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「娘」の誕生
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注意深く計算された精神操作を予定通りに完了すると、ミチコは全ての機器をナオミから取り外し、そこで緊張を込めて問いかけた。
「ナオミ。あなたが一番好きなものは何かしら?」
「もちろんママ! あたしのママは世界一よ!」
ナオミは何の躊躇も無く、力強く返答した。
その表情は本心からママに対する深い愛情に満ちあふれていた。
「あなたが大きくなったらなりたいものは何?」
「ママと同じお仕事をしたいわ。あと……」
ナオミは少しばかりはにかみつつ答えた。
「あたしは可愛いお嫁さんになりたいの」
「大丈夫。あなたならきっとなれるわ」
ミチコは心から満足してナオミを抱きしめた。
「それは本当?」
「もちろんよ。愛する私の娘。ナオミ。さあこれを着なさい」
そこでミチコはナオミにかわいいドレスを着せた。
「今日はあなたの誕生日。これから家でパーティよ」
「ありがとう! ママ!」
「これは誕生日プレゼントよ。気に入ってくれるかしら」
そう言ってミチコは知的な風貌の女性科学者をかたどった人形を娘に手渡した。
「嬉しい! これはあたしの欲しかった人形よ!」
ナオミは母からのプレゼントに対し、心からの喜びを示して人形に頬ずりした。
彼女は本当にこの女性科学者の人形が、あらゆるオモチャの中で一番好きだったのだ。
これから毎日、ナオミはこの人形と共に過ごし、ベッドで抱きしめて眠り、将来の理想像として憧れる、美しい女性科学者として成長した己の姿を夢に見るだろう。
「それはよかったわね」
「うん! ずっと大事にするわ!」
少女らしいドレスを着て、科学者の人形をしっかり抱えながらナオミは大いに喜び、ママが手を持って建物から彼女を導くと晴れやかに微笑んだ。
(私の娘……いえ、違うわ。『私とナオトの娘』は完璧に仕上がったわ)
ナオミの反応は全てに渡ってミチコを喜ばせるものだった。
再教育されたその精神はミチコの望む「理想の娘」として新たに構築された。
そしてミチコは彼女の新しい娘を車に乗せて家に向かった。
帰る途中、ナオミは助手席のチャイルドシートで新しい人形を大切そうに抱きしめつつ、満足げな笑顔を浮かべて眠っていた。
「疲れたのね。ナオミ。本当にかわいらしいこと」
ミチコは幸せな寝息を立てている娘を見ながら、同じぐらい幸せそうにつぶやいた。
特別に科学を愛する事をはじめあらゆる面でナオミ――ミチコのかつての夫であるナオト――をミチコの理想に合致する四歳の少女にすることが計画の全貌であったのだ。
ナオミの科学に対する愛は、母親への憧れと共に育ち、彼女は将来、ミチコの跡を継いで素晴らしい科学者になるだろう。
定められた通りナオミは大人になったところでユウキに出会い、互いに愛し合い、かつてミチコが望んだ――そして手に入れられなかった――満ち足りた夫婦関係を築く事になる。
ミチコの計画は完全に機能し始めた。
どこから見ても、今のナオミはママが大好きな、かわいらしい少女そのものだった。
彼女が並外れた能力を持つ健全な女性――美しく、賢く、女らしく、幸せな家庭を持ち、それでいて自らの確固たる意志を持つ一人の女性――へと成長する事が、母であるミチコの願いなのだ。
ナオミの四歳児に不釣り合いなこれまでの記憶は消えるワケでは無いが、今後の記憶や体験に埋没し、次第に曖昧になっていく。
大人になった時には、ナオトの人生や研究所で受けたテストについては、全て幼い頃の夢のように感じられ、それに対しナオミなりに辻褄を合わせるだろう。
ただ記憶が曖昧になってもナオミのかつての人生から得られた経験は、その非凡な才能の助けとなるのも間違いない。
三十年前、四歳の少年だったナオトは父親を失った耐え難い苦痛の中にいて、そのつらい思い出はずっと彼を離さなかった。
そしてナオミもまた今は父親のいない四歳の少女だった。
だけどそのママは、彼女がかつて少年だったときとは異なり、ナオミが正常な精神的に安定した女性として成長することを保証するだろう。
そして時が流れた――
「ナオミ。あなたが一番好きなものは何かしら?」
「もちろんママ! あたしのママは世界一よ!」
ナオミは何の躊躇も無く、力強く返答した。
その表情は本心からママに対する深い愛情に満ちあふれていた。
「あなたが大きくなったらなりたいものは何?」
「ママと同じお仕事をしたいわ。あと……」
ナオミは少しばかりはにかみつつ答えた。
「あたしは可愛いお嫁さんになりたいの」
「大丈夫。あなたならきっとなれるわ」
ミチコは心から満足してナオミを抱きしめた。
「それは本当?」
「もちろんよ。愛する私の娘。ナオミ。さあこれを着なさい」
そこでミチコはナオミにかわいいドレスを着せた。
「今日はあなたの誕生日。これから家でパーティよ」
「ありがとう! ママ!」
「これは誕生日プレゼントよ。気に入ってくれるかしら」
そう言ってミチコは知的な風貌の女性科学者をかたどった人形を娘に手渡した。
「嬉しい! これはあたしの欲しかった人形よ!」
ナオミは母からのプレゼントに対し、心からの喜びを示して人形に頬ずりした。
彼女は本当にこの女性科学者の人形が、あらゆるオモチャの中で一番好きだったのだ。
これから毎日、ナオミはこの人形と共に過ごし、ベッドで抱きしめて眠り、将来の理想像として憧れる、美しい女性科学者として成長した己の姿を夢に見るだろう。
「それはよかったわね」
「うん! ずっと大事にするわ!」
少女らしいドレスを着て、科学者の人形をしっかり抱えながらナオミは大いに喜び、ママが手を持って建物から彼女を導くと晴れやかに微笑んだ。
(私の娘……いえ、違うわ。『私とナオトの娘』は完璧に仕上がったわ)
ナオミの反応は全てに渡ってミチコを喜ばせるものだった。
再教育されたその精神はミチコの望む「理想の娘」として新たに構築された。
そしてミチコは彼女の新しい娘を車に乗せて家に向かった。
帰る途中、ナオミは助手席のチャイルドシートで新しい人形を大切そうに抱きしめつつ、満足げな笑顔を浮かべて眠っていた。
「疲れたのね。ナオミ。本当にかわいらしいこと」
ミチコは幸せな寝息を立てている娘を見ながら、同じぐらい幸せそうにつぶやいた。
特別に科学を愛する事をはじめあらゆる面でナオミ――ミチコのかつての夫であるナオト――をミチコの理想に合致する四歳の少女にすることが計画の全貌であったのだ。
ナオミの科学に対する愛は、母親への憧れと共に育ち、彼女は将来、ミチコの跡を継いで素晴らしい科学者になるだろう。
定められた通りナオミは大人になったところでユウキに出会い、互いに愛し合い、かつてミチコが望んだ――そして手に入れられなかった――満ち足りた夫婦関係を築く事になる。
ミチコの計画は完全に機能し始めた。
どこから見ても、今のナオミはママが大好きな、かわいらしい少女そのものだった。
彼女が並外れた能力を持つ健全な女性――美しく、賢く、女らしく、幸せな家庭を持ち、それでいて自らの確固たる意志を持つ一人の女性――へと成長する事が、母であるミチコの願いなのだ。
ナオミの四歳児に不釣り合いなこれまでの記憶は消えるワケでは無いが、今後の記憶や体験に埋没し、次第に曖昧になっていく。
大人になった時には、ナオトの人生や研究所で受けたテストについては、全て幼い頃の夢のように感じられ、それに対しナオミなりに辻褄を合わせるだろう。
ただ記憶が曖昧になってもナオミのかつての人生から得られた経験は、その非凡な才能の助けとなるのも間違いない。
三十年前、四歳の少年だったナオトは父親を失った耐え難い苦痛の中にいて、そのつらい思い出はずっと彼を離さなかった。
そしてナオミもまた今は父親のいない四歳の少女だった。
だけどそのママは、彼女がかつて少年だったときとは異なり、ナオミが正常な精神的に安定した女性として成長することを保証するだろう。
そして時が流れた――
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yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。
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