ある町での「妻」の物語

高崎三吉

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急転から……

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 もちろんこんなチャラい男どもなど全くお呼びではない。
 どこからどう見てもわたしの夫とは比較にならない存在だ。
 少し前の自分もこの男と大差ない存在だったが、付き合う気などさらさらないので、左手の薬指にはまった結婚指輪を見せる。

「これを見れば分かるでしょう。そういうことは他をあたって下さい」
「ええ~そんなに若いのに~君は売約済みなのかい」
「もったいないなあ。人生をそんなに早く決めてしまうなんて」

 男どもは一瞬落胆した様子だったが、すぐに気を取り直したらしい。

「それでもいいじゃないか俺と楽しもうよ~」
「絶対に俺のほうが旦那よりもいいからさあ」

 ひとりの男は後部座席から降りてきて、そこでわたしの腕をつかんだ。
 どこまでも図々しい態度だが、嫌悪感しか抱かない。

「いい加減にしてください」

 わたしは振りほどこうとした。しかし――

「いいからこっちにこいよ!」

 力ずく無理矢理に引っ張られて車の中に連れ込まれてしまった!
 男のころのわたしだったら、振りほどけたかもしれないが今のわたしにはとても対抗できなかったのだ。

「手間かけるんじゃないぜ!」
「へへへ。こりゃ上玉だ」

 男たちはわたしを後部座席に放り込むと嬉々として車を発進させた。

「いや! 出して!」
「あとでたっぷりかわいがってやるから、おとなしくしてな」
「おい! 味見は俺が先だぞ」
「何を言ってやがる。そんなことよりちゃんと運転してろ」

 男どもは「獲物」となったわたしを見て舌なめずりしながら車を走らせる。
 小さな瀬渡町は車ならあっという間に通り過ぎてしまうだろう。
 こんな連中にこの身を蹂躙されてしまうのか?
 わたしは恐怖に震えたが、良くも悪くもその時間は短かった。
 目の前の道路にバリケードがせり出して通行を止めたのだ。

「なんだよ? 何が起きているんだ?」

 運転手の男が驚愕したが、周囲には監視カメラのようなものがいくつもある。
 そしてそこから何かが射出されて、開いた窓から男たちに命中した。

「なんだこれ……」
「うう……」

 男たちはあっという間に意識を失う。どうやら麻酔薬か何かのようだ。
 インターネットもないこんな田舎に、このような設備があるなんてわたしも全く知らなかった。
 いや。なんとなくわかるのは、この設備がこんなチンピラのためではなく、もっと別のもの――おそらくは町の住民が逃げるのを阻止するためのものでないのかということだ。
 もしも最初の誘いをわたしが断っていたら、町を出る前にここで眠らされてつかまっていたのではないか、そんなことを漠然と考えた。
 そしてこの時、わたしはふと男のもっているスマホに目が行く。そこを見ると電波が通じている!
 どうやらこの町の外れはギリギリ電波が届くようだ。
 そこでわたしはなんとなくスマホのニュース欄を見た瞬間、写っていた画像に目が釘付けになった。
 見紛うはずもない、それは夫の姿だった。
 そしてそのニュースの中身は信じがたいものだった――
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