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第24章 全てはアルタシャのために?

第1116話 イオの事情とは

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 先ほどから終わる事なき口論をしているテセルとミツリーンを見て、イオは不可思議そうに問いかけてくる。

「さっきからあの連中は何を言っているんだい?」

 ドラゴンであるイオには当然ながらテセルが口にしている『婚約者』などの言葉の意味など理解できない様子だ。
 しかし迂闊に説明は出来ないな。これだけ感覚が違っていると、どんな誤解をされてしまうか分かったものではない。
 下手に説明して誤解された場合、暴れ出して二人の命を危うくするかもしれないので、ここは嘘にならない範囲でどうにかしよう。

「ドラゴンも自分達の縄張りを巡って争うのでしょう?」
「うん。そうだよ。勝手に縄張りに入ると、それは相手の縄張りを奪うためだと思われて、下手をすると殺し合いにだってなりかねないんだ」

 随分とあっさりと言い切ったな。

「ドラゴンが縄張りを譲れないように、あの二人も譲れないモノで争っているのですよ」
「さっきからの話を聞いていると、アルタシャを巡っての争いなのかな?」
「まあ……そんなところですね」
「分かったよ。僕に任せて」

 どういうわけかイオはその鼻先を、口論しているミツリーンとテセルに向ける。
 待て! これはやばい気がするぞ!

「何をするつもりなのですか?」
「もちろんあいつらは僕が片付けてやるよ」

 なんでそうなるの?!

「ダメです! 止めて下さい!」
「どうせアルタシャを巡って戦うのだろう? だったら僕も加わるよ」

 その飛躍はいったいなんだ?
 やっぱりイオがドラゴンだからなのか?
 もちろんイオが攻撃すれば、あの二人どころかそこらの砦ぐらいは皆殺しにするのも造作ないだろう。
 絶対にそんな事をさせるわけにはいかない。

「とにかくイオは何もせずに見ていてくれたらいいのです」
「ドラゴンだったら、そんなわけにいかないのだけどなあ」

 そういえばイオの同族は、生まれた卵を川に流して戻ってきた子供だけを育てるというものだった――その卵を人間が『お宝』だと略奪しまくった結果、一つの町が滅ぼされて何万という犠牲者が出たわけだ。
 それはドラゴン同士の縄張り意識が強すぎて、自分の子供でも成長すれば『縄張りを巡って争うライバル』として殺してしまう事があるからという話だった。
 ドラゴンが協力するのは『自分たちの卵を人間が略奪している』場合のように、種族にとっての脅威となる存在に対抗するのとあとは子供を作るときぐらいなのだろうな。
 ドラゴン同士が争うとどちらかを滅ぼすまで戦うのが当たり前だから、イオは口論だけで穏便に片付けるという発想が思いつかないのかもしれない。
 それはともかくオレが神造者と話し合いで解決しようとしてもイオが無茶をする可能性が否定出来ないな。
 そのような事態はなんとしても避けねばならないので、今から釘を刺しておこう。

「お願いですから、イオは人間をわたしの了承無く攻撃するような事はしないで下さい」
「まあ人間なんてどうでもいいけど、やっぱり変わっているんだね。なんで争っているのに互いを滅ぼさないんだろう」

 まだほんの子供とはいえ、本当に物騒だな。

「イオも他のドラゴンを滅ぼしたのですか?」
「まさか。そもそもドラゴン同士が争うことなんて滅多にないよ。僕も争ったことは無いし、他のドラゴン同士でやりあったという話も聞いていないさ」

 それもそうか。常に殺し合いなんかしていたら、ただでさえ数が少ないのにあっという間に種族が滅んでしまう。
 恐らくは同族でも張り合おうとする意識というか本能と、それを抑える知性のせめぎ合いになっているんだろう。

「それに僕は生まれたばかりで一番弱かったから、大人のドラゴンが本気で戦ったら勝ち目なんてないよ」

 普通だったら何年もかかる成長を、オレの魔力のおかげで数日で成し遂げてしまった――ドラゴンの基準だったらほとんど一瞬だろう――イオは周囲から警戒されていた可能性が高いな。

「それではもしかしてイオは自分の『安住の地』を見つけたくて、故郷を出てきたのですか?」

 オレに会いたくてやってきたという言葉は嘘では無いだろうけど、ファンタジーでよくある『子供が憧れの相手に会う事を目標に旅に出る』のに近いのかもしれない。

「それと……まだ早いけどつがいを見つけるというのも目標だよ」

 おい。まさかそのつがいの相手がオレではないだろうな?
 常識的に考えれば、一笑にふす馬鹿げた話のように思える。
 しかしドラゴンが人間体に変身した上に、人間と恋愛するなんてファンタジーならむしろ定番中の定番だ。
 おまけについさっきオレを巡って争っているテセルたちを見て、自分も首を突っ込むつもりでいたじゃないか。
 ただでさえ面倒な状況なのを更にややこしくするのは確実だぞ。
 いきなり不安になってきたので確認せざるを得ない。

「イオは自分のつがいとなる相手には、どんなものを望んでいるのですか?」
「そうだね……アルタシャのようだったらとてもいいよ」

 これが人間の子供だったら、実に微笑ましい一言に過ぎないのだけど、ドラゴンとなると扱いを一つ間違えれば大爆発のニトログリセリンのように思えて来るよ。
 今までにも言いよる男には人間にも精霊にも神ですらも無数にいたけど、これほどまでに神経を使う相手がいただろうか?
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