愛する家庭を守るため 病んだ妻が決断したのは「夫を娘にする」事だった

高崎三吉

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 気絶しているナオミ――かつてのナオト――からガラスが上がったところで、ケイは若返り女性となったその姿を改めて確認し、感嘆の声をあげた。
 どこから見てもナオミは若く美しい女性そのものだった。

「これだけ短時間で染色体や遺伝子を完全に変化させ、若返りさせるとはミチコ主任の技術は素晴らしいです」
「そうね。五年前にあなたでテストした時は、もっと時間がかかったものね」
「それは言わないでください……」

 ケイは恥ずかしげに顔を背ける。
 五年前の彼女は、同じくケイという名前の男性だった。
 もちろん優秀な学者でありミチコの同僚であったのだが、女にだらしなくミチコを口説こうとしたのである。
 そんなケイをミチコは騙して遺伝子再配置装置の実験に使い、女のケイへと変えたのだった。
 もちろん今の機械はその時よりもずっと進歩しており、はるかに短時間でより自在に被験者を変えることが出来るのだ。
 ケイの時は単に相手を「女性体」に変えるだけだったのが、今は若返らせた上に遺伝子にもミチコの希望に添って手を加える事が出来るようになっていた。

「ところであなたの息子、ユウキ君はお元気かしら?」
「もちろんです。つい先日、四歳の誕生日を迎えました。やんちゃ盛りで困ったものです」
「そう……うらやましい限りね」

 ミチコは本当にケイに羨望の視線を注いでいた。
 五年前に性転換実験の一環として生殖機能を試すべく、ケイを妊娠させて生まれた子供がユウキだったのだが、今ではむしろミチコの方がケイをうらやんでいたのだ。

「あなたもすぐに私と同じように愛のある家庭を作れますよ」
「ありがとう」

 そこでミチコは表情を引き締めた。

「それでは次の段階に進みましょう」
「分かりました」

 ケイの合図と共に男が二人出てきて、意識を失ったナオミを両脇から抱えて起き上がらせる。

「う……うう……」

 朦朧としているナオミは次の部屋に連れて行かれた。

「こ、ここは? あ?! お、俺はどうなったんだ!」

 意識を取り戻したナオミは自分の身体を見下ろし、そして悪夢が現実だったことを悟って絶句した。

「こんなことが……」

 ナオミが呆然としている間に、椅子の前に連れて行かれた。
 それには拘束具が取り付けられ、周囲に無数のケーブルやチューブで覆われている。
 そこでケイがナオミに命令を下す。

「さあ。その椅子の上に座りなさい」
「……」

 ナオミは次に組織が何をするのか恐れてためらった。
 だがまたしても強い痛みがナオミの体を貫き、彼女は耐えきれずにその場に倒れて意識が朦朧となる。
 崩れ落ちたかつての夫を見ながらミチコはケイに命じた。

「私は精神操作の監督をしなければならないので、あなたが被験者の準備をしなさい」
「分かりました」

 ケイは改めて男達に命じてナオミを椅子に座らせ、その身体に拘束具を取り付けた。
 そして種々のチューブから配置されていたとき、ナオミは再び意識を取り戻した。

「これはいったい……」

 気がついたとき、既にナオミは椅子に拘束されて頭を動かすこともできなかった。
 ナオミには組織が自分を女にするだけに留まらず、もっと多くの実験をすることを計画しているかのように見えた。
 彼女が戦慄している間に複数のチューブが体に取り付けられ、そして頭部には幾つものワイヤーが付いて視界を全て覆うヘルメットがかぶせられたのだ。

「準備は完了しました」
「分かったわ。それでは始めましょうか」

 ケイの報告を受けミチコは興奮しつつ、精神操作装置を作動させた。
 彼女は注意深くナオミの精神状態をチェックしたが、それは適切に動いていた。
 チューブから送られる薬やヘルメットに流れるメッセージと音楽はナオミに対し、どのように見せられた画像について反応するべきか示すのだ。

「それでは最初の映像ね」

 ナオミの視覚には二十代前半の美しい全裸の女性のイメージが現れた。
 それは男だった頃のナオトの姿にも似ていたが、同時に妻のミチコにも共通している点が多かった。

(まるで妻の妹のような……)

 ナオミが困惑していると、その女性の体のいろいろな部分、美しい顔、流れる髪、豊かな胸、細いうなじ、なめらかな背中、完璧な女の象徴、柔らかな尻、くびれた腹、優雅な腕、繊細な手、しなやかな脚、かわいい足など、あらゆるところが次から次へと拡大されて示されたのだ。

『ナオミ。それがあなたの姿です。あなたは若く美しい女性です。あなたの体の全てをよく見るのです』

 ナオミにとって自分が今は女性であることは本当に恥ずかしかった。
 だから見せられたイメージを拒絶しようとしたが、その瞬間には彼女の体をまたしても苦痛が貫く。
 抵抗できなくなったナオミは改めて自分の新しい体について隅から隅まで観察することを余儀なくされた。
 しばらくすると彼女の心の中は自分自身の新しい女の体のイメージで埋め尽くされる事となった。
 ナオミはもう自分の体として、今の女性の姿を認識するようになっていた。

「身体イメージの刷り込みは十分ですね」
「はい。では次の段階に移ります」

 ケイの了承と共に、ナオミの脳裏に映るイメージは切り替わった。
 今、ナオミにはさまざまな女らしい活動をしているのが見せられていたのだ。
 ナオミが示された女らしい活動をすることについて考えたとき、音楽と薬は彼女を非常に幸せにした。 

『ナオミ。あなたは編み物を作るのが大好きです』
 ナオミの視界には女となった自分が編み物をしている光景が一杯に広がり、耳にはそれが自分の好きな行為である事を伝えるメッセージと優しげな音楽が流れていた。
 まもなくナオミは編み物や料理、掃除と言った伝統的な女らしい活動が好きになるであろう。
 今はナオミが女性らしさを学ぶことが必要だったのだ。
 そして女性的な教育の中で、ナオミは同じく科学、そして自立した考えが好きであることを学んだ。

「あなたは女らしく美しく、それでいて自立し、科学を愛する現代の女性にならなければいけないのよ」

 ミチコは小さく呟いた。
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