モラハラ夫との離婚計画 10年

桐谷 碧

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 他の女と名前を間違われるのは初めてじゃない。『あい』『のりこ』『めぐみ』

 私からは指摘しない。さっきみたいにとっさに出た時は本人は気がついてない可能性もある。

 ただセックスの最中に間違えた時はさすがにバツが悪かったのか「元カノなんだ、悪い」と謝ってきた。

 夕飯はいらない、急に機嫌が良くなった夫、間違えられた名前。少ないヒントから答えを導き出す。

 夜はえりこと食事。

 たいした推理でもないけど私は確信した。



「すみません、一時間ほど早く早退したいのですが……」


「珍しいね、大丈夫だよ。もしかしてデートかな? おっとこんな事を言ったらセクハラだ」

 経理部の責任者は白い歯を見せて笑った。30代後半、独身。女子社員に人気なのもうなずける二枚目だ。

「いえ、ちょっと用が」

 曖昧に濁して自席に座るとパソコンで検索する。

『不倫 慰謝料』

 一番分かりやすそうなサイトをクリックした。

 離婚に至る不倫は三百万円。離婚しなければ百万円。時効は三年。

 だめか……。

 私はため息をついた。目標まではまだ七年もある。えりことの不倫がそれまで続くとは考えにくい。

 まだ不倫かも分からないけど、念のため証拠は押さえておこう。

 夕方の五時、いつもより早く会社を出ると急いで家に帰った。押入れの奥にある紙袋、中身は変装セット。

 黒髪のカツラ、メガネ。就活で使ってた地味なリクルートスーツに着替えると、まるで入社一年目の新入社員のようだった。

 急いで家を飛び出した、夫の会社の定時は七時。ギリギリだ。

 ボロボロのビル、傾いた看板。その二階に夫が代表を務める会社がある。社員は二人。

 下から見上げまるとまだ電気は付いている、時間は七時五分前。当然か。

 私は入り口とは反対側の歩道、木の陰に隠れて様子を伺った。すでに外出しているかもしれない、そんな不安は五分で無くなる。

 定時きっかりに夫は現れた、二階の電気はついているから社員はまだいるようだ。

 スキップするように最寄駅に向かった。後を追う私。幸いオフィス街なのでまったく不自然じゃない。

 電車に少し揺られてついた駅は銀座だった。私を口説く時にもよくこの辺で食事した。

 派手な女の割合が増えたような気がしたが、その中でもいっそう目立つ、体のラインを強調したニットワンピを着た女が近づいてきた。夫は破顔して右手を軽く上げた。

 凹凸のない平らな私とは真逆なエロい女。夫が不倫しようがまったく構わないがなんかムカついた。すごく。


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