44 / 56
44
しおりを挟む
「ちょっと優香、なんで会社に。しかも結婚するって。みんな大騒ぎしてたぞ。優菜まで連れてどーゆーつもりだよ」
話があると呼び出されて行ってみれば案の定、昼間に会社訪問した件だった。珍しく怒りが顔に出ている。
「どうって、先日のお礼に伺ったのよ」
「いや、それは良いけど。なんで優菜まで? 色々質問されて、なんて答えて良いか分からないだろ」
「何がわからないの? 優菜はあなたの子供で私たちは結婚する。単純な事じゃない」
「でも、それはずいぶん先の話だろ」
「もう、良いんじゃない。だいぶ溜まってきたしさ。そろそろ離婚して」
ゆうくんがしらばっくれてどこかに行く前に手を打たないと。浮気は許せないが一度くらいなら仕方がない。目をつむろう。
「いや、まだ早いだろ。ちゃんと財産が溜まってからの方が……」
「ゆうくんさ、早く一緒になりたくないの? 優菜と私と暮らしたくないの?」
歯切れが悪くなったゆうくんを詰めると、バツが悪くなった子供のようにぶつぶつと弁解しだした。
「いや、ほら。老後のためにも貯金はたくさんあった方が良いしさ。それに近くに住んでるから優菜にもちょくちょく会えるし」
「はぁ? そんな事言って最近は全然合わせてくれって言わないじゃない」
女と浮気する時間はあるくせに。
「いや、ほら。忙しくてさ。最近」
「愛美とこれ以上何かあったら許さないから」
「え?」
「この家に、あの女を連れ込んだら許さないって言ってるの」
「は? なんでそんな事しって一一」
ゆうくんはハッとして部屋の中を物色しだした。テレビの裏にある見慣れない電源タップを引っこ抜いて床に叩きつける。
「おまえ、盗聴してたのか?」
「当たり前でしょ、あなたには優菜の父親だっていう一一」
「キメーな」
「は?」
「気持ち悪いんだよ、人の家に盗聴器仕掛けるとか犯罪だろうが。ふざけんなよ!」
ドンっ! と胸の辺りを押されて後退する。気持ち悪い? わたしが? 自分が悪いのに何を言ってるんだろう。この人は。
「何言ってるの? 悪いのはあなたでしょ?」
「知るかよ!」
「なに逆ギレしてるのよ」
「何が悪いんだよ! 俺は結婚してないんだよ誰とも。女連れ込んで何が悪い? は、ふざけんなよ!」
「あなたには子供がいるのよ」
「はあ? 本当に俺の子かよ」
噂には聞いたことがある名台詞『本当に俺の子かよ』は思いのほかダメージが大きい。
「お前は旦那とやりまくってんだから旦那の子供かも知れねえだろ。いや、絶対にそうだ。あのガキ俺に全然似てねえもん」
あのガキ一一。
「そうだよ、俺は何も悪くねえよ」
何言ってるのこの人一一。
ガチャリと玄関の扉が開いて視線を送ると愛美が立っていた。綺麗にアイロンで巻かれた茶色い髪に小さな顔。
「あ、修羅場だったかな?」
お前のせいでな。
「あ、愛美。大丈夫だから入れよ」
は? この状況で入れるか普通。
「おれ愛美と付き合うことにしたからさ、優香とは別れるよ。鍵も返してくれないか?」
「えー! 本当ですか?」
愛美が歓喜の声をあげてゆうくんに抱きついた。
「でも赤ちゃんは?」
「あれは俺の子供じゃねえよ、この女がでっちあげて脅してきただけさ」
「やっば。ババアこっわ」
「おら、早く出ていけよ!」
強引に鍵を奪われて突き飛ばされた、そのまま玄関外の廊下まで押しやられると『バタン!』と扉が閉められる。
私はただその場に立ち尽くした。すると再び扉が開く。
「忘れものよ」
愛美が私の靴を放り投げた。廊下に転がる安物のパンプス。それをじっと眺めていた。その場でずっと。
話があると呼び出されて行ってみれば案の定、昼間に会社訪問した件だった。珍しく怒りが顔に出ている。
「どうって、先日のお礼に伺ったのよ」
「いや、それは良いけど。なんで優菜まで? 色々質問されて、なんて答えて良いか分からないだろ」
「何がわからないの? 優菜はあなたの子供で私たちは結婚する。単純な事じゃない」
「でも、それはずいぶん先の話だろ」
「もう、良いんじゃない。だいぶ溜まってきたしさ。そろそろ離婚して」
ゆうくんがしらばっくれてどこかに行く前に手を打たないと。浮気は許せないが一度くらいなら仕方がない。目をつむろう。
「いや、まだ早いだろ。ちゃんと財産が溜まってからの方が……」
「ゆうくんさ、早く一緒になりたくないの? 優菜と私と暮らしたくないの?」
歯切れが悪くなったゆうくんを詰めると、バツが悪くなった子供のようにぶつぶつと弁解しだした。
「いや、ほら。老後のためにも貯金はたくさんあった方が良いしさ。それに近くに住んでるから優菜にもちょくちょく会えるし」
「はぁ? そんな事言って最近は全然合わせてくれって言わないじゃない」
女と浮気する時間はあるくせに。
「いや、ほら。忙しくてさ。最近」
「愛美とこれ以上何かあったら許さないから」
「え?」
「この家に、あの女を連れ込んだら許さないって言ってるの」
「は? なんでそんな事しって一一」
ゆうくんはハッとして部屋の中を物色しだした。テレビの裏にある見慣れない電源タップを引っこ抜いて床に叩きつける。
「おまえ、盗聴してたのか?」
「当たり前でしょ、あなたには優菜の父親だっていう一一」
「キメーな」
「は?」
「気持ち悪いんだよ、人の家に盗聴器仕掛けるとか犯罪だろうが。ふざけんなよ!」
ドンっ! と胸の辺りを押されて後退する。気持ち悪い? わたしが? 自分が悪いのに何を言ってるんだろう。この人は。
「何言ってるの? 悪いのはあなたでしょ?」
「知るかよ!」
「なに逆ギレしてるのよ」
「何が悪いんだよ! 俺は結婚してないんだよ誰とも。女連れ込んで何が悪い? は、ふざけんなよ!」
「あなたには子供がいるのよ」
「はあ? 本当に俺の子かよ」
噂には聞いたことがある名台詞『本当に俺の子かよ』は思いのほかダメージが大きい。
「お前は旦那とやりまくってんだから旦那の子供かも知れねえだろ。いや、絶対にそうだ。あのガキ俺に全然似てねえもん」
あのガキ一一。
「そうだよ、俺は何も悪くねえよ」
何言ってるのこの人一一。
ガチャリと玄関の扉が開いて視線を送ると愛美が立っていた。綺麗にアイロンで巻かれた茶色い髪に小さな顔。
「あ、修羅場だったかな?」
お前のせいでな。
「あ、愛美。大丈夫だから入れよ」
は? この状況で入れるか普通。
「おれ愛美と付き合うことにしたからさ、優香とは別れるよ。鍵も返してくれないか?」
「えー! 本当ですか?」
愛美が歓喜の声をあげてゆうくんに抱きついた。
「でも赤ちゃんは?」
「あれは俺の子供じゃねえよ、この女がでっちあげて脅してきただけさ」
「やっば。ババアこっわ」
「おら、早く出ていけよ!」
強引に鍵を奪われて突き飛ばされた、そのまま玄関外の廊下まで押しやられると『バタン!』と扉が閉められる。
私はただその場に立ち尽くした。すると再び扉が開く。
「忘れものよ」
愛美が私の靴を放り投げた。廊下に転がる安物のパンプス。それをじっと眺めていた。その場でずっと。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします
暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。
いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。
子を身ごもってからでは遅いのです。
あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」
伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。
女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。
妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。
だから恥じた。
「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。
本当に恥ずかしい…
私は潔く身を引くことにしますわ………」
そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。
「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。
私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。
手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。
そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」
こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。
---------------------------------------------
※架空のお話です。
※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。
※現実世界とは異なりますのでご理解ください。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる