上 下
14 / 56

14

しおりを挟む
 キッチンで朝食の準備をしていると、寝室から夫に呼ばれる。「優香ー! 優香ー!」

 はいはい、エプロンで手を拭きながら小走りで駆けつける。

「おい! 紺のスーツどうした?」

 お前が脱ぎっぱなしでしわくちゃだからクリーニングに出したんだよ馬鹿。

「クリーニングだけど……」

 言い終える前に夫の前蹴りが飛んできた、寝室からリビングまでふっ飛ばされる。

「痛っ」

 お腹をさする、内臓破裂はしていない。咄嗟に後ろにジャンプしてダメージを減らした。

「馬鹿かテメーは。今日は大事な商談があるんだよ。決める時はあのスーツって言っただろーがブス!」

 神に誓ってもいい。そんな事を言われたことはない。

「ご、ごめんね、シワだらけだったから」

「そもそもテメーはスーツくらいアイロン出来ねえのかよ! クリーニングもタダじゃねえんだぞ!」

 以前、スーツとシャツはクリーニングでパリッと仕上げないとダメだ! と発言したことは忘れているだろう。そして、クリーニング代は私が出している。

「ごめんね、今日はこっちのストライプの方で我慢して」

「たっくよー! 上手くいかなかったらテメーのせいだからな」

「うん、ごめん。気をつける」

 昨日の殊勝な態度はどこに消えさった? 結局3回も出しやがって。アフターピルは高いんだよクソ。

 毎週、月曜日の朝は機嫌が悪い。しかもこの日は昨夜のやり過ぎで眠いのだろう。さらに酷かった。

「あー、気分わりい」

 夫が目玉焼きにマヨネーズを掛けようとするが、もう中身がないのか全然出てこない。プスっ、プスっと間抜けな音が静かな食卓に響き渡る。私は笑いを堪えるのに必死だった。

『ガシャーン!!』

 キレた夫は右手でテーブルに乗った朝食を全て薙ぎ払った。味噌汁は飛び散り、ご飯茶碗は壁にダイレクトにぶつかり弾けた。

 その手で、箸を呆然と握る私の前髪を鷲掴みにすると、思い切り顔面をテーブルに叩きつけた。目の前に火花が散る。

「テメーは、なにニヤニヤしてやがるんだ? 死にてえのか! ああ!」

 頭上から聞こえる怒鳴り声。ああ、めんどくさい。早く死ねよコイツ。

「ドン臭え女だな! マヨネーズのストックくらい常備しておけブス」

 あるよ、冷蔵庫見ろ。

「ごめんね」

「もう行くわ、お前の顔見てるとイライラすっからよ」

 早く逝け。

 『バァン』と勢いよく閉められた扉、床に散乱した朝食。パタパタっとテーブルに落ちた鼻血を見ても全然平気。

 だって、会社に行けば恒くんに逢えるから――。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします

暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。 いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。 子を身ごもってからでは遅いのです。 あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」 伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。 女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。 妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。 だから恥じた。 「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。 本当に恥ずかしい… 私は潔く身を引くことにしますわ………」 そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。 「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。 私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。 手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。 そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」 こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

あなたの妻はもう辞めます

hana
恋愛
感情希薄な公爵令嬢レイは、同じ公爵家であるアーサーと結婚をした。しかしアーサーは男爵令嬢ロザーナを家に連れ込み、堂々と不倫をする。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

落ち込んでいたら綺麗なお姉さんにナンパされてお持ち帰りされた話

水無瀬雨音
恋愛
実家の花屋で働く璃子。落ち込んでいたら綺麗なお姉さんに花束をプレゼントされ……? 恋の始まりの話。

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方

ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。 注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

処理中です...