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第21章 神の試練と預言者
第961話 シャンサの秘められた真意は
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どうやらシャンサは自分がイル=フェロ神から与えられた――どちらかと言えば『かすめ取った』――熱気を操る力を振るっているようだ。
しかも灼熱の中心にいる本人はいたって涼しい顔をしている。熱に対する強い耐性も有しているのだろう。
そのような力を自分に従うイル=フェロ信徒達に気前よく分け与える事で、シャンサは自分を『預言者』として認めさせたのは間違いない。
それが本来ならば、ごく一部の過酷な試練を乗り越えた人間にのみ与えられる力を浪費しているに過ぎない事など、何も知らないイル=フェロ信徒達の目には、文字通り『神の力を操る偉大な預言者』と写ったのだろう。
「おのれ! お前のようなまがい物に負けはせぬぞ!」
サロールはシャンサの放つ灼熱にひるむことなく立ち向かおうとするが、オレは必死で引き留める。
「待って下さい! 今は戦うべきではありません!」
「何を言う! あのような輩に負ける俺ではないぞ!」
確かに今のシャンサは先ほどサロールがどうにか倒した『溶岩人形』に比べれば、それほど恐ろしくは見えないかもしれない。
しかし『溶岩人形』は知性も無く、ただ命令通りに攻撃してきただけだが、こちらはそんな単純な相手ではあるまい。
オレがサロールを止めたところで、灼熱の蒸気はシャンサの周囲に見る見る集まってくる。
まともにぶつけられたら、一瞬にして人間の蒸し焼きが出来上がるだろう。
溶岩よりも発する熱は遥かに小さいが、自由自在に扱えると言う点で、蒸気の方がずっと便利という事らしいな。
仕方ないので強引にでもサロールを連れだそう。「武器も無しに勝てる相手ではありませんよ!」
「う……分かった……」
サロールの骨の剣は先ほど『溶岩人形』を攻撃した時に、燃えて無くなってしまった。
武器の有無は殆ど関係無いかもしれないが、ここは無理矢理に押し通させてもらおう。
そしてそんなオレを見て、テセルも小さくつぶやく。
「そんな奴など放っておけばいいものを……いつものアルタシャらしいな」
「感心している場合ですか!」
慌てて小さな社を出ると、中から灼熱の蒸気がわき出てきて、それがシャンサらしき形を取る。
どうやら社から出なくとも、蒸気を使って自分の分身を作る事が出来るらしい。
恐らくこれまでもこの火山地帯にて、あちこちから吹き出ている蒸気を使ってオレ達一行を監視していたのだろう。
これもまたイル=フェロ神から得た能力だとすれば、確かに『解放派』の力は凄いものではあるな。
そして蒸気のシャンサは勝ち誇った様子で口を開く。
『どうだ。この私の力が分かっただろう』
明らかに敵意丸出しのサロールや、蔑視を隠してもいなかったテセルと一人で対面したのは、その気になればいつでも殺せるという自信があったからか。
テセルが『かつて自分を追放した神造者の端くれ』であるからこそ、自分の力を見せつけてやりたいという意識もあったに違いない。
「ふん。正式な崇拝をせずに、盗み取った力を誇るとは本当に相も変わらず『解放派』は卑しいやつらだ」
本当に相も変わらずテセルは毒舌だな!
そして蒸気のシャンサは、くぐもった声を発する。
『今からでも私に協力すると誓うならば、お前は助けてやってもよいぞ』
「それでわたしをあなたの勢力拡大に利用するのでしょう」
『もちろんだとも。だが決してお前にとっても損はあるまい。私が気前よく力を他の者に分け与えている事は知っているだろう』
「どうするつもりなのです?」
『他の神の聖域をお前の聖域へとすり替える事など難しくはない。もちろんそれによってお前が得る力は大きく増大するだろう』
そうやって神造者は自分たちに都合の悪い神の信仰を滅ぼし、都合のいい神への崇拝だけを広めていったのだな。
こういうところはシャンサもテセルも変わらない。
『疑うならば、まずこの地をお前の聖地へと変えても良いのだぞ』
分かってはいたが、この男は本当にイル=フェロ神そのものに対する信仰心とか敬意とか有していないのだな。
もちろん自分を『預言者』と奉じる、イル=フェロ信徒も道具としか思ってはいまい。
だがそれを考えても、あまりにも軽く考えすぎているのではないか。
テセルも神や信仰は『資源』と考えていたが、それでも『自分たちのよって立つ基盤』であり大切なものだという意識はあったし、敵対していない信仰を故意に踏みにじる真似はしていない。
もちろんオレもシャンサが預言者として責任を持って、イル=フェロ信徒を導こうとしているなどとは考えていなかったけど、それにしても行き過ぎな気がする。
オレを懐柔するために、ハッタリをかましているのだろうか?
だが待てよ。
シャンサはこの地で大切な人間を多く失ったと言っていたな。その中には確実にイル=フェロ信徒に殺された者もいるはずだ。
もしかするとシャンサは仲間の復讐のためイル=フェロ信徒をあえて苦しめるような事をしているのか?
いや。違うな。そんな小さな事ではない。
むしろシャンサは栄光の座から叩き落として追放した神造者も、救いを与えてくれなかった神々も、全てを憎んでいて崇拝の力を浪費させ枯渇させてしまう『解放派』の過ちをむしろ広めようとしているのではないか。
しかも灼熱の中心にいる本人はいたって涼しい顔をしている。熱に対する強い耐性も有しているのだろう。
そのような力を自分に従うイル=フェロ信徒達に気前よく分け与える事で、シャンサは自分を『預言者』として認めさせたのは間違いない。
それが本来ならば、ごく一部の過酷な試練を乗り越えた人間にのみ与えられる力を浪費しているに過ぎない事など、何も知らないイル=フェロ信徒達の目には、文字通り『神の力を操る偉大な預言者』と写ったのだろう。
「おのれ! お前のようなまがい物に負けはせぬぞ!」
サロールはシャンサの放つ灼熱にひるむことなく立ち向かおうとするが、オレは必死で引き留める。
「待って下さい! 今は戦うべきではありません!」
「何を言う! あのような輩に負ける俺ではないぞ!」
確かに今のシャンサは先ほどサロールがどうにか倒した『溶岩人形』に比べれば、それほど恐ろしくは見えないかもしれない。
しかし『溶岩人形』は知性も無く、ただ命令通りに攻撃してきただけだが、こちらはそんな単純な相手ではあるまい。
オレがサロールを止めたところで、灼熱の蒸気はシャンサの周囲に見る見る集まってくる。
まともにぶつけられたら、一瞬にして人間の蒸し焼きが出来上がるだろう。
溶岩よりも発する熱は遥かに小さいが、自由自在に扱えると言う点で、蒸気の方がずっと便利という事らしいな。
仕方ないので強引にでもサロールを連れだそう。「武器も無しに勝てる相手ではありませんよ!」
「う……分かった……」
サロールの骨の剣は先ほど『溶岩人形』を攻撃した時に、燃えて無くなってしまった。
武器の有無は殆ど関係無いかもしれないが、ここは無理矢理に押し通させてもらおう。
そしてそんなオレを見て、テセルも小さくつぶやく。
「そんな奴など放っておけばいいものを……いつものアルタシャらしいな」
「感心している場合ですか!」
慌てて小さな社を出ると、中から灼熱の蒸気がわき出てきて、それがシャンサらしき形を取る。
どうやら社から出なくとも、蒸気を使って自分の分身を作る事が出来るらしい。
恐らくこれまでもこの火山地帯にて、あちこちから吹き出ている蒸気を使ってオレ達一行を監視していたのだろう。
これもまたイル=フェロ神から得た能力だとすれば、確かに『解放派』の力は凄いものではあるな。
そして蒸気のシャンサは勝ち誇った様子で口を開く。
『どうだ。この私の力が分かっただろう』
明らかに敵意丸出しのサロールや、蔑視を隠してもいなかったテセルと一人で対面したのは、その気になればいつでも殺せるという自信があったからか。
テセルが『かつて自分を追放した神造者の端くれ』であるからこそ、自分の力を見せつけてやりたいという意識もあったに違いない。
「ふん。正式な崇拝をせずに、盗み取った力を誇るとは本当に相も変わらず『解放派』は卑しいやつらだ」
本当に相も変わらずテセルは毒舌だな!
そして蒸気のシャンサは、くぐもった声を発する。
『今からでも私に協力すると誓うならば、お前は助けてやってもよいぞ』
「それでわたしをあなたの勢力拡大に利用するのでしょう」
『もちろんだとも。だが決してお前にとっても損はあるまい。私が気前よく力を他の者に分け与えている事は知っているだろう』
「どうするつもりなのです?」
『他の神の聖域をお前の聖域へとすり替える事など難しくはない。もちろんそれによってお前が得る力は大きく増大するだろう』
そうやって神造者は自分たちに都合の悪い神の信仰を滅ぼし、都合のいい神への崇拝だけを広めていったのだな。
こういうところはシャンサもテセルも変わらない。
『疑うならば、まずこの地をお前の聖地へと変えても良いのだぞ』
分かってはいたが、この男は本当にイル=フェロ神そのものに対する信仰心とか敬意とか有していないのだな。
もちろん自分を『預言者』と奉じる、イル=フェロ信徒も道具としか思ってはいまい。
だがそれを考えても、あまりにも軽く考えすぎているのではないか。
テセルも神や信仰は『資源』と考えていたが、それでも『自分たちのよって立つ基盤』であり大切なものだという意識はあったし、敵対していない信仰を故意に踏みにじる真似はしていない。
もちろんオレもシャンサが預言者として責任を持って、イル=フェロ信徒を導こうとしているなどとは考えていなかったけど、それにしても行き過ぎな気がする。
オレを懐柔するために、ハッタリをかましているのだろうか?
だが待てよ。
シャンサはこの地で大切な人間を多く失ったと言っていたな。その中には確実にイル=フェロ信徒に殺された者もいるはずだ。
もしかするとシャンサは仲間の復讐のためイル=フェロ信徒をあえて苦しめるような事をしているのか?
いや。違うな。そんな小さな事ではない。
むしろシャンサは栄光の座から叩き落として追放した神造者も、救いを与えてくれなかった神々も、全てを憎んでいて崇拝の力を浪費させ枯渇させてしまう『解放派』の過ちをむしろ広めようとしているのではないか。
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