23 / 38
第二十二話 先走る女
しおりを挟む
なんなのあいつ――。
絵梨香は部屋に戻ってからもシャンパンを空けて、一人部屋で飲んでいた、機嫌の悪さを察した佐藤は逃げるように大浴場に消えていったまま一向に戻ってこないでいる。
二人で温泉旅行に行こうなんて誘うから、てっきりあの時の約束を果たしてくれるのかと思っていた。それがなに。
『今は彼女の事が好きだよ』
はぁ! じゃあ私は何なのよ、恥ずかしいのにこんなにアピールして、普段は履かないスカートまで履いて、キスまでしたのに。それも私のファーストキスだったのに。
絵梨香はソファに置いてあったクッションに当たり散らすとやっと落ち着きを取り戻した、切り替えの速さは頭の良さに直結する、現状を把握して正しい行動を起こさなければ残るのは後悔だけだ。
『人事を尽くして、天命を待つ』
尊敬するプロ野球選手が座右の銘で色紙に書いていた、絵梨香はまだ自分に出来ることは何か、佐藤が何を考えているかを冷静に分析した。
まずは佐藤が絵梨香を温泉に誘った理由から洗う事にした、右手の違和感に効能があるかも知れないと言っていたが、恐らく嘘だ。それなら絵梨香である必要はない、おじさんや、おばさん、直子さん達、家族で来れば良いではないか。
『つまり佐藤は絵梨香と温泉旅行に来る必要があった』
次に、先程「ヤリたかっただけでしょう」と言う絵梨香の問に対して、佐藤は初めはそうだったが、今では彼女の事が好きだといったニュアンスの発言をした。
これも良く考えてみると矛盾がある、莉菜と名乗る女を佐藤が本当に好きになったのであれば、温泉旅行には彼女と来れば良いではないか。病室での一件もあるが事情を説明すれば無碍にはされないだろう、恐らく彼女は佐藤に好意を寄せているのだから。
『つまり佐藤が、莉菜を好きだと言ったのは嘘である』
絵梨香は偏差値八十以上の脳をフル回転させて、答えを導き出した。
佐藤は絵梨香の事を愛していた、しかし童貞の佐藤は中々その思いを口にする事が出来ないでいる、そんな時にまとまった休みと口実になる怪我を負った佐藤は、チャンスとばかりに絵梨香を温泉旅行に誘うことに成功する。病室のでキスの理由を問いただす佐藤、童貞の彼には絵梨香の行動理由が理解出来なかったに違いない、そして女性をセックスの対象にしか見ていないような男だと絵梨香に勘ぐられない為に、莉菜が好きだと嘘を付いた。
全ての点が線になって繋がった事に絵梨香は満足した、八方美人で見栄っ張り、彼の性格を理解しているつもりだったのに、つい冷静さを失ってしまった。
ここは自分が折れなくては、先に進まない「全く童貞の男って子供ねえ」と呟き、自分が処女であることは一旦棚に上げて佐藤の帰りを待っていると程よいタイミングで戻ってきた。
「大浴場も良いよ、すごく広かった」
濡れた髪を拭きながら話しかけてくる。
「おかえり、そうなんだ、私も入ろうかな」
満面の笑みで佐藤に微笑みかけると、ホッとしたような表情になる、機嫌が治ったと安堵しているのだろう、絵梨香はこれからの作戦を立てる為にも大浴場に入ることにした、少し飲みすぎた酔いを冷ますのにも良いだろう。
「じゃあ行ってきまーす」
バスタオル片手に部屋を出た、大浴場は別館の二階にあるようで、渡り廊下を経由してからエレベーターで二階に上がる。
『鮑追加、夕食前にお申し付けください』
『屋上貸切露天風呂、要予約、フロント迄』
エレベーター内に貼られたポスターを眺めながら絵梨香は閃いた、二階に到着したエレベーターでそのままもう一度、下の階に戻る、先程通った渡り廊下を逆走してフロントのスタッフに話かけた。
「すみません、貸切露天風呂ってまだ予約できますか?」
着物を着た、五十代くらいの品の良さそうな女性はニコリと笑みを浮かべて「承ります、お時間はどうされますか」と問いかけてきた。一時間単位の予約制で今ならどの時間帯も空いているとの事だ。
現在の時刻は九時、佐藤は今さっき風呂に入ったばかりなので十一時から予約する事にした。
絵梨香は不敵な笑みを浮かべると来た道を戻り大浴場に入った、ガラガラの下駄箱は一つだけ埋まっている、やはり平日はあまり客入りが良くないのだろうか、それとも食事後に風呂に入る人は余りいないのかも知れない。
帯を解き、浴衣を脱ぐと全裸になる、食べて飲んだせいでお腹がポッコリと出ていた。しまった、速く消化しなければ、こんなお腹を見られたら大変だ、息を吸い込み無理やり腹を引っ込める。
浴室への扉を開けると、ちょうど出るタイミングだった女性客とすれ違う「こんにちは」と挨拶したが返事は無かった。
失礼な女だな、と視線を送り絵梨香はギョっとする、形の良いバストはかなりのボリュームにも関わらず、重力に逆らい形を保っている、くびれた腰に胸とは逆に小さなお尻は、女性から見てもエロい身体だった。
俯いたまま通り過ぎた女の顔まで確認する事は出来なかったが、肌の張りからして、恐らくかなり若いだろう。
あれくらいインパクトがあるボディならば、ヤツもイチコロなのに、いやいや、足りない所はテクニックで――。処女だけど。
錯綜する思いの中なんとか自分を奮い立たせると、絵梨香は念入りに体を洗った。
絵梨香は部屋に戻ってからもシャンパンを空けて、一人部屋で飲んでいた、機嫌の悪さを察した佐藤は逃げるように大浴場に消えていったまま一向に戻ってこないでいる。
二人で温泉旅行に行こうなんて誘うから、てっきりあの時の約束を果たしてくれるのかと思っていた。それがなに。
『今は彼女の事が好きだよ』
はぁ! じゃあ私は何なのよ、恥ずかしいのにこんなにアピールして、普段は履かないスカートまで履いて、キスまでしたのに。それも私のファーストキスだったのに。
絵梨香はソファに置いてあったクッションに当たり散らすとやっと落ち着きを取り戻した、切り替えの速さは頭の良さに直結する、現状を把握して正しい行動を起こさなければ残るのは後悔だけだ。
『人事を尽くして、天命を待つ』
尊敬するプロ野球選手が座右の銘で色紙に書いていた、絵梨香はまだ自分に出来ることは何か、佐藤が何を考えているかを冷静に分析した。
まずは佐藤が絵梨香を温泉に誘った理由から洗う事にした、右手の違和感に効能があるかも知れないと言っていたが、恐らく嘘だ。それなら絵梨香である必要はない、おじさんや、おばさん、直子さん達、家族で来れば良いではないか。
『つまり佐藤は絵梨香と温泉旅行に来る必要があった』
次に、先程「ヤリたかっただけでしょう」と言う絵梨香の問に対して、佐藤は初めはそうだったが、今では彼女の事が好きだといったニュアンスの発言をした。
これも良く考えてみると矛盾がある、莉菜と名乗る女を佐藤が本当に好きになったのであれば、温泉旅行には彼女と来れば良いではないか。病室での一件もあるが事情を説明すれば無碍にはされないだろう、恐らく彼女は佐藤に好意を寄せているのだから。
『つまり佐藤が、莉菜を好きだと言ったのは嘘である』
絵梨香は偏差値八十以上の脳をフル回転させて、答えを導き出した。
佐藤は絵梨香の事を愛していた、しかし童貞の佐藤は中々その思いを口にする事が出来ないでいる、そんな時にまとまった休みと口実になる怪我を負った佐藤は、チャンスとばかりに絵梨香を温泉旅行に誘うことに成功する。病室のでキスの理由を問いただす佐藤、童貞の彼には絵梨香の行動理由が理解出来なかったに違いない、そして女性をセックスの対象にしか見ていないような男だと絵梨香に勘ぐられない為に、莉菜が好きだと嘘を付いた。
全ての点が線になって繋がった事に絵梨香は満足した、八方美人で見栄っ張り、彼の性格を理解しているつもりだったのに、つい冷静さを失ってしまった。
ここは自分が折れなくては、先に進まない「全く童貞の男って子供ねえ」と呟き、自分が処女であることは一旦棚に上げて佐藤の帰りを待っていると程よいタイミングで戻ってきた。
「大浴場も良いよ、すごく広かった」
濡れた髪を拭きながら話しかけてくる。
「おかえり、そうなんだ、私も入ろうかな」
満面の笑みで佐藤に微笑みかけると、ホッとしたような表情になる、機嫌が治ったと安堵しているのだろう、絵梨香はこれからの作戦を立てる為にも大浴場に入ることにした、少し飲みすぎた酔いを冷ますのにも良いだろう。
「じゃあ行ってきまーす」
バスタオル片手に部屋を出た、大浴場は別館の二階にあるようで、渡り廊下を経由してからエレベーターで二階に上がる。
『鮑追加、夕食前にお申し付けください』
『屋上貸切露天風呂、要予約、フロント迄』
エレベーター内に貼られたポスターを眺めながら絵梨香は閃いた、二階に到着したエレベーターでそのままもう一度、下の階に戻る、先程通った渡り廊下を逆走してフロントのスタッフに話かけた。
「すみません、貸切露天風呂ってまだ予約できますか?」
着物を着た、五十代くらいの品の良さそうな女性はニコリと笑みを浮かべて「承ります、お時間はどうされますか」と問いかけてきた。一時間単位の予約制で今ならどの時間帯も空いているとの事だ。
現在の時刻は九時、佐藤は今さっき風呂に入ったばかりなので十一時から予約する事にした。
絵梨香は不敵な笑みを浮かべると来た道を戻り大浴場に入った、ガラガラの下駄箱は一つだけ埋まっている、やはり平日はあまり客入りが良くないのだろうか、それとも食事後に風呂に入る人は余りいないのかも知れない。
帯を解き、浴衣を脱ぐと全裸になる、食べて飲んだせいでお腹がポッコリと出ていた。しまった、速く消化しなければ、こんなお腹を見られたら大変だ、息を吸い込み無理やり腹を引っ込める。
浴室への扉を開けると、ちょうど出るタイミングだった女性客とすれ違う「こんにちは」と挨拶したが返事は無かった。
失礼な女だな、と視線を送り絵梨香はギョっとする、形の良いバストはかなりのボリュームにも関わらず、重力に逆らい形を保っている、くびれた腰に胸とは逆に小さなお尻は、女性から見てもエロい身体だった。
俯いたまま通り過ぎた女の顔まで確認する事は出来なかったが、肌の張りからして、恐らくかなり若いだろう。
あれくらいインパクトがあるボディならば、ヤツもイチコロなのに、いやいや、足りない所はテクニックで――。処女だけど。
錯綜する思いの中なんとか自分を奮い立たせると、絵梨香は念入りに体を洗った。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
古屋さんバイト辞めるって
四宮 あか
ライト文芸
ライト文芸大賞で奨励賞いただきました~。
読んでくださりありがとうございました。
「古屋さんバイト辞めるって」
おしゃれで、明るくて、話しも面白くて、仕事もすぐに覚えた。これからバイトの中心人物にだんだんなっていくのかな? と思った古屋さんはバイトをやめるらしい。
学部は違うけれど同じ大学に通っているからって理由で、石井ミクは古屋さんにバイトを辞めないように説得してと店長に頼まれてしまった。
バイト先でちょろっとしか話したことがないのに、辞めないように説得を頼まれたことで困ってしまった私は……
こういう嫌なタイプが貴方の職場にもいることがあるのではないでしょうか?
表紙の画像はフリー素材サイトの
https://activephotostyle.biz/さまからお借りしました。
マキノのカフェ開業奮闘記 ~Café Le Repos~
Repos
ライト文芸
カフェ開業を夢見たマキノが、田舎の古民家を改装して開業する物語。
おいしいご飯がたくさん出てきます。
いろんな人に出会って、気づきがあったり、迷ったり、泣いたり。
助けられたり、恋をしたり。
愛とやさしさののあふれるお話です。
なろうにも投降中
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
お料理好きな福留くん
八木愛里
ライト文芸
会計事務所勤務のアラサー女子の私は、日頃の不摂生がピークに達して倒れてしまう。
そんなときに助けてくれたのは会社の後輩の福留くんだった。
ご飯はコンビニで済ませてしまう私に、福留くんは料理を教えてくれるという。
好意に甘えて料理を伝授してもらうことになった。
料理好きな後輩、福留くんと私の料理奮闘記。(仄かに恋愛)
1話2500〜3500文字程度。
「*」マークの話の最下部には参考にレシピを付けています。
表紙は楠 結衣さまからいただきました!
タイムトラベル同好会
小松広和
ライト文芸
とある有名私立高校にあるタイムトラベル同好会。その名の通りタイムマシンを制作して過去に行くのが目的のクラブだ。だが、なぜか誰も俺のこの壮大なる夢を理解する者がいない。あえて言えば幼なじみの胡桃が付き合ってくれるくらいか。あっ、いやこれは彼女として付き合うという意味では決してない。胡桃はただの幼なじみだ。誤解をしないようにしてくれ。俺と胡桃の平凡な日常のはずが突然・・・・。
気になる方はぜひ読んでみてください。SFっぽい恋愛っぽいストーリーです。よろしくお願いします。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる