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第21章 神の試練と預言者

第923話 廃墟の奥で出会ったものは

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 オレは改めてサロールの足下を見るが、彼らは鍛えられた素足だ。
 このあたり一帯は火山活動が活発で、地面も高熱なところがあるのだろうけど、少なくとも成人のイル=フェロ信徒ほとんど気にした様子は無い。
 子供の頃からこの地を素足で駆け巡っているので、ちょっとやそっとの地熱ではビクともしないのだろう。
 もっともイル=フェロ信徒だと、地熱に抵抗力をつける魔法などがあっても不思議では無いけどな。

「さっきから俺の足を見てどうかしたのか?」
「これを見て下さい」

 オレは地面に残った『靴の足跡』を指し示す。

「むう。これは『堕落した奴ら』の足跡だな」

 この地域で靴を履いているのは、外部の人間だろうからそれだけでサロールにとってはすぐに見当がつくわけだな。

「そんな足跡を見つけたらどうするのですか?」
「いろいろだな。狩りの獲物にする奴もいれば、無視する奴もいる」
「サロールさんはどうしていたのです?」
「俺は今までよそ者とは殆ど関わった事が無い。その前に部族の戦士が相手していたからな」

 まあそりゃそうか。イル=フェロ神の唱えた『弱者を殺せ』という考えをどのように実践するのかは個々の信徒次第なわけだし、サロールは年齢を考えればまだまだ第一線で戦う地位では無いはず。
 もっとも彼らの考えではあくまでも正々堂々正面から挑まねばならないはずだから、よそ者との戦いもかなりのリスクを伴うのは明白だ。
 この地域を通る商隊だったら武装した護衛を雇っているのは間違いないからな。

 それでシャンサが『イル=フェロ信徒でない奴らは霊的に劣った存在だから、尊重する必要は無い』という教えを広めているのも、外部の連中と戦う事を前提にしているはずだ。
 しかしいずれにしてもそこを考えても仕方ない。シャンサの正体については想像するしかないからな。
 今は眼前の地面に残っている靴跡を確認するのが先だ。
 残念ながらオレには靴を見ただけで、その相手が何者か分かるような技能は無いし、どれだけ時間が経っているのかも分からない。
 分かるのはせいぜい数人の少人数で、最近にこの寺院跡に入り込んだ相手がいるというところまでだ。

 相手がここを訪れただいたいの時間が分かっているならオレは『過去視』の魔法で、何が起きたのか調べる事も出来る。
 だがこの魔法では見る事の出来る光景はリアルタイムで展開するし、過去を見ている間は現実世界を知覚できず無防備になってしまうので、こんなところで使うのは危険過ぎる。
 この廃墟に入り込んだのが宗教的情熱のあるケルマル信徒であるなら、宝珠を引き渡してフェスマールの件は決着できるが、残念ながらその可能性は低い。
 そもそも相手がまだ中にいるのかどうかも分からない。
 こうなってはしょうがない。とにかく中に入って、フェスマールの望み通り、まずはこの廃墟にいる浮かばれぬ霊体をどうにかしよう。
 いつものように出たとこ勝負だが、それがオレの性分なんだから仕方ない。

 そんなわけでオレはほぼ崩壊したかつての寺院跡に入り込む。
 ケルマル信徒の寺院については、以前に足を踏みいれた事があるので、だいたいの構造は分かっている。
 だがオレの記憶と比較すると天空をかたどった筈のドームは崩壊して無残な瓦礫の山と化し、ほとんどの部屋も崩れるか埋もれるかのどちらかでしかない。

「これでは聖所の場所にまで行けませんよ」

 オレが問いかけると、フェスマールの方から思念が飛んでくる。

『仕方あるまい。我が誘導するから、そこに向かってくれ』
「分かりました」

 フェスマールの言葉に従い、奥に向かうがここでオレは胸の悪くなる光景を目の当たりにする事になる。
 聖所に近づくところに複数の死体が転がっていたのだ。
 恐らくは殺害されてから数日は経っているだろう。かなり腐敗が進んでいて、吐き気のする異臭が周囲に漂っている。
 今まで何度も目の当たりにしてきた光景だが、やっぱり何度見ても慣れるものではない。

「やはり堕落した者どもはこのように無残な運命を辿るのだな」

 サロールは死体に向けて蔑んだ視線を注いで、歩みを止めもしない。
 オレとしては腐った死体など直視したくも無いが、それでもざっと見る限り、武器の類いは残っていないようだ。
 恐らくは略奪されたのだろうな。
 やはり武器目当てでイル=フェロ信徒に襲撃されたのか。
 とりあえず『霊視』ソウルサイトに引っかかるものはなく、亡霊となって周囲をうろついているものはいない。
 それに全員が殺されたとは限らない。
 死体を見る限り、全員が戦士のように思えるが、もしかしたら護衛の対象がいてその相手は逃げ延びたかもしれないのだ。
 この廃墟には隠れる事の出来る場所は、幾らでもある。
 イル=フェロ信徒が執拗に追跡したのでなければ、食料と水をどうにかすれば、数日なら生き延びられるはずだ。
 生存者がいればどうにか合流して、話を聞きたいところである。
 あんまり期待せず、奥に向かうと確かにオレの『魔法眼』ウィザード・アイには僅かながら魔力の残滓が感じられる。
 どうやらあそこが目的の場所らしい――そう思ったとき、そこにフードを被った人物が倒れている事に気がついた。
 見たところ外傷は無いようだが、もしかすると先ほどの惨劇を逃れてこっそり隠れていた生存者が力尽きているのか?

「大丈夫ですか?!」

 反射的に慌てて駆け寄るが、それがまたロクでもない自分の運命を再確認させられる事になるとはこのときのオレは想像だにしていなかった。
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