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美しき変貌
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もう二度と男には戻れない。その宣告を受けてわたしは立ちすくむ。
「そんな……そんなことって……」
わたしは残された僅かな男の意識で、何とか「男」の自分自身にすがりつこうと、己の体に手をやった。
このときようやく銀の玉から手が離れたのだった。
だがそこで感じられたのは、柔らかい胸の感触だった。
先ほど銀の玉から感じられた快感に近いものがこの身に走る。
男の時には感じた事の無い感覚を前にいつの間にかその胸から手を離せなくなり、自分でゆっくりと揉んでいた。
「ふふふ。そうでしょう。これは明確な『改良』ですよ。あなたは平凡な男性から、新しく素晴らしい女生として生まれ変わったのです」
このときわたしはまるで魔法で魅了されたかのように、しばらく胸を揉んでいた。
一度、そうする毎に「残った男の意識」が絞り出されていくかのように思えたが、それでも辞められなかった。
「それもいいですけど、まずは自分の姿を見なさい」
そう言われて振り向くと、そこには大きな鏡があった。
先ほど見た「奥さん」に匹敵する、いや、それ以上の絶世の美女が鏡に映っていた。
長く伸びた髪は光を受けて頭頂部に「天使の輪」を作り、そこから足先にまで至る、滑らかな曲線は全ての比率がお互いを引き立てているのだ。
もしも男の時に、こんな美女に出会えたのならばどんなことをしてでもお付き合いしたいと思っただろう。
「あなたの以前の体を思い出しなさい。あの堅くでこぼこした体と、今の美しく柔らかい体のどちらがいいですか?」
「それは……」
わたしは一時、口ごもった。
だがそれを見て奥さんは微笑む。
「落ち着きなさい。あなたの気持ちに正直になるのです。それが一番よい選択ですよ」
次の返答を確信した様子で、奥さんは問いかける。
「こちらの体の方が……ずっといいです……」
ためらいがちに、だが紛れもない本心をわたしは口にした。
「当然でしょうね。あなたの精神はすぐにその身体にふさわしいものになり、幸せで満ち足りた生活が待っているのです」
「もしかすると……」
ここでこの町の嬉しげな「妻」達の姿が思い浮かんだ。そして町長や奥さんの言葉の端々に込められた意味も分かった。
「あなたは、いえ、あなたたちは……」
「そうです。この町の妻達はみんなあなたと同じ『元男』なのですよ。この機械によってみんな生まれ変わったのです。素晴らしい人生を新しく過ごすために」
奥さんは誇らしげに宣言する。
「少し前、ここはごく少数の老人が過ごすだけの限界集落でした」
やっぱり。最初にそう思った通りだった。
「しかし私と夫の二人でこの遺産を見いだし、そして……最初の実験台になったのが私なのです」
それはどこか誇らしげな様子だった。
「それから私と夫はあなたのような男性を選んで、この機械で新しく女性へと生まれ変わらせてきました」
「なぜ……そんな事を?」
「それは元が男性であった方が、より素晴らしい妻になれるからですよ」
何となく理解は出来た。
元男であれば本来ならば極めて希にしかいないであろう「理想の女性」を自ら意識しているだろう。
そしてそんな男が「妻」となれば、自ら率先して「理想の妻」を演じるということのようだ。
「あなたの心にあった男としての支配や力への願望は、機械の処理により全てが愛と従順さに置き換えられています」
このとき理性の一部が抗議の声をあげたように思った。
だがそれを圧倒したのが喜びだった。
「さあ新たにあなたにふさわしい服を着なさい。やり方は私が教えますから」
それからわたしは、奥さんの指導の下で生まれて初めて女物の服を身につけた。
どちらかと言えば夢見心地であれよあれよという間だった。
奥さんの手慣れた様子は間違い無く「元男が初めて女物の服を着る」のを何度も手伝ってきたのだろう。
「よかった。よく似合っているわ」
鏡に映った新たな女性は、全裸の時とはまた異なる美しさを発していた。
「これから化粧やお体の手入れ、そして……女性としての月に一度のお友達との付き合い方も学ぶ必要がありますね」
「あ……」
持って回った言い方だったが、確かにその心配もあった。
「よろしくお願いします」
わたしが頭を下げたところで、ドアをノックする音が聞こえた。
「もういいかな?」
どうやら町長が戻ってきたらしい。
奥さんが町長を締めだした意味が最初は分からなかったが、今は理解出来る。
要するにわたしのこの体にご主人が懸想するような事が無いようにしたかったのだ。
それを理解したとき、心の中にどこか誇らしいものがわいてきた。
最初は「絶世の美女」だと思った奥さんだが、今ではわたしの方が「女として上」なのではないか、そんな対抗心が僅かながら芽生えていた。
「これは……」
入ってきた町長はわたしを見て思わず唾を飲み込んだ様子だ。
そしてその股間が間違い無く、一目で分かるほどに膨れあがっているのも見て取れた――ほんの少し前までわたしにもあった「アレ」が堅くなっていたのだ。
だがここで奥さんが間に割って入って、少しばかりとがめるような視線を向ける。
「あなた……それはどういうことですか?」
「え? いや。お前のいつもと変わらぬ美しさに心を奪われただけだよ」
慌てて町長は言い訳する。
ここの奥さんはみな夫には極めて従順ではあるが、複数の女性と付き合っているような男性はいなかった。
素晴らしい奥さんを得られる以上、不倫は厳禁と言う事らしい。
それとも町長夫妻だけが例外なのだろうか?
いずれにしてもわたしはこのとき、新しい生活への希望で一杯だった。
「そんな……そんなことって……」
わたしは残された僅かな男の意識で、何とか「男」の自分自身にすがりつこうと、己の体に手をやった。
このときようやく銀の玉から手が離れたのだった。
だがそこで感じられたのは、柔らかい胸の感触だった。
先ほど銀の玉から感じられた快感に近いものがこの身に走る。
男の時には感じた事の無い感覚を前にいつの間にかその胸から手を離せなくなり、自分でゆっくりと揉んでいた。
「ふふふ。そうでしょう。これは明確な『改良』ですよ。あなたは平凡な男性から、新しく素晴らしい女生として生まれ変わったのです」
このときわたしはまるで魔法で魅了されたかのように、しばらく胸を揉んでいた。
一度、そうする毎に「残った男の意識」が絞り出されていくかのように思えたが、それでも辞められなかった。
「それもいいですけど、まずは自分の姿を見なさい」
そう言われて振り向くと、そこには大きな鏡があった。
先ほど見た「奥さん」に匹敵する、いや、それ以上の絶世の美女が鏡に映っていた。
長く伸びた髪は光を受けて頭頂部に「天使の輪」を作り、そこから足先にまで至る、滑らかな曲線は全ての比率がお互いを引き立てているのだ。
もしも男の時に、こんな美女に出会えたのならばどんなことをしてでもお付き合いしたいと思っただろう。
「あなたの以前の体を思い出しなさい。あの堅くでこぼこした体と、今の美しく柔らかい体のどちらがいいですか?」
「それは……」
わたしは一時、口ごもった。
だがそれを見て奥さんは微笑む。
「落ち着きなさい。あなたの気持ちに正直になるのです。それが一番よい選択ですよ」
次の返答を確信した様子で、奥さんは問いかける。
「こちらの体の方が……ずっといいです……」
ためらいがちに、だが紛れもない本心をわたしは口にした。
「当然でしょうね。あなたの精神はすぐにその身体にふさわしいものになり、幸せで満ち足りた生活が待っているのです」
「もしかすると……」
ここでこの町の嬉しげな「妻」達の姿が思い浮かんだ。そして町長や奥さんの言葉の端々に込められた意味も分かった。
「あなたは、いえ、あなたたちは……」
「そうです。この町の妻達はみんなあなたと同じ『元男』なのですよ。この機械によってみんな生まれ変わったのです。素晴らしい人生を新しく過ごすために」
奥さんは誇らしげに宣言する。
「少し前、ここはごく少数の老人が過ごすだけの限界集落でした」
やっぱり。最初にそう思った通りだった。
「しかし私と夫の二人でこの遺産を見いだし、そして……最初の実験台になったのが私なのです」
それはどこか誇らしげな様子だった。
「それから私と夫はあなたのような男性を選んで、この機械で新しく女性へと生まれ変わらせてきました」
「なぜ……そんな事を?」
「それは元が男性であった方が、より素晴らしい妻になれるからですよ」
何となく理解は出来た。
元男であれば本来ならば極めて希にしかいないであろう「理想の女性」を自ら意識しているだろう。
そしてそんな男が「妻」となれば、自ら率先して「理想の妻」を演じるということのようだ。
「あなたの心にあった男としての支配や力への願望は、機械の処理により全てが愛と従順さに置き換えられています」
このとき理性の一部が抗議の声をあげたように思った。
だがそれを圧倒したのが喜びだった。
「さあ新たにあなたにふさわしい服を着なさい。やり方は私が教えますから」
それからわたしは、奥さんの指導の下で生まれて初めて女物の服を身につけた。
どちらかと言えば夢見心地であれよあれよという間だった。
奥さんの手慣れた様子は間違い無く「元男が初めて女物の服を着る」のを何度も手伝ってきたのだろう。
「よかった。よく似合っているわ」
鏡に映った新たな女性は、全裸の時とはまた異なる美しさを発していた。
「これから化粧やお体の手入れ、そして……女性としての月に一度のお友達との付き合い方も学ぶ必要がありますね」
「あ……」
持って回った言い方だったが、確かにその心配もあった。
「よろしくお願いします」
わたしが頭を下げたところで、ドアをノックする音が聞こえた。
「もういいかな?」
どうやら町長が戻ってきたらしい。
奥さんが町長を締めだした意味が最初は分からなかったが、今は理解出来る。
要するにわたしのこの体にご主人が懸想するような事が無いようにしたかったのだ。
それを理解したとき、心の中にどこか誇らしいものがわいてきた。
最初は「絶世の美女」だと思った奥さんだが、今ではわたしの方が「女として上」なのではないか、そんな対抗心が僅かながら芽生えていた。
「これは……」
入ってきた町長はわたしを見て思わず唾を飲み込んだ様子だ。
そしてその股間が間違い無く、一目で分かるほどに膨れあがっているのも見て取れた――ほんの少し前までわたしにもあった「アレ」が堅くなっていたのだ。
だがここで奥さんが間に割って入って、少しばかりとがめるような視線を向ける。
「あなた……それはどういうことですか?」
「え? いや。お前のいつもと変わらぬ美しさに心を奪われただけだよ」
慌てて町長は言い訳する。
ここの奥さんはみな夫には極めて従順ではあるが、複数の女性と付き合っているような男性はいなかった。
素晴らしい奥さんを得られる以上、不倫は厳禁と言う事らしい。
それとも町長夫妻だけが例外なのだろうか?
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