36 / 40
愛のドッタンバッタンによりアルバスは未来の侯爵になる
しおりを挟む
「兄上、本当に行ってしまわれるのですか?」
「ああ、そうだよ。私は婿に行く!」
愛に目覚めキラキラと輝く兄、サリウス・メイデンが隣国へと婿に行く日がやってきた。
天気はよく、馬車も護衛たちも元気だ。荷物は後から運び入れる手筈になっている。
まずはサリウスを隣国に届けるのが早いと二人の父であるメイデン侯爵もホクホクと上機嫌だ。
話はトントンと進み、アルバスごときには止められなかった。
よってアルバスが次期メイデン侯爵になるのは既定路線。
あれよあれよという間に、サリウスの出発日がやってきてしまったのである。
出発日は休日だったので有給をとらずに済んだのが唯一、アルバスにとって良いことだった。
後は馬車に乗り込むばかりという兄に向かってアルバスは諦め悪く言う。
「それにしたって兄上。何も婿に行かなくてもいいじゃないですか」
「ん? なんの話か分からんな?」
「お相手をメイデン侯爵家に迎え入れてもよかったのでは?」
「いや、これでいいんだよ!」
兄はアルバスの肩をガシィィィィと掴む。
「これが愛だよ、アルバス!」
「兄上、近いっ! 近いですっ!」
アルバスは兄の手を逃れようとバタバタ暴れるも、サリウスは力が強いので筋肉ペラッペラの弟は逃れられない。
「よくお聞き弟よ。愛はね、新しいモノを生み出すのだよ」
「新しいモノ? 子どもですか?」
「うん、赤裸々だね。それもあるけど、アルバス。それだけじゃない!」
「どういうことでしょうか? 兄上」
サリウスが手を離して遠いところを見る。
兄の体が離れていっただけてふらつく軟弱な体を持つアルバスは、視線の方角を確認して思う。
そっちは隣国、これから行く国の方向だと。
―――――― ココからサリウスのひとり語り開始。――――――
「私は恋に落ちなければ隣国へ婿に行こうなどと考えなかった。決められた通りに侯爵家を継いでいただろう。そうなった時、私に新しいモノを生み出せる力は持てただろうか? いや、きっと何も新しいモノなど生み出すことなく人生を終えたことだろう。それがどうだ? 私は恋に落ちた。彼女と恋に落ちただけで、今こうして隣国との縁を結ぼうとしている。もちろん彼女も欲しいし、子どもも欲しい。だが結婚するだけで、恋に落ちただけで、国同士の結びつきが強くなるなんて素晴らしいことだと思わないかい? アルバス。王族との縁を結ぶことが出来たならメリット抜群だ。それは国と国にとってよりよいモノを生み出せるチャンスだ。新しいモノを生み出すことばかりが素晴らしいことではないけれど。でもコレって、素晴らしいことだと思わないかい? アルバス。私は恋をしただけなのに。美しい彼女に心奪われただけなのに。そして、彼女の美しい心を奪っただけなのに。それがこんな素晴らしい新しい縁を生み出すなんて素晴らしいことだと思わないかい? アルバス」
―――――――――― ひとり語りココまで ――――――――――
「兄上。私にはいまいちピンときませんが」
「んっ。コレでもダメかぁ~! アルバスらしいと言えば、アルバスらしいけどな!」
サリウスは笑顔で髪を掻き上げた。銀髪がキラキラと太陽の光に輝く。
「お前の結婚式には戻るからね。向こうの式は一年先だから、二人でおいで!」
「え? 二人って? 父上と、ですか? 母上も行きますから三人ですよ?」
「違うよ、トレーシー嬢と二人で、っていう意味だよ」
「……二人でおいでもなにも……私は結婚の申し込みすらしていませんが……」
グイグイくる兄に困惑しながらアルバスはボソリとつぶやいた。
「ならっ! まずは結婚の申し込みをしないといけないね!」
明るく告げるサリウスのなかでは、本人が結婚の申し込みを断るとかセイデスが難色を示すとか現侯爵である父が反対するとか、アルバスとトレーシーが結婚に辿り着けない可能性は丸っと無視されているようだ。
「えっ? 私とトレーシー君が? えっ? えっ?」
アルバスは動揺した。
ふわんとした好意をトレーシーに持ち続けた期間が長すぎたアルバスにとって、兄の提案は生々しい。
しかし、動揺しながらも心の中を去来する摩訶不思議な想いは、アルバスに不快感を与えるものではなかった。
結婚の申し込みをすれば、ふたりで兄上の結婚式にいける。
結婚さえすれば、他にも楽しいことが色々出来るんじゃない?
結婚したら、トレーシー君と毎日一緒。
毎日一緒にいられる。
毎日……。
「お前とトレーシー嬢の結婚式の時には戻ってくるからっ! 頑張れよ!」
兄は笑顔で旅立って行った。
残されたアルバスは、夢見心地に考える。
私は毎日、トレーシー君と一緒にいたい。
なら、結婚の申し込みをしたらいいんじゃない?
と、アルバスのなかで結婚の申し込みという課題がコロコロと転がり始めた。
「ああ、そうだよ。私は婿に行く!」
愛に目覚めキラキラと輝く兄、サリウス・メイデンが隣国へと婿に行く日がやってきた。
天気はよく、馬車も護衛たちも元気だ。荷物は後から運び入れる手筈になっている。
まずはサリウスを隣国に届けるのが早いと二人の父であるメイデン侯爵もホクホクと上機嫌だ。
話はトントンと進み、アルバスごときには止められなかった。
よってアルバスが次期メイデン侯爵になるのは既定路線。
あれよあれよという間に、サリウスの出発日がやってきてしまったのである。
出発日は休日だったので有給をとらずに済んだのが唯一、アルバスにとって良いことだった。
後は馬車に乗り込むばかりという兄に向かってアルバスは諦め悪く言う。
「それにしたって兄上。何も婿に行かなくてもいいじゃないですか」
「ん? なんの話か分からんな?」
「お相手をメイデン侯爵家に迎え入れてもよかったのでは?」
「いや、これでいいんだよ!」
兄はアルバスの肩をガシィィィィと掴む。
「これが愛だよ、アルバス!」
「兄上、近いっ! 近いですっ!」
アルバスは兄の手を逃れようとバタバタ暴れるも、サリウスは力が強いので筋肉ペラッペラの弟は逃れられない。
「よくお聞き弟よ。愛はね、新しいモノを生み出すのだよ」
「新しいモノ? 子どもですか?」
「うん、赤裸々だね。それもあるけど、アルバス。それだけじゃない!」
「どういうことでしょうか? 兄上」
サリウスが手を離して遠いところを見る。
兄の体が離れていっただけてふらつく軟弱な体を持つアルバスは、視線の方角を確認して思う。
そっちは隣国、これから行く国の方向だと。
―――――― ココからサリウスのひとり語り開始。――――――
「私は恋に落ちなければ隣国へ婿に行こうなどと考えなかった。決められた通りに侯爵家を継いでいただろう。そうなった時、私に新しいモノを生み出せる力は持てただろうか? いや、きっと何も新しいモノなど生み出すことなく人生を終えたことだろう。それがどうだ? 私は恋に落ちた。彼女と恋に落ちただけで、今こうして隣国との縁を結ぼうとしている。もちろん彼女も欲しいし、子どもも欲しい。だが結婚するだけで、恋に落ちただけで、国同士の結びつきが強くなるなんて素晴らしいことだと思わないかい? アルバス。王族との縁を結ぶことが出来たならメリット抜群だ。それは国と国にとってよりよいモノを生み出せるチャンスだ。新しいモノを生み出すことばかりが素晴らしいことではないけれど。でもコレって、素晴らしいことだと思わないかい? アルバス。私は恋をしただけなのに。美しい彼女に心奪われただけなのに。そして、彼女の美しい心を奪っただけなのに。それがこんな素晴らしい新しい縁を生み出すなんて素晴らしいことだと思わないかい? アルバス」
―――――――――― ひとり語りココまで ――――――――――
「兄上。私にはいまいちピンときませんが」
「んっ。コレでもダメかぁ~! アルバスらしいと言えば、アルバスらしいけどな!」
サリウスは笑顔で髪を掻き上げた。銀髪がキラキラと太陽の光に輝く。
「お前の結婚式には戻るからね。向こうの式は一年先だから、二人でおいで!」
「え? 二人って? 父上と、ですか? 母上も行きますから三人ですよ?」
「違うよ、トレーシー嬢と二人で、っていう意味だよ」
「……二人でおいでもなにも……私は結婚の申し込みすらしていませんが……」
グイグイくる兄に困惑しながらアルバスはボソリとつぶやいた。
「ならっ! まずは結婚の申し込みをしないといけないね!」
明るく告げるサリウスのなかでは、本人が結婚の申し込みを断るとかセイデスが難色を示すとか現侯爵である父が反対するとか、アルバスとトレーシーが結婚に辿り着けない可能性は丸っと無視されているようだ。
「えっ? 私とトレーシー君が? えっ? えっ?」
アルバスは動揺した。
ふわんとした好意をトレーシーに持ち続けた期間が長すぎたアルバスにとって、兄の提案は生々しい。
しかし、動揺しながらも心の中を去来する摩訶不思議な想いは、アルバスに不快感を与えるものではなかった。
結婚の申し込みをすれば、ふたりで兄上の結婚式にいける。
結婚さえすれば、他にも楽しいことが色々出来るんじゃない?
結婚したら、トレーシー君と毎日一緒。
毎日一緒にいられる。
毎日……。
「お前とトレーシー嬢の結婚式の時には戻ってくるからっ! 頑張れよ!」
兄は笑顔で旅立って行った。
残されたアルバスは、夢見心地に考える。
私は毎日、トレーシー君と一緒にいたい。
なら、結婚の申し込みをしたらいいんじゃない?
と、アルバスのなかで結婚の申し込みという課題がコロコロと転がり始めた。
8
お気に入りに追加
245
あなたにおすすめの小説

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~
土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。
しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。
そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。
両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。
女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

婚約破棄され逃げ出した転生令嬢は、最強の安住の地を夢見る
拓海のり
ファンタジー
階段から落ちて死んだ私は、神様に【救急箱】を貰って異世界に転生したけれど、前世の記憶を思い出したのが婚約破棄の現場で、私が断罪される方だった。
頼みのギフト【救急箱】から出て来るのは、使うのを躊躇うような怖い物が沢山。出会う人々はみんな訳ありで兵士に追われているし、こんな世界で私は生きて行けるのだろうか。
破滅型の転生令嬢、腹黒陰謀型の年下少年、腕の立つ元冒険者の護衛騎士、ほんわり癒し系聖女、魔獣使いの半魔、暗部一族の騎士。転生令嬢と訳ありな皆さん。
ゆるゆる異世界ファンタジー、ご都合主義満載です。
タイトル色々いじっています。他サイトにも投稿しています。
完結しました。ありがとうございました。

ペットたちと一緒に異世界へ転生!?魔法を覚えて、皆とのんびり過ごしたい。
千晶もーこ
ファンタジー
疲労で亡くなってしまった和菓。
気付いたら、異世界に転生していた。
なんと、そこには前世で飼っていた犬、猫、インコもいた!?
物語のような魔法も覚えたいけど、一番は皆で楽しくのんびり過ごすのが目標です!
※この話は小説家になろう様へも掲載しています

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜
青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ
孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。
そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。
これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。
小説家になろう様からの転載です!
公爵家の家族ができました。〜記憶を失くした少女は新たな場所で幸せに過ごす〜
月
ファンタジー
記憶を失くしたフィーは、怪我をして国境沿いの森で倒れていたところをウィスタリア公爵に助けてもらい保護される。
けれど、公爵家の次女フィーリアの大切なワンピースを意図せず着てしまい、双子のアルヴァートとリティシアを傷付けてしまう。
ウィスタリア公爵夫妻には五人の子どもがいたが、次女のフィーリアは病気で亡くなってしまっていたのだ。
大切なワンピースを着てしまったこと、フィーリアの愛称フィーと公爵夫妻から呼ばれたことなどから双子との確執ができてしまった。
子どもたちに受け入れられないまま王都にある本邸へと戻ることになってしまったフィーに、そのこじれた関係のせいでとある出来事が起きてしまう。
素性もわからないフィーに優しくしてくれるウィスタリア公爵夫妻と、心を開き始めた子どもたちにどこか後ろめたい気持ちを抱いてしまう。
それは夢の中で見た、フィーと同じ輝くような金色の髪をした男の子のことが気になっていたからだった。
夢の中で見た、金色の花びらが舞う花畑。
ペンダントの金に彫刻された花と水色の魔石。
自分のことをフィーと呼んだ、夢の中の男の子。
フィーにとって、それらは記憶を取り戻す唯一の手がかりだった。
夢で会った、金色の髪をした男の子との関係。
新たに出会う、友人たち。
再会した、大切な人。
そして成長するにつれ周りで起き始めた不可解なこと。
フィーはどのように公爵家で過ごしていくのか。
★記憶を失くした代わりに前世を思い出した、ちょっとだけ感情豊かな少女が新たな家族の優しさに触れ、信頼できる友人に出会い、助け合い、そして忘れていた大切なものを取り戻そうとするお話です。
※前世の記憶がありますが、転生のお話ではありません。
※一話あたり二千文字前後となります。

伯爵令嬢アンマリアのダイエット大作戦
未羊
ファンタジー
気が付くとまん丸と太った少女だった?!
痩せたいのに食事を制限しても運動をしても太っていってしまう。
一体私が何をしたというのよーっ!
驚愕の異世界転生、始まり始まり。
白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます
時岡継美
ファンタジー
初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。
侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。
しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?
他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。
誤字脱字報告ありがとうございます!

モブで可哀相? いえ、幸せです!
みけの
ファンタジー
私のお姉さんは“恋愛ゲームのヒロイン”で、私はゲームの中で“モブ”だそうだ。
“あんたはモブで可哀相”。
お姉さんはそう、思ってくれているけど……私、可哀相なの?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる