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夜会への招待
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トレーシーは夜会へ出席することになった。
渋々であろうと、なかろうと、夜会へ出るともなれば支度が必要になる。
研究棟の一室では、研究開発部らしくはないが王城勤め人らしい会話がなされていた。
「両陛下からご招待して頂く、なんて滅多にない名誉な事なのだから、もう少し嬉しそうにしても良いと思うの」
「そうは言っても、トラント部長~。女性が夜会に出るとなると大変なのですよ。その点、いいですよねぇ、アルバス先輩は。夜会慣れしているから」
「ん? 私は夜会慣れなんてしていないよ?」
高位貴族ともなれば夜会なんてお手の物だろう、と、トレーシーは思っていたが実際は違うようだ。
「トレーシー、キミは伯爵令嬢だろう? キミだって夜会には慣れているだろうに」
「そんな事ありませんよ、アルバス先輩。私は勉強や仕事の手伝いで忙しくて、殆んど出たことありません」
「婚約者が居たのだから、誘われたのではないか?」
「誰の事ですか? もしかして、ユリウス・イグナコス子爵令息の事ですか? 」
「うわっ、もう半分忘れられた存在」
「当然でしょ、セイデス。元婚約者なんて、この世に生まれた事すら記憶から削除よ、削除」
「キッツゥゥゥ~。相変わらず容赦ないな、トレーシー」
「まぁね。そのくらいでないと、あの家では生きていけないわ。もっとも、容赦を忘れた返しをしたって、頭も根性も悪い人たちには通じないから。ほぼスルーで要求を通しちゃうのよ」
「ホント、人使いが荒い家だったからね。トレーシーのトコは。曾祖母さまが生きていらしたら話は違ったんだろうけど。社交界デビューだって、もっとキチンとしたよね」
「んー、セイデス。確かにそうかもしれないけれど。社交界デビューがテキトーだったとか、夜会に出る回数が少なかったとか、って事については、不満なんてないわよ」
「トレーシー。夜会は、ただ出席するだけのモノじゃないよ。人脈を作ったり、男女の出会いを求めたりして行くものさ」
「あら? まるで自分は、ソレが出来ているみたいな口ぶりね。セイデス」
「ほんっと、キミは手厳しいな」
「私たちに拒否権はないのよ、トレーシーちゃん。諦めて、ありがたく出席させて頂きなさい」
「はい、トラント部長」
「母上もトレーシーの支度を手伝うのを楽しみにしてるって言ってたよ」
「ぁー。私、着せ替え人形の代わりにされちゃうのかしら?」
「さぁね。どの程度、考えているのか分からないけど。ドレスくらいはプレゼントさせてあげなよ」
「んー。悪いわ。お金ならあるわよ?」
「いいよ、いいよ。母上の趣味だから。我が家は男ばかりで、可愛いモノ好きの母上としては、トレーシーで遊びたいのさ」
「うわぁ……ますます気が重い」
「お金だって、これからかかるだろうし。宝石なんかもあげたいらしいから、遠慮なく貰ってね」
「遠慮したい」
「いいって。母上の若い時のモノをあげたいらしいからさ。そこは気にしなくていいよ」
「ああ……でも、私……ホントに何も持ってないわね?」
「えっ? 今までだって夜会に出た事はあるだろう?」
「その時には、白のローブを着てたから……」
「ああ、魔法省から支給されているヤツだ」
「そうよ、セイデス。研究開発部は優秀な人材を揃えるために身分を問わないし。ぶっちゃけ見た目になんてこだわらない人たちばかりだから、自分たちで支度させると……なので。正式な場で着るローブも支給されているの」
「あーあ。何かと大変ですね、トラント部長」
「ありがとう、セイデス。本当に大変なんだから、この人たちを恥ずかしくない状態にして正式な場に出すのって。今回は両陛下からの正式なお招きだからね。頑張って欲しいわ。アルバスは侯爵家の方で頑張ってくれるから大丈夫だけど。トレーシーちゃんは、我が研究開発部初の女性なのだから。ちょっとは気合入れて欲しいのよ。だからセイデス、お願いね?」
「はい。微力ながら協力させて頂きます」
「うーん、メンドクサイ」
「面倒くさがらないでよ、一応、伯爵令嬢なのだから」
「いえ、トラント部長。私は平民です」
「キミは平民じゃないからな?」
セイデスに突っ込まれて、トレーシーは顔をしかめる。
家族と一緒に面倒な貴族の繋がりについても捨ててしまったと思っていたのだが、どうやら違うようだ。
トレーシーは溜息を吐いた。
「ねぇ、セイデス。ちょっといいかしら?」
「なんですか? トラント部長」
トラントはセイデスを部屋の隅へと連れていき、コソコソと耳打ちする。
「二人で夜会に招待されたというのに、アルバスがトレーシーちゃんを誘う様子が無いわね?」
「あっ。ソレ、気になります?」
「当たり前じゃない」
「そうですよね。オレも気になっているんですが……」
「普通、ここまでお膳立てされたら誘わない?」
「ですよねぇ。普通は、誘いそうなものですよね」
コソコソ話す二人の前では、アルバスとトレーシーがキャッキャウフフと会話している。
「仲は良さそうなのに」
「誰かに取られそうにならないと自覚できないのですかね?」
「んー? あの二人だと、それでも気付かないかもしれないわね」
トラントとセイデスは、のほほんとしている二人を見て溜息を吐いた。
渋々であろうと、なかろうと、夜会へ出るともなれば支度が必要になる。
研究棟の一室では、研究開発部らしくはないが王城勤め人らしい会話がなされていた。
「両陛下からご招待して頂く、なんて滅多にない名誉な事なのだから、もう少し嬉しそうにしても良いと思うの」
「そうは言っても、トラント部長~。女性が夜会に出るとなると大変なのですよ。その点、いいですよねぇ、アルバス先輩は。夜会慣れしているから」
「ん? 私は夜会慣れなんてしていないよ?」
高位貴族ともなれば夜会なんてお手の物だろう、と、トレーシーは思っていたが実際は違うようだ。
「トレーシー、キミは伯爵令嬢だろう? キミだって夜会には慣れているだろうに」
「そんな事ありませんよ、アルバス先輩。私は勉強や仕事の手伝いで忙しくて、殆んど出たことありません」
「婚約者が居たのだから、誘われたのではないか?」
「誰の事ですか? もしかして、ユリウス・イグナコス子爵令息の事ですか? 」
「うわっ、もう半分忘れられた存在」
「当然でしょ、セイデス。元婚約者なんて、この世に生まれた事すら記憶から削除よ、削除」
「キッツゥゥゥ~。相変わらず容赦ないな、トレーシー」
「まぁね。そのくらいでないと、あの家では生きていけないわ。もっとも、容赦を忘れた返しをしたって、頭も根性も悪い人たちには通じないから。ほぼスルーで要求を通しちゃうのよ」
「ホント、人使いが荒い家だったからね。トレーシーのトコは。曾祖母さまが生きていらしたら話は違ったんだろうけど。社交界デビューだって、もっとキチンとしたよね」
「んー、セイデス。確かにそうかもしれないけれど。社交界デビューがテキトーだったとか、夜会に出る回数が少なかったとか、って事については、不満なんてないわよ」
「トレーシー。夜会は、ただ出席するだけのモノじゃないよ。人脈を作ったり、男女の出会いを求めたりして行くものさ」
「あら? まるで自分は、ソレが出来ているみたいな口ぶりね。セイデス」
「ほんっと、キミは手厳しいな」
「私たちに拒否権はないのよ、トレーシーちゃん。諦めて、ありがたく出席させて頂きなさい」
「はい、トラント部長」
「母上もトレーシーの支度を手伝うのを楽しみにしてるって言ってたよ」
「ぁー。私、着せ替え人形の代わりにされちゃうのかしら?」
「さぁね。どの程度、考えているのか分からないけど。ドレスくらいはプレゼントさせてあげなよ」
「んー。悪いわ。お金ならあるわよ?」
「いいよ、いいよ。母上の趣味だから。我が家は男ばかりで、可愛いモノ好きの母上としては、トレーシーで遊びたいのさ」
「うわぁ……ますます気が重い」
「お金だって、これからかかるだろうし。宝石なんかもあげたいらしいから、遠慮なく貰ってね」
「遠慮したい」
「いいって。母上の若い時のモノをあげたいらしいからさ。そこは気にしなくていいよ」
「ああ……でも、私……ホントに何も持ってないわね?」
「えっ? 今までだって夜会に出た事はあるだろう?」
「その時には、白のローブを着てたから……」
「ああ、魔法省から支給されているヤツだ」
「そうよ、セイデス。研究開発部は優秀な人材を揃えるために身分を問わないし。ぶっちゃけ見た目になんてこだわらない人たちばかりだから、自分たちで支度させると……なので。正式な場で着るローブも支給されているの」
「あーあ。何かと大変ですね、トラント部長」
「ありがとう、セイデス。本当に大変なんだから、この人たちを恥ずかしくない状態にして正式な場に出すのって。今回は両陛下からの正式なお招きだからね。頑張って欲しいわ。アルバスは侯爵家の方で頑張ってくれるから大丈夫だけど。トレーシーちゃんは、我が研究開発部初の女性なのだから。ちょっとは気合入れて欲しいのよ。だからセイデス、お願いね?」
「はい。微力ながら協力させて頂きます」
「うーん、メンドクサイ」
「面倒くさがらないでよ、一応、伯爵令嬢なのだから」
「いえ、トラント部長。私は平民です」
「キミは平民じゃないからな?」
セイデスに突っ込まれて、トレーシーは顔をしかめる。
家族と一緒に面倒な貴族の繋がりについても捨ててしまったと思っていたのだが、どうやら違うようだ。
トレーシーは溜息を吐いた。
「ねぇ、セイデス。ちょっといいかしら?」
「なんですか? トラント部長」
トラントはセイデスを部屋の隅へと連れていき、コソコソと耳打ちする。
「二人で夜会に招待されたというのに、アルバスがトレーシーちゃんを誘う様子が無いわね?」
「あっ。ソレ、気になります?」
「当たり前じゃない」
「そうですよね。オレも気になっているんですが……」
「普通、ここまでお膳立てされたら誘わない?」
「ですよねぇ。普通は、誘いそうなものですよね」
コソコソ話す二人の前では、アルバスとトレーシーがキャッキャウフフと会話している。
「仲は良さそうなのに」
「誰かに取られそうにならないと自覚できないのですかね?」
「んー? あの二人だと、それでも気付かないかもしれないわね」
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