬢 マッチョと遭遇する 1

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 キラッ、キラキラ。
 大好きなモノは光って見える。
 キラッキラッキララ。
 好きなモノを好きって言える世界はステキ。

 ここは剣と魔法の国ディアラン。社交シーズンの始まりを告げる華やかな国王主催の大夜会していた伯爵令嬢ミアラリア・シェバルトの目は、会場でひときわ輝く紳士に釘付けとなっていた。

「理想の……筋肉ですわぁ~」
 ミアラリア・シェバルト伯爵令嬢は淡いシャンパンゴールドの頬をピンクに染めて、うっとりとつぶやいた。遠慮がちな鼻梁と柔らかそうな両頬に散った金色のソバカスがキラキラ光る。視線の先には、がっしりとした体。黒髪に黒い瞳の男らしい美丈夫は、身長が二メートル近くあり、筋肉たっぷりのがっしりした体を濃紺のフロックコートで覆っていた。

(お洋服の上からでも分かります……アレは私好みの素敵筋肉ですわぁ~。日に焼けた浅黒い肌。野外で活動する方ですわね。しかも、お顔に傷。左の眉から鼻の上をかすめて右頬にかけて切られたような大きな傷。あれは実戦で受けられた傷よね、多分。あぁ、あの紳士は戦士であられるに違いないわ。であるならば、あの鍛えられた筋肉は飾りではなく実用品。素晴らしすぎますわ)

 ミアラリアは羽扇の影に隠れながら、大きな緑の瞳を輝かせて理想の筋肉男子を目で追った。
 
(私など相手にされないでしょうけど、見るくらいなら許していただけますよね?)

 自己評価は低いが、彼女の容姿は可愛らしい。高く結い上げた金髪がふちどる小さな顔。手足の長い細身のすんなりした体。糸に吊られたように姿勢のよい体を覆うドレスはフリルとレースが飾られたピンク色のグラデーション。結婚相手を求める年若い令嬢に見合った華やかでありながら清楚な装いは彼女によく似合っていた。むしろ似合い過ぎていた。

 華奢な細い体は高い身長とあいまってミアラリアを人間離れした儚くも美しい存在に見せる。妖精令嬢とも呼ばれている彼女は周囲の人々の目を十分すぎるほどひいていた。が、本人にその自覚はない。人々は遠巻きに彼女を眺めるばかりで、誰も近付こうとはしなかったからだ。

(17歳にして婚約者すらいない私ですが。殿方に憧れるお年頃なのです。見たいものは見たいのです)

 筋肉にガッツリ見入る自分が、同時に他人からガッツリ見入られる存在であるなどとミアラリアは全く思っていなかった。婚約者がいない理由は女性としての魅力とは全く関係のない所にあるのだが、本人は気付いてはいない。当人にとって普通のことであれば、他人にとっても普通のことだと思ってしまう。ミアラリアは自分が稀有な存在などと思ったことはない。他人からの評価がそうでなかったとしても、気付かなければ無いのと同じ。だから、視線の先にいる人物に自分が釣り合うなどというおこがましい考えは持てなかった。しかし、周囲の評価は違う。

 田舎の領地に引きこもりがちなミアラリアは知らなかった。
 ソバカスが金色に光るのは珍しいということを。

 ミアラリアのキラキラ光るソバカスは魔法の力を秘めている。彼女は浄化と癒しの魔法を使う。膨大な魔力を器用に使って、守りを強化することもできる。また、踊るように空を舞って力を発揮することも可能だ。その力は、剣と魔法の王国ディアランにおいても稀有なものだった。

 妖精令嬢ミアラリア・シェバルトは、本人が思うよりもはるかに有名な存在であった。
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