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悪夢と首謀者
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気がついたときナオトは椅子に縛り付けられ、口には猿ぐつわをかまされていた。
(何だ? これはいったいどういうことだ?)
いまナオトがいたのは周囲が幾つもの電子機器に覆われた大きな部屋だった。
そして正面にはナオトと同年配で白衣の女性がいた。
いや。よくよく見ると相手は先ほどの受付だったのだが、今の服装からは相手は女医か科学者のように思えた。
「お目覚めのようね。フタミ・ナオトさん」
(何だと? こいつはいったい誰なんだ?!)
ナオトは驚愕した。
相手が仮に暴力団と連なるような危ない会社だとしても、なおさら取引先の大企業の社員をこのようにいきなり捕縛する事などあり得ないはずだった。
(いったい何が目的で俺をとらえたのだ?)
「私の名はケイ。これから『被験者』であるあなたの担当となります」
(被験者だと?! それでは俺で何かを実験するつもりなのか!)
ケイと名乗った女性はナオトに近づき腕に何かの物質を注射した。
(俺を薬物中毒にする気か? それとも何らかの薬物の実験か?! 会社の秘密を得るための自白剤かもしれないぞ!)
ナオトは、めまい、陶酔感あるいは幻覚を感じることを予期して、身を引き締めたが、しばらくしても何も起きなかった。
「それではこれからあなたには――」
ケイの話の途中で、どういうわけかナオトの身体の拘束が外れた。
理由は分からないが、絶好のチャンスだ!
ナオトは猿ぐつわを外し、椅子から跳ね上がった。
しかしその直後、身体に激痛が走りナオトは動く事も出来なくなる。
「うがあああ!」
ナオトが倒れ伏して苦痛にうめいていると、痛みはすぐに消え去った。
「いま注射したのは苦痛誘発剤よ。私の命令に従わない限り、あなたの身体に苦痛が走る事になるのは体験した通りです」
ケイはそう宣告すると、改めてナオトに命じた。
「ゆっくりと起き上がって私に対面しなさい」
命令にナオトは従い、そしてケイの微笑に焦点を合わせた。
時間をかせぐためナオトは質問をした。
自分が行方不明になったのならば、必ず会社から連絡が伝わり、警察も動き出すと思っていたからだ。
「あんた誰だ? 望みは何なんだ?」
ケイは、ナオトの質問を無視して、彼女のデスクに戻って、そして彼女のコンピュータの上にキーを押した。
「いまあなたの次の段階のために準備ができています」
「俺の質問に答え……ぐわぁ!」
ナオトはケイに食ってかかろうとしたが、非常に激しい痛みが体を走っただけだった
そのため彼は左の壁が開いているのに気付きさえしなかった。
「起きなさい」
「……」
ナオトは無言で立ち上げると壁が開いている事にようやく気がついた。
「その部屋に入りなさい」
ナオトが部屋の中に入ると、そこは数多くのコンピュータで満たされていた。
そして部屋の中心には巨大な試験官を思わせる、円形のガラスの区画があった。
(まさかガス処刑室か何かか? それとも俺で何かの実験をするつもりか?)
ナオトの目の前でガラスは上に移動していった。
「あなたの衣類を全て脱いで、その中に入りなさい」
「いったい何をするつもりで――」
「あなたにはまだ学習が足りませんか?」
「……分かった」
抵抗する事も考えたが、その場合は先ほどの痛みで行動不能になって、中に放り込まれるだけなのは明らかだった。
ナオトは諦めて指示通りにせざるを得なかった。
そしてナオトが全裸で位置につくと、音も無くガラスは移動して彼を周囲の空間から隔離したのだった。
準備が完了したところで、ケイは目の前にある遺伝子再配列装置を確認した。
短い時間、ケイはナオトにこの恐ろしい運命から逃れさせる事を考えたが、これを命じた相手を怒らせたらどうなるか彼女はよく知っていた。
ケイは遺伝子再配列装置を望ましい設定にセットして起動させた。
ナオトが最初に推測したように、奇妙な煙がガラスの中を満たし、次いで彼は自分の皮膚が全員いたる所で伸びたり縮んだりしているのを感じた。
(もう俺は殺されるのか……)
ナオトは半ば諦めた状態で、深い呼吸をとって自分が死ぬのを待った。このとき、彼の心にあった唯一の満足は自分が子供を持っていないことだった。
自分と同じように父親無しで成長する苦悩を与えなかった事が、少しだけ安堵の要因となっていたのだ。
だが数分後でもナオトは死んでいなかった。
その代わり、彼の身体は縮んでいたのだ。
(なんだと? この組織は俺を溶かして消し去ろうとしているのか?!)
ショックを受けつつ、ナオトは激痛を感じることを予期したが、ただ繰り返し全身にむずがゆい感覚が襲ってくるだけだった。
そして時間が経つと、ナオトは彼が溶かされているわけではなく、自分の身体が変化していることに気がついた。
どういうわけかナオトの髪は長く伸び、細く柔らかくなりつつあった。
身体の大部分がどんどん小さくなったが、胸と尻はどういうわけか膨張しているように感じた。
そして自分の男のシンボルがどれぐらい小さくなっていたか気付いたとき、ナオトの目は驚きに丸くなった。
「な、何だこれは?!」
恐怖の中で彼は自分の男のシンボルがどんどん縮み、股間の秘められた部分に消えていくのを目の当たりにしていた。
だが膨らみ続けた彼の胸はいまその視界を塞ぎ、股間は見えなくなったのだ。
「あああああ?!」
その瞬間、ナオトはこれまでの自分のものとはまるで違う、甲高い悲鳴を挙げつつ気絶した。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ナオトが気絶した直後、部屋の扉が音も無く開きそこから一人の女性が入ってきた。
「どうですか首尾は?」
ケイに話しかけたのはナオトの『元妻』であるミチコだった。
彼女は倒れた『元夫』を一瞥したところで、ケイに向き直る。
「はい。ミチコ主任。全ては完璧です」
そう言ってケイはミチコに被験者のデータを説明した。
「被験者のXY染色体は消滅して現在はXX染色体が一〇〇%となりました。内部分泌機能や生殖機能、さらに大脳生理学的にも全て完全な女性です。年齢も二十代前半の肉体に若返っています」
「あと私の要望は?」
「ミチコ主任が特に希望した通り、彼女の遺伝子については、ご覧下さい」
改めてケイがデータを指差すと、ミチコは満足げに頷いた。
「いいでしょう。あなたに感謝します」
「いえ。全てはミチコ主任が開発された遺伝子再配置装置のお陰です」
ケイの称賛を受けつつ、ミチコは全裸で気絶している『元夫』を満足げに見つめていた。
「ナオト……いえ。今はナオミ、これから私たちの新しい人生が始まるのよ」
ミチコは小さくつぶやいた。
(何だ? これはいったいどういうことだ?)
いまナオトがいたのは周囲が幾つもの電子機器に覆われた大きな部屋だった。
そして正面にはナオトと同年配で白衣の女性がいた。
いや。よくよく見ると相手は先ほどの受付だったのだが、今の服装からは相手は女医か科学者のように思えた。
「お目覚めのようね。フタミ・ナオトさん」
(何だと? こいつはいったい誰なんだ?!)
ナオトは驚愕した。
相手が仮に暴力団と連なるような危ない会社だとしても、なおさら取引先の大企業の社員をこのようにいきなり捕縛する事などあり得ないはずだった。
(いったい何が目的で俺をとらえたのだ?)
「私の名はケイ。これから『被験者』であるあなたの担当となります」
(被験者だと?! それでは俺で何かを実験するつもりなのか!)
ケイと名乗った女性はナオトに近づき腕に何かの物質を注射した。
(俺を薬物中毒にする気か? それとも何らかの薬物の実験か?! 会社の秘密を得るための自白剤かもしれないぞ!)
ナオトは、めまい、陶酔感あるいは幻覚を感じることを予期して、身を引き締めたが、しばらくしても何も起きなかった。
「それではこれからあなたには――」
ケイの話の途中で、どういうわけかナオトの身体の拘束が外れた。
理由は分からないが、絶好のチャンスだ!
ナオトは猿ぐつわを外し、椅子から跳ね上がった。
しかしその直後、身体に激痛が走りナオトは動く事も出来なくなる。
「うがあああ!」
ナオトが倒れ伏して苦痛にうめいていると、痛みはすぐに消え去った。
「いま注射したのは苦痛誘発剤よ。私の命令に従わない限り、あなたの身体に苦痛が走る事になるのは体験した通りです」
ケイはそう宣告すると、改めてナオトに命じた。
「ゆっくりと起き上がって私に対面しなさい」
命令にナオトは従い、そしてケイの微笑に焦点を合わせた。
時間をかせぐためナオトは質問をした。
自分が行方不明になったのならば、必ず会社から連絡が伝わり、警察も動き出すと思っていたからだ。
「あんた誰だ? 望みは何なんだ?」
ケイは、ナオトの質問を無視して、彼女のデスクに戻って、そして彼女のコンピュータの上にキーを押した。
「いまあなたの次の段階のために準備ができています」
「俺の質問に答え……ぐわぁ!」
ナオトはケイに食ってかかろうとしたが、非常に激しい痛みが体を走っただけだった
そのため彼は左の壁が開いているのに気付きさえしなかった。
「起きなさい」
「……」
ナオトは無言で立ち上げると壁が開いている事にようやく気がついた。
「その部屋に入りなさい」
ナオトが部屋の中に入ると、そこは数多くのコンピュータで満たされていた。
そして部屋の中心には巨大な試験官を思わせる、円形のガラスの区画があった。
(まさかガス処刑室か何かか? それとも俺で何かの実験をするつもりか?)
ナオトの目の前でガラスは上に移動していった。
「あなたの衣類を全て脱いで、その中に入りなさい」
「いったい何をするつもりで――」
「あなたにはまだ学習が足りませんか?」
「……分かった」
抵抗する事も考えたが、その場合は先ほどの痛みで行動不能になって、中に放り込まれるだけなのは明らかだった。
ナオトは諦めて指示通りにせざるを得なかった。
そしてナオトが全裸で位置につくと、音も無くガラスは移動して彼を周囲の空間から隔離したのだった。
準備が完了したところで、ケイは目の前にある遺伝子再配列装置を確認した。
短い時間、ケイはナオトにこの恐ろしい運命から逃れさせる事を考えたが、これを命じた相手を怒らせたらどうなるか彼女はよく知っていた。
ケイは遺伝子再配列装置を望ましい設定にセットして起動させた。
ナオトが最初に推測したように、奇妙な煙がガラスの中を満たし、次いで彼は自分の皮膚が全員いたる所で伸びたり縮んだりしているのを感じた。
(もう俺は殺されるのか……)
ナオトは半ば諦めた状態で、深い呼吸をとって自分が死ぬのを待った。このとき、彼の心にあった唯一の満足は自分が子供を持っていないことだった。
自分と同じように父親無しで成長する苦悩を与えなかった事が、少しだけ安堵の要因となっていたのだ。
だが数分後でもナオトは死んでいなかった。
その代わり、彼の身体は縮んでいたのだ。
(なんだと? この組織は俺を溶かして消し去ろうとしているのか?!)
ショックを受けつつ、ナオトは激痛を感じることを予期したが、ただ繰り返し全身にむずがゆい感覚が襲ってくるだけだった。
そして時間が経つと、ナオトは彼が溶かされているわけではなく、自分の身体が変化していることに気がついた。
どういうわけかナオトの髪は長く伸び、細く柔らかくなりつつあった。
身体の大部分がどんどん小さくなったが、胸と尻はどういうわけか膨張しているように感じた。
そして自分の男のシンボルがどれぐらい小さくなっていたか気付いたとき、ナオトの目は驚きに丸くなった。
「な、何だこれは?!」
恐怖の中で彼は自分の男のシンボルがどんどん縮み、股間の秘められた部分に消えていくのを目の当たりにしていた。
だが膨らみ続けた彼の胸はいまその視界を塞ぎ、股間は見えなくなったのだ。
「あああああ?!」
その瞬間、ナオトはこれまでの自分のものとはまるで違う、甲高い悲鳴を挙げつつ気絶した。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ナオトが気絶した直後、部屋の扉が音も無く開きそこから一人の女性が入ってきた。
「どうですか首尾は?」
ケイに話しかけたのはナオトの『元妻』であるミチコだった。
彼女は倒れた『元夫』を一瞥したところで、ケイに向き直る。
「はい。ミチコ主任。全ては完璧です」
そう言ってケイはミチコに被験者のデータを説明した。
「被験者のXY染色体は消滅して現在はXX染色体が一〇〇%となりました。内部分泌機能や生殖機能、さらに大脳生理学的にも全て完全な女性です。年齢も二十代前半の肉体に若返っています」
「あと私の要望は?」
「ミチコ主任が特に希望した通り、彼女の遺伝子については、ご覧下さい」
改めてケイがデータを指差すと、ミチコは満足げに頷いた。
「いいでしょう。あなたに感謝します」
「いえ。全てはミチコ主任が開発された遺伝子再配置装置のお陰です」
ケイの称賛を受けつつ、ミチコは全裸で気絶している『元夫』を満足げに見つめていた。
「ナオト……いえ。今はナオミ、これから私たちの新しい人生が始まるのよ」
ミチコは小さくつぶやいた。
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