上 下
1,082 / 1,316
第23章 女神の聖地にて真相を

第1082話 迎えの聖女達とのやりとり

しおりを挟む
 オレを目の当たりにした聖女達は明らかに動揺しているというか、自分の目を疑っている様子だった。
 これまでは幾度もニセモノに出会って、失望してきたので、どうせ今回も空振りだろうと思っていたところで思わぬ事態に直面してしまったというところだな。

「もしや……本当にあなた様が……」
「まさかとは思っていましたが……」

 硬直しているふたりに対し、クレアは意外そうに問いかける。

「いったいどうされましたか?」
「あ……これは失礼しました。私はアナーラ、こちらはアルティアと申します」

 二人の聖女は揃って頭を下げる。
 どうやらアナーラと名乗った方が上役らしい。

「正直に言えば話を聞いたときは『またか』と思ったものでしたが……」
「もしやそちらのお方がクレア殿が報告された『アルタシャ様』でございますか」

 アナーラの声は震えている。ほぼオレが『本物』で間違い無いと思っているのだろう。
 まあ見た目はともかく、オレの魔力を真似できるのは神様だけだからな。

「はい。です。つい先ほどもこの地の枯れた温泉を復活させる神の御業をお示しになりました」

 クレアは本当に誇らしげにオレを紹介する。
 そしてそれを見て二人とも感服した様子で頷く。

「やはり……これまで幾度もあなた様を騙る相手は見てきましたが、本物がどれだけ違うのか一目で分かります」
「まさに我らの女神の寵愛篤きその偉大なるお姿はこの目に焼き付けました」
「あのう……どういうことなのでしょうか?」

 今度はクレアの方が事情を飲み込めない様子だ。
 まあ彼女は『アルタシャ』の事を知らなかったのだから、オレのニセモノがあちこちで多くの人を騙してまわり、そのために聖女教会が振り回されているなど想像もしていなかったのは間違いない。

「アルタシャ様は我ら聖女教会最高の英雄でございますが、神命により箇所にとどまることなく、常に人々を救うために移動しておられるのです。このためその尊い御名を騙るニセモノは後を絶たず、聖女教会も苦慮しているのですよ」

 そう言ったアナーラは少しばかり恨めしそうな視線を注いで来る。
 さぞかしオレの件で苦労しているのだろう。もちろん彼女だけでなく、大陸中で迷惑を被った聖女は大勢いるだろう。
 しかしその原因は聖女教会がオレを女にした事なのだから、申し訳ないとは思わないぞ。

「それでお手間とは存じますが、アルタシャ様にはこのギルボック島の大聖堂まで我らと同行をお願いします」

 表向きは丁重な態度だが、明らかに有無を言わさぬつもりだろう。
 もしもオレが断ったら、この場は引くかもしれないが、次には大勢で、それもこの島をあげて追い回されるのは間違いない。
 オレもどうせ遠からず大聖堂を訪れるつもりだったから、ここは言う通りにするしかないのだろうな。

「分かりました。ただ一つだけ念を押しておきますが、こちらのヴィンガさんがわたしの事を連絡しなかったのは、あくまでもわたしの意思を尊重してくださったからです。だから彼女には一切、非はありません。その事は了承していただけますか?」
「もちろんですとも。私ども別に彼女を責める気はありませんでした」

  あっさりと了承したが、まあ聖女教会にとってもオレのことさえ片付けば、見習い一人などどうでもいいことだろう。

「しかし……」

 ここでアルティアはオレとヴィンガを交互に見て、小さくため息をつく。

「どうしました?」
「いえ。失礼。見習いのヴィンガに対するお言葉を聞いて、少しばかり驚いたのです」

 どう言う意味だろうか? オレは何か変な事でも口にしてしまったかな?

「アルタシャ様はたとえ相手がいかなる身分であろうと常に変わらぬ丁重な態度を示し、たとえ奴隷でも対等の立場で接するとうかがっておりましたが、本当なのですね」

 なるほど。要するに彼女たちは『大陸のその名を轟かせる英雄』が一介の見習いの身を案じた事に驚いているのか。
 そんな当たり前の事で感心されても、オレにとっては気恥ずかしいばかりだが、これから大聖堂に向かうとなるといろいろと面倒がありそうだな。

 そんなわけで翌朝、早速オレはアナーラ達と共に寺院を立ち去ることとなった。
 使者として来た四人はオレが逃亡する事を心配したのか、交代で寝ずの番をしていたらしい。
 少なくとも今更逃げ回る気はないのだけど、それを心配する気持ちはわかる。

「それでは皆さん。短い間でしたけどありがとうございました」
「温泉を蘇らせて下さったあなた様の功業は必ずや村の全員で讃え、あの精霊と共に永遠に語り継がれる事でしょう」

 クレアは涙ぐんでいる。いろいろと感動体質な人である。

「ええ。アルタシャ様とのことは決して忘れません。この命ある限り、皆にあなた様の事を伝え続けるでしょう」

 ヴィンガは名残惜しそうではあるが、同時に誇らしげだ。しばらくオレと同行したことは『一生、自慢話のタネ』にする気満々だな。
 たぶん次に一緒に来た見習い連中に出会ったら、間違いなく連中を見返す材料として胸を張って自慢するに違いない。

「それでは行きましょう。聖女教会の全員があなた様のお越しを待っています」

 ううむ。オレだってそうそう簡単に歓迎してもらえるとは思っていない。
 そんなわけでオレを乗せた馬車は出発した。
 その先に何が待っているのか。それはこの時点でのオレには全く知る由もない事ではあるが、とても平穏無事には済まないだろうという予感だけはあった。
しおりを挟む
感想 104

あなたにおすすめの小説

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

異世界でネットショッピングをして商いをしました。

ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。 それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。 これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ) よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m hotランキング23位(18日11時時点) 本当にありがとうございます 誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。

処理中です...