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「ごめんね、突然こんな事になって、優香だってびっくりするよね。よし、じゃあ質問タイムをもうけよう、なんでも聞いてくれないかな?」
頭上から降り注ぐハスキーボイスはまるで、物分かりの良い上司のように優しく囁きかけてくる。私は混乱した頭を落ち着かせて状況を整理した。
配達先がたまたま子供部屋おじさんの家になってしまった。注文者は配達員の顔と名前をアプリで確認できるからすぐに私と分かっただろう。女の子の声で安心させて部屋に踏み込んだ所を捕まえ拉致監禁。でもこの部屋は配達時に入った部屋とは明らかに違う。
「ここは藤本マンションなんですよね?」
「ああ、そうだよ」
「ずいぶんと他の部屋とは違いますけど」
「ここは以前、稽古場として使っていたんだ。僕の家は日本舞踊の家元だからね、もっとも今ではカラオケボックスに変わってしまったけど」
「三階……。なんですか?」
「そうだよ、301と302をぶち抜いて作ってある」
「そんな事して大丈夫なんですか?」
「ん? と言うと」
「あ、いえ。このマンション賃貸だから」
「ああ、問題ない。このマンションの所有者は僕なんだ。三階のフロアはすべて僕が使っている。と言っても親から貰った物だから偉そうな事は言えないけどね」
なんて事だ、子供部屋おじさんは私が考えていたスケールを大きく上回っている。完全防音の部屋、通信機器は没収されている。ただ自分が住んでいるマンションのワンフロアという事実が多少の安心材料か。
「配達が私になったのはたまたまですか? それとも女性なら誰でも良かったんですか」
「バカ言っちゃいけないよ優香、君以外の女性に興味はない」
「……」
「優香がウーバー配達員をしているのは知っていた、だから毎日何十件も注文したんだよ、君に当たるまでずっとね。おかげで少し太ってしまったよ、悪い子だ」
背筋に冷たいものが流れた、空調はちょうどよい室温に設定されているが寒気で体がガタガタと震える。
「どうして! どうして私なんですか……」
子供部屋おじさんはしばらく沈黙していた。姿が見えないから私は広い部屋にポツンと一人ぼっちになったような、世界に取り残されたような孤独感を感じてしまう。
「君が僕に似ているからだよ」
その声には優しく私を包み込むような温かさがあった。私にはなぜかそう感じた。
頭上から降り注ぐハスキーボイスはまるで、物分かりの良い上司のように優しく囁きかけてくる。私は混乱した頭を落ち着かせて状況を整理した。
配達先がたまたま子供部屋おじさんの家になってしまった。注文者は配達員の顔と名前をアプリで確認できるからすぐに私と分かっただろう。女の子の声で安心させて部屋に踏み込んだ所を捕まえ拉致監禁。でもこの部屋は配達時に入った部屋とは明らかに違う。
「ここは藤本マンションなんですよね?」
「ああ、そうだよ」
「ずいぶんと他の部屋とは違いますけど」
「ここは以前、稽古場として使っていたんだ。僕の家は日本舞踊の家元だからね、もっとも今ではカラオケボックスに変わってしまったけど」
「三階……。なんですか?」
「そうだよ、301と302をぶち抜いて作ってある」
「そんな事して大丈夫なんですか?」
「ん? と言うと」
「あ、いえ。このマンション賃貸だから」
「ああ、問題ない。このマンションの所有者は僕なんだ。三階のフロアはすべて僕が使っている。と言っても親から貰った物だから偉そうな事は言えないけどね」
なんて事だ、子供部屋おじさんは私が考えていたスケールを大きく上回っている。完全防音の部屋、通信機器は没収されている。ただ自分が住んでいるマンションのワンフロアという事実が多少の安心材料か。
「配達が私になったのはたまたまですか? それとも女性なら誰でも良かったんですか」
「バカ言っちゃいけないよ優香、君以外の女性に興味はない」
「……」
「優香がウーバー配達員をしているのは知っていた、だから毎日何十件も注文したんだよ、君に当たるまでずっとね。おかげで少し太ってしまったよ、悪い子だ」
背筋に冷たいものが流れた、空調はちょうどよい室温に設定されているが寒気で体がガタガタと震える。
「どうして! どうして私なんですか……」
子供部屋おじさんはしばらく沈黙していた。姿が見えないから私は広い部屋にポツンと一人ぼっちになったような、世界に取り残されたような孤独感を感じてしまう。
「君が僕に似ているからだよ」
その声には優しく私を包み込むような温かさがあった。私にはなぜかそう感じた。
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