賞金王と呼ばれた男 〜童貞の果てしなき挑戦〜

桐谷 碧

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第三十五話 挑戦者

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『競艇界で行われていた八百長問題で、また新たな逮捕者がでました、競艇で不正に順位を落とした見返りに現金三千万円を受け取ったとして、東京地検特捜部は七日、元競艇選手の無職、川野洋次容疑者(32)=東京都練馬区=をモーターボート競走法違反(競走の公正を害する行為、収賄)の疑いで逮捕し発表した。川野容疑者は容疑を否認しており――』


 戸田競艇場の待機小屋では明日からのレースに向けて選手達がマシンの調製をしていた、佐藤は珍しく同じ場に斡旋になった小峠とラジオを聞きながらプロペラとエンジンの調製をしていた。

「これから、どーなっちまうのかねえ」

 ハンマーでプロペラを叩きながら小峠が呟いた。

「小峠さんはどうして八百長に参加しなかったんですか、白石って男に誘われたんでしょ」

「ん? ああ、八百長なんかして何が楽しいんだよ」

 武志が独自に作成した八百長リスト、ポイントトップの小峠は白だった、単純にスタートや成績にムラがあって上位に来てしまったようだ。

「小峠さんみたいに調子の波が激しい人間、僕なら使わないですけどね、危なくてしょうがないっす」

「ほっとけ」

「でも、どうして自分に紹介したんですか」

 それだけが引っかかっていた、あの時点で八百長の事を小峠は把握していたはずだ。

「表向きの契約内容分はキッチリと支払われる、八百長は論外だが白石あいつが言っていたことも一理ある」 

 実際に小峠がフライングを連発して半年の出走停止期間はしっかりと補償されたと言う。

「僕が八百長に加担してたら、どうするつもりだったんですか」

「お前は、やらないよ」

 小峠はペラをハンマーで何度も叩いているが、どうも気に食わないようだ、諦めてエンジンの調整を始めた。

 まあ、信頼してもらってるという事か、佐藤は無理やり納得すると、青空の下で黙々と練習する艇を目で追いかけた。

「誰っすか、あいつ」

 かなりのターンスピードだ、今節で小峠と自分以外にあれだけのターンをする選手がいただろうか、記憶が曖昧だった。

「お前もいつまでもボサっとしてると、下に抜かれるぞ」

 他の選手達も水面を凄まじいスピードでターンする艇を見て感嘆の声を上げている。
 
「誰だよあれ」

「新人の女だってよ」

「すごいターンするな」

「養成所のダントツ一位だってさ」
 
 皆から注目を浴びていたその選手は、ピットに戻るとヘルメットを外した。短くカットされたショートヘアをかき上げる。呆気にとられた佐藤の元まで来ると、人差し指をさして宣言した。

「絵梨香さんの代わりにはなれないけど、今日から私があなたのライバルよ」

 星野莉菜が宣言すると、周りから歓声が上がる。

「俺の新しい弟子だ、まあ、お前の弟弟子だな」

 小峠が紹介する。佐藤は星野屋の親父さんの言葉を思い出した。

 『うちのバカはよぉ、その子が目覚めた時に勇気を与える様な人間になるんだって、歩き出したよ』
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