モラハラ夫との離婚計画 10年

桐谷 碧

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45,ふりだし

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「おい、近所迷惑だから外に連れて行けよ」

 泣き止まない優菜を抱っこしながらあやしていると夫にそう言われた。ゆうくんはこのマンションを引っ越していった。行き先は分からない。当然だろう。

 あのガキ俺に似てねえもん一一。

 そう言われてみればそんな気もする、優菜は夫の子供なのだろうか、アフターピルの効果はどれほどなのか、調べる気にもならなかった。正直どちらでも良い。どっちもクソみたいな男なのだから。

「聞いてるのか?」

「あ、うん」

 暴力現場の動画流出を恐れた夫は以前よりは優しくなった、まあそれも日が経つにつれて元に戻りつつあるが。

 優菜を抱っこしたまま玄関を出ようとしたところでピタリと泣き止んだ、見るとスヤスヤと眠りについている。

 離婚して優菜を一人で育て上げるにはどれくらいの金額が必要なのだろうか、養育費は約束しても払われない事が良くあるらしい、あの男は間違いなくしらばっくれるだろう。

「なんだ、泣き止んだか?」

「うん」

「じゃあこっちに来て座れよ、たまには一緒に飲もう」

 最近、夫は真っ直ぐ家に帰ってくる。優菜の顔が見たいから、なんて言っていたが愛人に振られただけに決まってる。実際娘を煙たがるように扱っている。

 自分の娘が可愛くないのだろうか、自らお腹を痛めたわけじゃない男は一生、本当の意味で父親の自覚はないのかも知れない。

 もっとも離婚の時に親権だの、月に一度は会いたいだの言われて、関係が半永久的に切れない方が苦痛だ。この男は離婚したら優菜に会うことはないだろう。一生。

「食器洗わないと、お風呂も」

「ん、ああ、そうか」

 無理強いはしてこない、それが唯一の収穫か。

 穏やかに、ひっそりと離婚計画を遂行していたのに激動の一年になってしまった。酷い目にもあったが大切な家族が出来た。

 これからはまた、以前のように空気のように生きていこう。波風立てずに、柳のように受け流す。

 そうして時期が来たら離婚して、優菜と二人。質素に生きていこう。六千万でどれくらい生きていけるかは未知数だが仕事だって選ばなければなんとかなる。


「なあ、二人目つくるか?」

 心を無にして食器を拭いていると後ろから抱きしめられ危うく皿を落としそうになる。耳元で囁かれた臭い息に寒気がした。

「え、ちょっとまだ……」

 冗談じゃない、さっさと離れろ。

「じゃあ外で出すから、いいだろ?」

 後ろからガサツに胸を揉んでくる。流石にここまで来た時に断るとまた暴れ出すかも知れない。

 穏やかに、静かに。

 結局、生活は元に戻った。相変わらず下手くそな愛撫、適当に感じているフリをしながら天井を見つめる。

「イクッ、中に出すぞ」

「うん」

 勝手にしろ。

 結婚して五年、離婚まであと五年一一。
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