モラハラ夫との離婚計画 10年

桐谷 碧

文字の大きさ
上 下
36 / 56

36

しおりを挟む
「お邪魔しましたー。また明日ね」

 父と母が玄関で靴を履いているとガチャリと扉が開いた。夫は一瞬、眉間に寄せた皺をほどいて柔和な笑みを浮かべる。

「お義父さん、お義母さん。いらしてたんですか。言ってくれたら早く切り上げてきたのに」

「あら、誠一郎さん。お疲れ様。ごめんなさいね遅くまでお邪魔しちゃってぇ」

「全然良いですよ、それよりも優菜の面倒を見ていただいて感謝しかありません」

「いいの、いいの。どーせ暇だし、孫の顔も見れるから」

「恐縮です。今度は是非ご一緒に」

「楽しみにしてるわ、それじゃあおやすみなさい」

「はい、おやすみなさい。お気をつけて」

 もっと遅くなると予想していたが迂闊だった、夫は優しく扉を閉めるとコチラを振り向いた。

「ごめんね、たまには一緒にごは一一」

『バチンッ』

 シンプルなビンタが飛んできた。

「お前ら俺の悪口で盛り上がってただろ?」

「え、そんな事一一」

『バチンッ』

「じゃあなんであのジジイは不機嫌そうに俺を睨んでたんだよ」

 そうなのか、まるで気が付かなかったが。そう言えば父は一言も発しなかった。夫はダイニングの隅に置いてあるウーバーの配達用バックを蹴っ飛ばした。

「こんなど底辺がやるような仕事を嫁にやらせる旦那だって言ってたんだろーが!」

「そんな事言ってない一一」

『バチンッ』

「何でテメーはよりによってこんなクズがやる仕事してやがるんだ? アアッ! 俺への当てつけか?」

 無いんだよ、仕事が。

「そんな、時間が融通効くしさ。ダイエット効果もあって一石二鳥なんだよ」

「馬鹿かお前? A地点からB地点にただ物を運ぶ仕事。小学生でもできるど底辺の仕事を良い大人がやってて恥ずかしくねえのか?」

 だったらお前が全部出せよ。

「ごめんね、私なんの資格もないし。こんな仕事しか出来ないの」

「チッ! だったら親には内緒にするくらいの気遣いを見せろブス。テメーの親世代は女が働くのも許さない奴らだろーが」

 そこまで古くはない。母も数年前までパートで働いていた。が、口ごたえはしない。

「古臭えんだよ、考えがよぉ。だからお前みたいなすっとろい大人になるんだろうが。大丈夫だろうな? 優菜は」

「うん、大丈夫」

「何がだ?」

「え?」

「何が大丈夫なのか言ってみろ、簡潔にな」

 めんど臭え奴。なにかあったな外で。そんなものを私にぶつけるな。

「あの、だから。半分はあなたの血が入っているから、その。きっと優秀になるよ」

「だと良いがな」

 バーカ。入ってねえよ。

 夫は私の答えに満足したのかベビーベッドで眠る優菜の髪を撫でた。底なしの嫌悪感を全身で感じる。

 果たして持つのだろうか。

 あと六年も一一。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語

六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。

松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。 そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。 しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...