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第22章 軍神の治める地では
第974話 新たな土地にて出くわしたのは
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『ふうむ。確かこの先のはずだ』
「それは前にも言っていませんでしたか?」
『仕方があるまい。そもそも我は本来ならば寺院の聖域に安置されるものであって、外部の風景など見ることはまず無いのだ。しかもこの地域を出てから何世代も経っているのだから、今はどうなっているのか見当もつかぬ』
「要するに全く当てにならないということですね」
オレはひとまずフェスマールの指示通りに移動していた。
開拓者の神であるケルマルの信徒は数が少ないし、フェスマールのこもっている宝珠はもの凄い価値があるのでそこらの相手には渡せない。
そんなわけでフェスマールが前に安置されていた大寺院を探す事になったわけだ。
しかしフェスマールの言うように、この先にケルマル神の大寺院があるという話は、もう何世代も前の事であって、その寺院がとっくの昔に滅びている可能性が決して否定出来ない。
あとフェスマールの金銭的価値は物凄いし、オレも容姿を人に見られるわけにはいかないので、関所のあるような広い道を通るわけにはいかず、人通りの少ない間道を通っている。
そこで数少ない道行く人の幾人かに尋ねては見たが、やはりケルマル神の大寺院など知らないらしい。
ううむ。かなり嫌な予感はするが、仮に寺院が滅びていても亡霊の類いが残っていれば、何らかの手がかりはあるはずなので、ここはフェスマールの言う通りにするしかない。
最悪、何も残っていない可能性もあるが、その時はその時だ。
そんな事を考えつつ、山道を進んでいると妙なものが目に付いた。
山肌に人間を形取った像が彫り込まれていたのだ。
興味をそそられたので近づいて確認したところ、それは以前にも見たことがある。『神なる皇帝ウルバヌス』の神像だった。
少し前にオレが『養女』になっていたイオドによれば、かつて東方に君臨した帝国の皇帝の一人で、強大な軍を招集して大いなる征服行を成し遂げた事から、今でも軍人に崇拝されているらしい。
そしてウルバヌスが征服行の途中で立ち寄った場所には、それを記念したものが残されていたんだった。
つまりこの地はそのウルバヌスが訪れたという伝説があり、その皇帝を神として崇拝する信仰が根強く残っているという事か。
『いったいどうしたのだ?』
「この地域では、神なる皇帝たるウルバヌス帝が崇拝されているようですよ」
『むう……まことか』
確かフェスマール達ケルマル信徒は皇帝の承認を得て、開拓地を与えられたという事であったな。
そうするとウルバヌス帝についても好意的なのだろうか?
だがいつもながらオレの予想は裏切られる。
『それは危ういかもしれんの』
「どういうことですか?」
『ウルバヌス帝について、我は評判しか知らぬ。かの皇帝が即位し征服行を始めたのは我が彼の地に向かった後の事だからな』
フェスマールがあの火山地帯に送り込まれてたのは、数世代前となるとウルバヌスが皇帝だったのは、長く見て百年ほど前の事か。
これまでの経験からすると最近の気がしてくるが、そんなわけはないか。
しかし神様の基準なら『ひよっこ』と言うことかもしれない。
「それまでの皇帝はあくまでも新たな開拓の許可を我らに与えるだけだった」
この言い方だとフェスマールは皇帝に対して、それほど敬意は抱いていないらしい。
まあその皇帝の多くよりもフェスマールは古い存在だろうし、神として見てもケルマル神に比べれば『よちよち歩きの幼児』同然にしか思えないのだろうな。
『だがウルバヌス帝は我が同胞たるケルマル信徒を元の土地から追い出し、恩賞でも与えるかのように強引に征服した土地に送り込んだのだ』
なるほど。これまたよくある手口だな。
征服した土地と言っても、当然そこの住民が服属しているわけではない。
そしてケルマル信徒も皇帝に従順というにはほど遠い。
そんなわけでケルマル信徒に限らず、国内で従順でない連中を征服地に送り込んで互いに争わせるというのは珍しく無い。
しかも事実上の追放でありながら『新しく広大な土地を与えたのだ』と言い張り、不当な扱いだという批判を抑える事も出来る。
支配者にとっては何とも都合のいい話というわけだ。
「それではこの先にフェスマールさんがいた寺院があったのならば……もうその寺院は廃絶されてしまっている可能性が高いと言うことですか」
『そういうことになるな。とにかく行ってみるしかあるまい』
オレにとっては他人事で済まないのが困ったところである。
しかも皇帝によって廃絶され、追い出されているのなら信徒など殆ど残っていないだろう。
フェスマールを預けるには、彼らがどこに追いやられたのか話を聞いて、そこに向かうしかないのか。
オレの旅に寄り道はしょっちゅうだから、その程度の事は気にならないが、そんな事になったらまた問題がいろいろと生じるのは確実だろう。
仕方ない。それもまたオレにとっては日常なのだ。
そう思って半ば諦めつつ峠を越えると、その先にはいつものようにトラブルを約束するかのような光景が広がっていたのだった。
「それは前にも言っていませんでしたか?」
『仕方があるまい。そもそも我は本来ならば寺院の聖域に安置されるものであって、外部の風景など見ることはまず無いのだ。しかもこの地域を出てから何世代も経っているのだから、今はどうなっているのか見当もつかぬ』
「要するに全く当てにならないということですね」
オレはひとまずフェスマールの指示通りに移動していた。
開拓者の神であるケルマルの信徒は数が少ないし、フェスマールのこもっている宝珠はもの凄い価値があるのでそこらの相手には渡せない。
そんなわけでフェスマールが前に安置されていた大寺院を探す事になったわけだ。
しかしフェスマールの言うように、この先にケルマル神の大寺院があるという話は、もう何世代も前の事であって、その寺院がとっくの昔に滅びている可能性が決して否定出来ない。
あとフェスマールの金銭的価値は物凄いし、オレも容姿を人に見られるわけにはいかないので、関所のあるような広い道を通るわけにはいかず、人通りの少ない間道を通っている。
そこで数少ない道行く人の幾人かに尋ねては見たが、やはりケルマル神の大寺院など知らないらしい。
ううむ。かなり嫌な予感はするが、仮に寺院が滅びていても亡霊の類いが残っていれば、何らかの手がかりはあるはずなので、ここはフェスマールの言う通りにするしかない。
最悪、何も残っていない可能性もあるが、その時はその時だ。
そんな事を考えつつ、山道を進んでいると妙なものが目に付いた。
山肌に人間を形取った像が彫り込まれていたのだ。
興味をそそられたので近づいて確認したところ、それは以前にも見たことがある。『神なる皇帝ウルバヌス』の神像だった。
少し前にオレが『養女』になっていたイオドによれば、かつて東方に君臨した帝国の皇帝の一人で、強大な軍を招集して大いなる征服行を成し遂げた事から、今でも軍人に崇拝されているらしい。
そしてウルバヌスが征服行の途中で立ち寄った場所には、それを記念したものが残されていたんだった。
つまりこの地はそのウルバヌスが訪れたという伝説があり、その皇帝を神として崇拝する信仰が根強く残っているという事か。
『いったいどうしたのだ?』
「この地域では、神なる皇帝たるウルバヌス帝が崇拝されているようですよ」
『むう……まことか』
確かフェスマール達ケルマル信徒は皇帝の承認を得て、開拓地を与えられたという事であったな。
そうするとウルバヌス帝についても好意的なのだろうか?
だがいつもながらオレの予想は裏切られる。
『それは危ういかもしれんの』
「どういうことですか?」
『ウルバヌス帝について、我は評判しか知らぬ。かの皇帝が即位し征服行を始めたのは我が彼の地に向かった後の事だからな』
フェスマールがあの火山地帯に送り込まれてたのは、数世代前となるとウルバヌスが皇帝だったのは、長く見て百年ほど前の事か。
これまでの経験からすると最近の気がしてくるが、そんなわけはないか。
しかし神様の基準なら『ひよっこ』と言うことかもしれない。
「それまでの皇帝はあくまでも新たな開拓の許可を我らに与えるだけだった」
この言い方だとフェスマールは皇帝に対して、それほど敬意は抱いていないらしい。
まあその皇帝の多くよりもフェスマールは古い存在だろうし、神として見てもケルマル神に比べれば『よちよち歩きの幼児』同然にしか思えないのだろうな。
『だがウルバヌス帝は我が同胞たるケルマル信徒を元の土地から追い出し、恩賞でも与えるかのように強引に征服した土地に送り込んだのだ』
なるほど。これまたよくある手口だな。
征服した土地と言っても、当然そこの住民が服属しているわけではない。
そしてケルマル信徒も皇帝に従順というにはほど遠い。
そんなわけでケルマル信徒に限らず、国内で従順でない連中を征服地に送り込んで互いに争わせるというのは珍しく無い。
しかも事実上の追放でありながら『新しく広大な土地を与えたのだ』と言い張り、不当な扱いだという批判を抑える事も出来る。
支配者にとっては何とも都合のいい話というわけだ。
「それではこの先にフェスマールさんがいた寺院があったのならば……もうその寺院は廃絶されてしまっている可能性が高いと言うことですか」
『そういうことになるな。とにかく行ってみるしかあるまい』
オレにとっては他人事で済まないのが困ったところである。
しかも皇帝によって廃絶され、追い出されているのなら信徒など殆ど残っていないだろう。
フェスマールを預けるには、彼らがどこに追いやられたのか話を聞いて、そこに向かうしかないのか。
オレの旅に寄り道はしょっちゅうだから、その程度の事は気にならないが、そんな事になったらまた問題がいろいろと生じるのは確実だろう。
仕方ない。それもまたオレにとっては日常なのだ。
そう思って半ば諦めつつ峠を越えると、その先にはいつものようにトラブルを約束するかのような光景が広がっていたのだった。
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