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妻の結論
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数分後、ガラスの中でナオミの身体の縮小がようやく止まり、変化は完了された。
ナオミの少し前まで柔らかく豊満だった胸は平らになっていた。
もちろん胸がそうなったからと言って男のシンボルが戻ったわけではない。
腕も足も先ほどより更にずっと細く短く、無力に感じられる。
何よりいかなるものも越えて彼女の心と体を焦がしていた股間の熱情は、もう影も形も残っていなかった。
その一方で周囲のものは何もかもが大きくなっているように見える。
二十代前半だったナオミはいま、そこから更に二十歳若返った姿になっていた。
それは三十年前、ナオトが父親を失った時と同じ年齢である四歳――ただし今は少女――の体だったのだ。
ミチコは泣いている幼い少女のために深い悲しみを感じ、すぐにナオミの痛みを終わらせることを望んだ。
それが出来る唯一の方法は彼女に対し、精神操作装置を再度使うことであった。
少女は改めて教育される必要があったのだ。
今のナオミも先ほどまで精神操作装置に教えられた事は覚えていたが、男性に対する欲望は一時的に失われた状態だった。
小さい少女は性的に興奮する身体を持っていないので、男性を見ても反応出来ないのだ。
ただし彼女の心の中には、花嫁となった自分の晴れやかなイメージや子を産み母となる喜びは残っていた。
いずれにせよある意味で、彼女は一時的な記憶喪失に近い状態だと言えるだろう。
幼女となったナオミの身体が再び――もちろん今度は通常のスピードで――成長した時に、彼女は男性と共に過ごす事の興奮と喜びを取り戻すのだ。
その時には機械によって心に刻み込まれたように、強く、たくましく、それでいて知性を併せ持った優秀な男性を、もちろんなによりも大きな男のシンボルを求めるだろう。
そして二〇年後、ナオミが美しく成長し、ケイの息子ユウキと出会ったその瞬間、恋に落ちて、熱烈な愛と共に二人は結婚し、子供をもうけて仲睦まじい家庭を作るのだ。
それはミチコとその研究を支援している組織との間に結ばれた契約の一部だった。
組織がいかなる意図を持って、ユウキとナオミが結ばれることをミチコに要求したのかは彼女も知らない。
恐らくは遺伝子再配列装置の長期的な効果を確認したいという意図があるのだろうと、ミチコは想像していた。
(だけど……そんなの些細な事だわ)
何より「将来、ナオミが幸せな家庭を築く」のはミチコの望みでもあり、だから組織の申し出をミチコは喜んで受け入れたのだ。
万が一にもナオトのように「子供を持つことを恐れる」事が無いよう、子を生み育む喜びも入念にその心に植え付けていた。
「そんな先を考えるよりも、今は目の前の事よ」
この新しい四歳の少女ナオミは、年齢相応に振る舞うことを学ばねばならない。
しかしながら、ミチコは精神操作装置にすぐに連れて行かなかった。
ミチコはただガラスを開けて、まずはその腕に泣いているナオミを抱きしめようと近づいた。
「これはいったい……」
ナオミは何が起こっていたか理解することができなかった。
彼女はそれほど小さかったのだ。
今のナオミはまるでおとぎ話の『小人』のようだった。
目の前にいるミチコの姿は以前と何も変わらないが、それでもそびえるような巨人に見えた。
近寄ってきたミチコに対して、ナオミは手足を振って激しく抗う。
ミチコが彼女を抱きしめたときも、ナオミは叫び続けた。
「いやあああ!」
「落ち着いて。大丈夫よ」
今のナオミの力では「巨人」となったミチコを振りほどく事など出来るはずもなく、彼女はしばらくその腕の中で もがき続けた。
一方でミチコは泣き叫ぶナオミをなでながら、可能な限り上手に慰めようと試みていた。
数分たってから、ナオミはようやく少しは落ち着いてミチコに問いかける。
「なぜこんなことをした……」
「私は子供が欲しかった。だけどあなたは子供を与えてはくれなかった。だからあなたを『私たちの子供』に変えたのよ」
「それはどういう意味……」
「いまのあなたの遺伝子は私とあなたの古い遺伝子、そう……ナオトの遺伝子が混じり合ってるの」
ミチコがナオトを性転換させたとき、もっとも重視していたのはその遺伝子が『自分達夫婦の子供』としてふさわしいものになる事だったのだ。
「だからあなたは紛れもなくナオトと私の間に出来た娘、ナオミなのよ」
「そんな馬鹿な!」
ナオミは最終的に何が起こっていたか理解した。
彼女はいま疑いも無く『妻と自分自身の子供』だったのだ。
これは彼女の妻の歪んだ心がもたらした、二人の間の愛を救う方法であった
崩壊しようとした家庭を救うおうとした、かつての妻がこれを望んだのだ。
ミチコはもう夫であるナオトを男として愛さなくなり、そのため子供として愛することが出来るようにナオミに変えたのである。
ナオミの少し前まで柔らかく豊満だった胸は平らになっていた。
もちろん胸がそうなったからと言って男のシンボルが戻ったわけではない。
腕も足も先ほどより更にずっと細く短く、無力に感じられる。
何よりいかなるものも越えて彼女の心と体を焦がしていた股間の熱情は、もう影も形も残っていなかった。
その一方で周囲のものは何もかもが大きくなっているように見える。
二十代前半だったナオミはいま、そこから更に二十歳若返った姿になっていた。
それは三十年前、ナオトが父親を失った時と同じ年齢である四歳――ただし今は少女――の体だったのだ。
ミチコは泣いている幼い少女のために深い悲しみを感じ、すぐにナオミの痛みを終わらせることを望んだ。
それが出来る唯一の方法は彼女に対し、精神操作装置を再度使うことであった。
少女は改めて教育される必要があったのだ。
今のナオミも先ほどまで精神操作装置に教えられた事は覚えていたが、男性に対する欲望は一時的に失われた状態だった。
小さい少女は性的に興奮する身体を持っていないので、男性を見ても反応出来ないのだ。
ただし彼女の心の中には、花嫁となった自分の晴れやかなイメージや子を産み母となる喜びは残っていた。
いずれにせよある意味で、彼女は一時的な記憶喪失に近い状態だと言えるだろう。
幼女となったナオミの身体が再び――もちろん今度は通常のスピードで――成長した時に、彼女は男性と共に過ごす事の興奮と喜びを取り戻すのだ。
その時には機械によって心に刻み込まれたように、強く、たくましく、それでいて知性を併せ持った優秀な男性を、もちろんなによりも大きな男のシンボルを求めるだろう。
そして二〇年後、ナオミが美しく成長し、ケイの息子ユウキと出会ったその瞬間、恋に落ちて、熱烈な愛と共に二人は結婚し、子供をもうけて仲睦まじい家庭を作るのだ。
それはミチコとその研究を支援している組織との間に結ばれた契約の一部だった。
組織がいかなる意図を持って、ユウキとナオミが結ばれることをミチコに要求したのかは彼女も知らない。
恐らくは遺伝子再配列装置の長期的な効果を確認したいという意図があるのだろうと、ミチコは想像していた。
(だけど……そんなの些細な事だわ)
何より「将来、ナオミが幸せな家庭を築く」のはミチコの望みでもあり、だから組織の申し出をミチコは喜んで受け入れたのだ。
万が一にもナオトのように「子供を持つことを恐れる」事が無いよう、子を生み育む喜びも入念にその心に植え付けていた。
「そんな先を考えるよりも、今は目の前の事よ」
この新しい四歳の少女ナオミは、年齢相応に振る舞うことを学ばねばならない。
しかしながら、ミチコは精神操作装置にすぐに連れて行かなかった。
ミチコはただガラスを開けて、まずはその腕に泣いているナオミを抱きしめようと近づいた。
「これはいったい……」
ナオミは何が起こっていたか理解することができなかった。
彼女はそれほど小さかったのだ。
今のナオミはまるでおとぎ話の『小人』のようだった。
目の前にいるミチコの姿は以前と何も変わらないが、それでもそびえるような巨人に見えた。
近寄ってきたミチコに対して、ナオミは手足を振って激しく抗う。
ミチコが彼女を抱きしめたときも、ナオミは叫び続けた。
「いやあああ!」
「落ち着いて。大丈夫よ」
今のナオミの力では「巨人」となったミチコを振りほどく事など出来るはずもなく、彼女はしばらくその腕の中で もがき続けた。
一方でミチコは泣き叫ぶナオミをなでながら、可能な限り上手に慰めようと試みていた。
数分たってから、ナオミはようやく少しは落ち着いてミチコに問いかける。
「なぜこんなことをした……」
「私は子供が欲しかった。だけどあなたは子供を与えてはくれなかった。だからあなたを『私たちの子供』に変えたのよ」
「それはどういう意味……」
「いまのあなたの遺伝子は私とあなたの古い遺伝子、そう……ナオトの遺伝子が混じり合ってるの」
ミチコがナオトを性転換させたとき、もっとも重視していたのはその遺伝子が『自分達夫婦の子供』としてふさわしいものになる事だったのだ。
「だからあなたは紛れもなくナオトと私の間に出来た娘、ナオミなのよ」
「そんな馬鹿な!」
ナオミは最終的に何が起こっていたか理解した。
彼女はいま疑いも無く『妻と自分自身の子供』だったのだ。
これは彼女の妻の歪んだ心がもたらした、二人の間の愛を救う方法であった
崩壊しようとした家庭を救うおうとした、かつての妻がこれを望んだのだ。
ミチコはもう夫であるナオトを男として愛さなくなり、そのため子供として愛することが出来るようにナオミに変えたのである。
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yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。
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