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「ごめん、家賃と光熱費なんだけど一一。しばらくお願いします……」

 私は派遣会社から契約を切られた。一年毎の更新だから仕方ないのだけれど、出産に伴う有給取得。これからの育児による早退、遅刻。諸々を加味しての首は明らかだった。

「はぁー!! 何やってんだよ、生活費は折半って決めただろうが。共働きなんだからよぉ」

 だったら家事を手伝え。

「ごめん、すぐに違う仕事探すから」

 あるのだろうか、赤ん坊を育てながらできる仕事なんて。

「貸しだからな、ちゃんと返せよ!」

「はい……」

 ぶつぶつと文句を垂れる夫にもう一つお願いをする。

「あのさ、引っ越さない?」

「ん?」

「もう一部屋ないと眠れないでしょ?」

 狭めの1LDK。タイミングを計ったように寝室から泣き声が聞こえてきた。


「ぎゃあああぁぁいあああいやあぁぁぁあああ!!」

 優菜が泣いている。少し、いや、かなり独特な鳴き声に最初は戸惑ったが今では慣れた。

「はいはい、どうしたの?」

 不思議なもので言葉でコミュニケーションが取れなくても何となく彼女が求めている事が何か分かるようになってきた。

 母乳を与えていると夫が寝室に入ってきた。うんざりしたような視線を優菜に向ける。

「引越しってどこにだよ? そんな金あんのか?」

「私の地元はどうかな? ここと同じ家賃で二LDK借りれると思うの。初期費用は私の貯金から出すし。実家が近いと何かと便利だからさ」

 本当のパパも近くに住んでるしね。

「はぁー。会社遠くなるじゃねえかよー」

「ぎゃあああぁぁいあああいやあぁぁぁあああ!!」

 優菜がまたタイミングよく泣き出す。私の意思が伝わっているのだろうか。

「チッ。うるっせえなあ。分かったよ。金はお前出せよ」

「うん。ありがとう、全部やっておくから」

 夫は寝室を出ようとしてコチラを振り返った。優菜を凝視しているように見える。

「俺も飲んでみたい……」

「へ?」

「母乳」

 気持ち悪い事を言うな。背筋がゾッとする。妊娠してから夫とはしていない。想像するだけで怖気が走る。

「なあ、良いだろ?」

 夫は寝室の電気を消して近づいてきた。優菜はいつの間にか寝息を立てて眠っている。

「ちょ、やめて」

「久しぶりにいいだろ?」

 ざらついた舌で今まで優菜が吸っていた乳首を舐め回される。やめて、優菜に病気がうつる。後で消毒しないと。

「ほら、咥えろよ」

「挿れるぞ」

「ハァハァ」

「イクイクイクイク!」

 夫。娘とはなんの血縁関係もない男。優菜にとってコイツは赤の他人。私は娘のすぐ隣で犯された。そんな気持ちだった。
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