15 / 17
ふたりの母
しおりを挟む
あっという間にナオミが姿を消したあと、ミチコは椅子に腰掛けて大きく安堵の息をはく。
「上手くいったわ……いくら何でも入所式当日に人前であんな姿をさらすわけにはいかないからね……」
今や遠い昔の事となった、二〇年前の「最終テスト」を思い出してミチコは苦笑した。
そしてまたしても扉が開き、今度は白髪の増えたケイが姿を見せる。
「全て順調にいったわね。ありがとうケイ」
「仕込みは十分です」
実はケイは「就職したら息子には一人暮らしをさせる」と言う事で研究所近くの借りた一軒家に「たまたま今日から」ユウキを引っ越しさせていたのだ。
つまり「誰はばかることなく、二人だけで幾らでも過ごせる場所」がある。
もちろんナオミを「お持ち帰り」するためユウキには車で研究所に来させていた。
「もしかしてユウキ君の家には盗聴器や隠しカメラまで仕込んでないでしょうね?」
「そんな事はしませんよ。私は所長ではないのですから」
ナオミの軽口に対しケイは皮肉で答えつつ、僅かに表情を曇らせる。
「ただ……あの子、ユウキは自慢の息子ですけど、ちょっと優しすぎるところが心配です」
ケイは息子ユウキを文武両道・知勇兼備に育て上げ、ユウキもその期待に十分応えて立派に成長し、ナオミにふさわしい男になったと母親のひいき目抜きに自負している。
大学もナオミに劣らない一流大学を主席で卒業し、トライアスロンなど各種の競技で大学で一番の優秀な成績を残したスポーツマンである。
正直で優しい性格もあって子供の頃から人望も厚く、教師・生徒問わず多くの人間に信頼されてきた。
そこまで卓越した男でなくとも、ナオミは二〇年前に精神操作装置機によって刻み込まれた通りにユウキを求め愛した事は分かっている。
だがケイもそれにあぐらをかく事なくユウキを鍛え上げた。
もちろん女性にも人気は高かったが、ケイとミチコが手を回してあまり深い関係には発展しないようにしていたのだ――客観的に見れば明らかな「毒親」の行動であるが、ナオトに行った仕打ちを考えれば些細な事だろう。
ただユウキは人並み以上に気性が優しいことからナオミの尋常でない様子を気遣って、むしろ一歩退いてしまうのではないかとケイは思っていたのだ。
「それは大丈夫よ。子供が思い通りに成長しない事なんて当たり前だけど、愛を込めてやってみればあんがい上手くいくものだからね」
「それをあなたが言いますか……」
あえて口にはしないが、ケイはユウキを育てるにあたっては一切「機械」を使いはしなかった。
むろんユウキが順調に育ってくれた事が最大の理由ではあるが、少なくともその点だけでも「親」として自分はミチコよりも勝っているとケイは思っていた。
だがそんなケイの心を見透かしたかのように、ミチコは唇の端をあげる。
「もちろんよ。本気で愛しているのならばたとえどんな手を使ってでも、子供を一人前に育てたいと思うのは当然でしょう?」
「それは見解の相違というものですね」
ここでケイとミチコは揃って「母親」としての笑みを浮かべた。
「上手くいったわ……いくら何でも入所式当日に人前であんな姿をさらすわけにはいかないからね……」
今や遠い昔の事となった、二〇年前の「最終テスト」を思い出してミチコは苦笑した。
そしてまたしても扉が開き、今度は白髪の増えたケイが姿を見せる。
「全て順調にいったわね。ありがとうケイ」
「仕込みは十分です」
実はケイは「就職したら息子には一人暮らしをさせる」と言う事で研究所近くの借りた一軒家に「たまたま今日から」ユウキを引っ越しさせていたのだ。
つまり「誰はばかることなく、二人だけで幾らでも過ごせる場所」がある。
もちろんナオミを「お持ち帰り」するためユウキには車で研究所に来させていた。
「もしかしてユウキ君の家には盗聴器や隠しカメラまで仕込んでないでしょうね?」
「そんな事はしませんよ。私は所長ではないのですから」
ナオミの軽口に対しケイは皮肉で答えつつ、僅かに表情を曇らせる。
「ただ……あの子、ユウキは自慢の息子ですけど、ちょっと優しすぎるところが心配です」
ケイは息子ユウキを文武両道・知勇兼備に育て上げ、ユウキもその期待に十分応えて立派に成長し、ナオミにふさわしい男になったと母親のひいき目抜きに自負している。
大学もナオミに劣らない一流大学を主席で卒業し、トライアスロンなど各種の競技で大学で一番の優秀な成績を残したスポーツマンである。
正直で優しい性格もあって子供の頃から人望も厚く、教師・生徒問わず多くの人間に信頼されてきた。
そこまで卓越した男でなくとも、ナオミは二〇年前に精神操作装置機によって刻み込まれた通りにユウキを求め愛した事は分かっている。
だがケイもそれにあぐらをかく事なくユウキを鍛え上げた。
もちろん女性にも人気は高かったが、ケイとミチコが手を回してあまり深い関係には発展しないようにしていたのだ――客観的に見れば明らかな「毒親」の行動であるが、ナオトに行った仕打ちを考えれば些細な事だろう。
ただユウキは人並み以上に気性が優しいことからナオミの尋常でない様子を気遣って、むしろ一歩退いてしまうのではないかとケイは思っていたのだ。
「それは大丈夫よ。子供が思い通りに成長しない事なんて当たり前だけど、愛を込めてやってみればあんがい上手くいくものだからね」
「それをあなたが言いますか……」
あえて口にはしないが、ケイはユウキを育てるにあたっては一切「機械」を使いはしなかった。
むろんユウキが順調に育ってくれた事が最大の理由ではあるが、少なくともその点だけでも「親」として自分はミチコよりも勝っているとケイは思っていた。
だがそんなケイの心を見透かしたかのように、ミチコは唇の端をあげる。
「もちろんよ。本気で愛しているのならばたとえどんな手を使ってでも、子供を一人前に育てたいと思うのは当然でしょう?」
「それは見解の相違というものですね」
ここでケイとミチコは揃って「母親」としての笑みを浮かべた。
0
お気に入りに追加
21
あなたにおすすめの小説


体育座りでスカートを汚してしまったあの日々
yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる