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第24章 全てはアルタシャのために?
第1222話 迷走の先に
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テセルはしばし考え込む。
かなり深刻そうな表情ではあるが、この男が頭を全力で回している時はセクハラを除けば一応は聞くに値する結論を出すのは経験している。
「もしもアルタシャを唯一の神とすれば、その伴侶足る僕が実質的に『世界の支配者』と言う事になるわけだが――」
「そんな馬鹿げた話を本気で言っているのですか?」
オレの経験が間違っていたようだ。
「このバカの言う事はどうあれ、私としてはアルタシャ様がこの世界の頂点に立つのならば、喜んで祝福しますよ!」
どういうわけかミツリーンが目の色を変えて迫ってくる。
「これまでの幾多の奇跡を見てきた私です。アルタシャ様ならばきっとよりよい世界を作れると信じています!」
いや。そんな事出来るはず無いし、もちろん実行しよう何て気はさらさらありません。
「それでは聖女教会もイロールの声が聞こえないままですよ! 癒やしの力もなくなってしまいます」
もちろんオレがそんなの守ってやる義理はないが、ミツリーンはもともと聖女教会に忠誠を誓っているのであって、オレはあくまでも「聖女教会の英雄」としての付き合いではなかったのか。
だがミツリーンの考えは違っていたようだ。
「構いません! どうせ私には『女神の声』など聞こえないのです」
男のミツリーンはあくまでも「準信者」であって、正式な信者では無かったな。
逆を言えば「神の力を得られない一般人」にとっては、これは「神の力を有する司祭達と一般人が平等になる」機会でもあるわけか。
そういえば「戦争になれば平民でも貴族を殺す事が出来るので平等だ!」なんて言っていた『地獄の轟き』という神様に出会った事もあるが、殆どの人間が生まれつきで人生が決まってしまうこの世界では、そういう「強制的な平等」にも価値を見いだす場合もあるか。
「私はあくまでも聖女教会の癒やしの力に敬服していたのです。しかし今の話が本当だとしたら、もう聖女様方も癒やしの力を持たないわけですよね。それならば私が従う理由もありません」
ミツリーンは目に見えて不満があったようではなかったが、それでも鬱屈した感情が心の底にはあったのだろう。
それがこの機会で一気に爆発しつつあるのか。
元の世界でもある国での近代化の過程で「これまで行っていた宗教界への保護を辞めます」と言ったら、民衆が暴走して多くの寺院が破壊されるような事があったらしい。
もちろん中には腐敗して顰蹙を買っていた寺院もあったろうが、殆どはごく普通の寺院だったはずだ。
この世界でそんな暴走が起きたら、犠牲はもっと凄い事になるだろう。
「アルタシャ様は犠牲が出ることを恐れておられるのでしょう? しかしあなた様ならば以前に大陸中の聖女教会に呼びかける事が出来たではありませんか! それを改めて行えばきっと犠牲も抑えられます」
そんなの無理だと言いたいが、本当にミツリーンの中ではオレに対する「崇拝」が加速しているように見えるな。
ううむ。このままではついついその気になってしまいそうだ。
さっきまでは「このまま神の声が届かないままでもいいか」などとも少しは考えていたけど、ミツリーンに進められて逆に冷静になってきた気がする。
他人の事を言えた義理では無いが、人間とは変わるものなのだなあ。
「すいませんがミツリーンさんは少し黙っていて下さいますか?」
「う……申し訳ありません。調子に乗りすぎたようです」
オレは改めてテセルに向き直る。
見ると深刻そうな顔は先ほどと変わらない。
「話の途中で腰をおられてしまったが、アルタシャが『世界の支配者』なんて全く望んでいない事は僕だって分かっているつもりだ」
テセルなりにオレを研究していたのなら、それが当然の結果だろう。
「それでも結果的に持ち上げられて、そんな地位に就くかもしれないとでも思っているのですか?」
「アルタシャなら何十年かけてでも、その信念を貫き通せばそういう場所にたどり着くかもしれないぞ」
「そんなわけないでしょう」
「いや。ジストルという偉大な先達がいるだろう。しかもアルタシャはそのジストルが人間だったときよりもはるかに上じゃ無いか」
「ええ?!」
それはいくら何でも極端過ぎないか?
いや。だがジストルだって確かに最初は「カミツクリの理念を広めて大帝国を作る」なんて考えてもいなかったろう。
せいぜい「自分の考えた『よりよい崇拝』が人々の助けになればいい」と言ったレベルだったはずだ。
神造者として強大な勢力を得たのは、何十年も努力を積み重ねて彼の理論を一時とは言え完成させた後だろう。
「一年やそこらでジストルよりも遥かに上に達したアルタシャならば、僕たち神造者をも上回る存在になることも出来るだろう」
「待って下さい」
テセルの言い分は分かるのだが、ぶっちゃけ少しばかり違和感がある。
確かにセクハラ男ではあるが、その一方でこの男自身は公僕としては高い意識を持っていた。それにしてはあまりにも考えが突出しすぎている気がするな。
もしかして何か触れて欲しくないものがあって、そこから目をそらそうとしているのではないだろうか?
かなり深刻そうな表情ではあるが、この男が頭を全力で回している時はセクハラを除けば一応は聞くに値する結論を出すのは経験している。
「もしもアルタシャを唯一の神とすれば、その伴侶足る僕が実質的に『世界の支配者』と言う事になるわけだが――」
「そんな馬鹿げた話を本気で言っているのですか?」
オレの経験が間違っていたようだ。
「このバカの言う事はどうあれ、私としてはアルタシャ様がこの世界の頂点に立つのならば、喜んで祝福しますよ!」
どういうわけかミツリーンが目の色を変えて迫ってくる。
「これまでの幾多の奇跡を見てきた私です。アルタシャ様ならばきっとよりよい世界を作れると信じています!」
いや。そんな事出来るはず無いし、もちろん実行しよう何て気はさらさらありません。
「それでは聖女教会もイロールの声が聞こえないままですよ! 癒やしの力もなくなってしまいます」
もちろんオレがそんなの守ってやる義理はないが、ミツリーンはもともと聖女教会に忠誠を誓っているのであって、オレはあくまでも「聖女教会の英雄」としての付き合いではなかったのか。
だがミツリーンの考えは違っていたようだ。
「構いません! どうせ私には『女神の声』など聞こえないのです」
男のミツリーンはあくまでも「準信者」であって、正式な信者では無かったな。
逆を言えば「神の力を得られない一般人」にとっては、これは「神の力を有する司祭達と一般人が平等になる」機会でもあるわけか。
そういえば「戦争になれば平民でも貴族を殺す事が出来るので平等だ!」なんて言っていた『地獄の轟き』という神様に出会った事もあるが、殆どの人間が生まれつきで人生が決まってしまうこの世界では、そういう「強制的な平等」にも価値を見いだす場合もあるか。
「私はあくまでも聖女教会の癒やしの力に敬服していたのです。しかし今の話が本当だとしたら、もう聖女様方も癒やしの力を持たないわけですよね。それならば私が従う理由もありません」
ミツリーンは目に見えて不満があったようではなかったが、それでも鬱屈した感情が心の底にはあったのだろう。
それがこの機会で一気に爆発しつつあるのか。
元の世界でもある国での近代化の過程で「これまで行っていた宗教界への保護を辞めます」と言ったら、民衆が暴走して多くの寺院が破壊されるような事があったらしい。
もちろん中には腐敗して顰蹙を買っていた寺院もあったろうが、殆どはごく普通の寺院だったはずだ。
この世界でそんな暴走が起きたら、犠牲はもっと凄い事になるだろう。
「アルタシャ様は犠牲が出ることを恐れておられるのでしょう? しかしあなた様ならば以前に大陸中の聖女教会に呼びかける事が出来たではありませんか! それを改めて行えばきっと犠牲も抑えられます」
そんなの無理だと言いたいが、本当にミツリーンの中ではオレに対する「崇拝」が加速しているように見えるな。
ううむ。このままではついついその気になってしまいそうだ。
さっきまでは「このまま神の声が届かないままでもいいか」などとも少しは考えていたけど、ミツリーンに進められて逆に冷静になってきた気がする。
他人の事を言えた義理では無いが、人間とは変わるものなのだなあ。
「すいませんがミツリーンさんは少し黙っていて下さいますか?」
「う……申し訳ありません。調子に乗りすぎたようです」
オレは改めてテセルに向き直る。
見ると深刻そうな顔は先ほどと変わらない。
「話の途中で腰をおられてしまったが、アルタシャが『世界の支配者』なんて全く望んでいない事は僕だって分かっているつもりだ」
テセルなりにオレを研究していたのなら、それが当然の結果だろう。
「それでも結果的に持ち上げられて、そんな地位に就くかもしれないとでも思っているのですか?」
「アルタシャなら何十年かけてでも、その信念を貫き通せばそういう場所にたどり着くかもしれないぞ」
「そんなわけないでしょう」
「いや。ジストルという偉大な先達がいるだろう。しかもアルタシャはそのジストルが人間だったときよりもはるかに上じゃ無いか」
「ええ?!」
それはいくら何でも極端過ぎないか?
いや。だがジストルだって確かに最初は「カミツクリの理念を広めて大帝国を作る」なんて考えてもいなかったろう。
せいぜい「自分の考えた『よりよい崇拝』が人々の助けになればいい」と言ったレベルだったはずだ。
神造者として強大な勢力を得たのは、何十年も努力を積み重ねて彼の理論を一時とは言え完成させた後だろう。
「一年やそこらでジストルよりも遥かに上に達したアルタシャならば、僕たち神造者をも上回る存在になることも出来るだろう」
「待って下さい」
テセルの言い分は分かるのだが、ぶっちゃけ少しばかり違和感がある。
確かにセクハラ男ではあるが、その一方でこの男自身は公僕としては高い意識を持っていた。それにしてはあまりにも考えが突出しすぎている気がするな。
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