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「作られた愛」の行方
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ナオミがユウキに向けて駆けつける間、その頭の中をいろいろな記憶がぐるぐる回っていた。
絶対にありえないはずの「二〇年前の思い出」が、その後の体験で埋没していた中から急速に浮上し、鮮やかに蘇ってくる。
記憶の中でナオミは全裸となって股間の熱情のままユウキの全てを求めていた。
絶対にありえない事だと理性がそれを否定する。
だがどれほど否定しても、ナオミの心はそれが事実だと叫んでいた。
また一歩ごとに羞恥心も膨れ上がっていく。そして恐れもあった。
もしもユウキに拒絶されてしまったら? それを考えただけで恐怖が走る。
しかしそれもどうでもいい。なぜなら探し求めていた「理想の男性」がいるのだから。
「あれ? 君は? どうしたんだい?」
息せき切って駆けつけてきたナオミを見て、ユウキは少しばかり困惑した様子で問いかけてくる。
このとき研修所の中庭にはユウキ以外は誰もいなかった。
やや不自然ではあるが、それに気を回す余裕などナオミには欠片もなかった。
「わ、わたしは……あなたの事が好きです!」
ナオミはユウキに出会った瞬間、思わず叫んでしまった。
本来ならば所長室から駆けつける僅かな間でも、ナオミがその優秀な頭脳を回転させたら、幾らでもかける言葉は出てきただろう。
しかし本当にこれ以外の言葉は何も思い浮かばなかったのだ。
初対面でこんなことを叫ぶなんて「ただの電波女」でしかないと、ナオミは自分でも思った。
「いきなり? そもそも君は誰なんだ?」
当たり前だが明らかにユウキは動揺している。
ナオミは自分でも「しまった」と思った。しかしもう今さらやり直す事も出来ない。
だがその瞬間、体が動いていた。
ナオミはユウキのたくましい首に手を回して抱きつき、その唇を合わせたのだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ユウキに口づけしたあとしばらくナオミは殆ど夢見心地だった。
気がつくと見知らぬ家にて何もかも脱ぎ捨てた状態で、ナオミとユウキはベッドの上で熱い口づけをかわしていた。
ベッドの下にはあれだけ憧れていた白い制服が乱雑に脱ぎ捨てられている。
もちろん羞恥心は大きかったが、それはユウキを見た瞬間、あっという間に押し流されていた。
たくましい腕、絡み合う舌、首筋を軽く噛まれたこと、片方の胸を弄ばれつつもう片方に口づけされたこと、そして男のシンボルを夢中になって求めていたこと、そこから放たれたものを喜んで飲み干したこと、次から次に起きる出来事は全て「二度目」だった。
「それではいいかい?」
ユウキの問いかけを受けて、熱情を発するナオミの秘部が、今まさにいきり立った男の象徴に貫かれようとした時、彼女の心に一つの光景が鮮やかに浮かび上がった。
それは「ユウキと一つになろうとするナオミを笑いながら見つめているミチコの姿」だった。
「きゃああ?!」
「ど、どうしたんだい?」
まさに一つになる寸前で相手の女性が悲鳴を挙げたら、やっぱり誰でも驚く。
そしてナオミの言葉は更に困惑するものだった。
「マ、ママが! ママが見ている!」
「え? 何を言っているんだい?」
反射的にユウキは周囲を見回すが、もちろん誰もいない。
「そんなわけないよ。他には誰もいないじゃないか」
「あ……ご、ごめんなさい」
ナオミの記憶ではこのとき、ミチコが二人の絡み合いを見ていた――そしてその後の事は覚えていない。
「初めてだって言っていたけど、もしかしてやっぱり辞めた方がいいかな? これから幾らでもこんな機会はあるだろうし……僕だって男だからもちろん君が欲しいよ。だけど無理をすることはないさ」
ユウキは優しげにナオミを気遣うように言う。
だがそれを聞いたナオミは一つの結論に達した。
(やっぱりこれは『二度目』ではなかったのね)
記憶の中の「一度目のユウキ」は表面的には今と寸分変わらない。だがナオミを案じて気遣うような事は全くなかった。
そしてナオミもまた「一度目のユウキ」は性欲の対象でしかなく、相手の気持ちなど考えもしなかった。
それを認識した瞬間、ナオミの心を縛っていたものは全て霧散していった。
「お願い! あなたが欲しいの! いますぐに! 私の初めてを、そしてこれからの全てをあなたに!」
「分かった。じゃあいくよ」
二人だけの部屋には、激しい愛のあえぎがそれから深夜まで何度も何度も繰り返し響き渡った。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
その日からナオミは家には帰ってこなくなった。
ミチコはひとり家で昔を思い出しつつ「祝杯」をあげている。
(私はあの娘にお預けを食らわせて、二〇年も待たせてしまったのだからね……その分の悦びを今、全身で感じているところでしょう)
ナオミがユウキと結ばれた時、その心も体も全て満たされ、もう二度と以前のナオミに戻らない事を分かっていた。
そうなる事はナオミが『誕生した日』に外ならぬミチコが定めたのだ。
ミチコはナオミから送られたメールを見て、改めて満足げに微笑む。
『一度目は止めてくれてありがとう。お母さんへ』
そのメッセージを見た瞬間、ミチコの僅かな心残りは消え去った。
絶対にありえないはずの「二〇年前の思い出」が、その後の体験で埋没していた中から急速に浮上し、鮮やかに蘇ってくる。
記憶の中でナオミは全裸となって股間の熱情のままユウキの全てを求めていた。
絶対にありえない事だと理性がそれを否定する。
だがどれほど否定しても、ナオミの心はそれが事実だと叫んでいた。
また一歩ごとに羞恥心も膨れ上がっていく。そして恐れもあった。
もしもユウキに拒絶されてしまったら? それを考えただけで恐怖が走る。
しかしそれもどうでもいい。なぜなら探し求めていた「理想の男性」がいるのだから。
「あれ? 君は? どうしたんだい?」
息せき切って駆けつけてきたナオミを見て、ユウキは少しばかり困惑した様子で問いかけてくる。
このとき研修所の中庭にはユウキ以外は誰もいなかった。
やや不自然ではあるが、それに気を回す余裕などナオミには欠片もなかった。
「わ、わたしは……あなたの事が好きです!」
ナオミはユウキに出会った瞬間、思わず叫んでしまった。
本来ならば所長室から駆けつける僅かな間でも、ナオミがその優秀な頭脳を回転させたら、幾らでもかける言葉は出てきただろう。
しかし本当にこれ以外の言葉は何も思い浮かばなかったのだ。
初対面でこんなことを叫ぶなんて「ただの電波女」でしかないと、ナオミは自分でも思った。
「いきなり? そもそも君は誰なんだ?」
当たり前だが明らかにユウキは動揺している。
ナオミは自分でも「しまった」と思った。しかしもう今さらやり直す事も出来ない。
だがその瞬間、体が動いていた。
ナオミはユウキのたくましい首に手を回して抱きつき、その唇を合わせたのだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ユウキに口づけしたあとしばらくナオミは殆ど夢見心地だった。
気がつくと見知らぬ家にて何もかも脱ぎ捨てた状態で、ナオミとユウキはベッドの上で熱い口づけをかわしていた。
ベッドの下にはあれだけ憧れていた白い制服が乱雑に脱ぎ捨てられている。
もちろん羞恥心は大きかったが、それはユウキを見た瞬間、あっという間に押し流されていた。
たくましい腕、絡み合う舌、首筋を軽く噛まれたこと、片方の胸を弄ばれつつもう片方に口づけされたこと、そして男のシンボルを夢中になって求めていたこと、そこから放たれたものを喜んで飲み干したこと、次から次に起きる出来事は全て「二度目」だった。
「それではいいかい?」
ユウキの問いかけを受けて、熱情を発するナオミの秘部が、今まさにいきり立った男の象徴に貫かれようとした時、彼女の心に一つの光景が鮮やかに浮かび上がった。
それは「ユウキと一つになろうとするナオミを笑いながら見つめているミチコの姿」だった。
「きゃああ?!」
「ど、どうしたんだい?」
まさに一つになる寸前で相手の女性が悲鳴を挙げたら、やっぱり誰でも驚く。
そしてナオミの言葉は更に困惑するものだった。
「マ、ママが! ママが見ている!」
「え? 何を言っているんだい?」
反射的にユウキは周囲を見回すが、もちろん誰もいない。
「そんなわけないよ。他には誰もいないじゃないか」
「あ……ご、ごめんなさい」
ナオミの記憶ではこのとき、ミチコが二人の絡み合いを見ていた――そしてその後の事は覚えていない。
「初めてだって言っていたけど、もしかしてやっぱり辞めた方がいいかな? これから幾らでもこんな機会はあるだろうし……僕だって男だからもちろん君が欲しいよ。だけど無理をすることはないさ」
ユウキは優しげにナオミを気遣うように言う。
だがそれを聞いたナオミは一つの結論に達した。
(やっぱりこれは『二度目』ではなかったのね)
記憶の中の「一度目のユウキ」は表面的には今と寸分変わらない。だがナオミを案じて気遣うような事は全くなかった。
そしてナオミもまた「一度目のユウキ」は性欲の対象でしかなく、相手の気持ちなど考えもしなかった。
それを認識した瞬間、ナオミの心を縛っていたものは全て霧散していった。
「お願い! あなたが欲しいの! いますぐに! 私の初めてを、そしてこれからの全てをあなたに!」
「分かった。じゃあいくよ」
二人だけの部屋には、激しい愛のあえぎがそれから深夜まで何度も何度も繰り返し響き渡った。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
その日からナオミは家には帰ってこなくなった。
ミチコはひとり家で昔を思い出しつつ「祝杯」をあげている。
(私はあの娘にお預けを食らわせて、二〇年も待たせてしまったのだからね……その分の悦びを今、全身で感じているところでしょう)
ナオミがユウキと結ばれた時、その心も体も全て満たされ、もう二度と以前のナオミに戻らない事を分かっていた。
そうなる事はナオミが『誕生した日』に外ならぬミチコが定めたのだ。
ミチコはナオミから送られたメールを見て、改めて満足げに微笑む。
『一度目は止めてくれてありがとう。お母さんへ』
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