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第20章 とある国と聖なる乙女
第841話 いつの間にか正反対の方向に
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今は学長にこの件をどうにか口止め出来ないか、頼んでみるべきだろう。
「あのう。学長先生。いきなりで申し訳ないのですが少しお願いがあります」
「いったい何でしょう」
「わたしが『サバシーナ先生』と対面していた事は、少しの間、秘密にしていただけませんか?」
オレの願いを聞いて学長はその表情を硬くする。
「それはサバシーナ先生とあなたの話に関わるものなのですか?」
「は、はい」
かなり無理のある返答だとは思うが、ここは無理を通して道理には引っ込んでもらうとする。
「そうですか……分かりました。ここはあなたの意思を尊重して――」
おお! この国に来てから初めてオレの意思が尊重されたような気がするぞ。
小さな希望が垣間見えたと思った瞬間、ドアが大きく開け広げられた。
「こちらです! 急いでください!」
「しかし……本当に『サバシーナ先生』が顕現されたのですか?」
「学長先生のお言葉ですから、間違いありません!」
ドアの向こうからは血相を変え、学校中に響くかと思えるかのように大声を張り上げているネアラと、半信半疑の様子で同行して来た白衣の女性が姿を現した。
白衣の女性は見たところ三十代前半ぐらいの年齢だが、人目を引く金髪と青紫の瞳が意味するものは明白だった。
ここの保健室には聖女が入っていたのか。
若さを長期間保つ聖女で換算すると実年齢は六十歳ぐらいだろうから、第一線を退いてここで学校医をやっているのだろう。
その可能性を考えていなかったのは迂闊だったか?
「落ち着いてください。サバシーナ先生が顕現されたのは間違いありませんが、危惧するような事はありませんよ」
「そうですか。それは安心しました」
学長に言われて、保険医は単純に胸をなで下ろしているようだ。
どうやらオレのことを女神イロールから聞いているわけではないらしい。
あのでしゃばり女神も、いく先々の聖女全員にオレの事を啓示しているわけではないから、知らないのならオレも胸をなでおろすところだよ。
「ふう。精霊の顕現に出くわしたら、ショックを受けて寝込んでしまう事もあると聞いていたから、心配したのよ」
ネアラも安堵したらしい。どうやらまともにオレの事を憂慮していてくれたようで、少しは嬉しいかな。
常人だったら精霊と一対一で対面するなんて、滅多にないから衝撃を受けてしまう事もあるだろうけど、オレはそんなのしょっちゅうなので驚いたりはしないよ。
いや。待て。問題なのはネアラたちの背後の様子だ。
「これは何の騒ぎなのですか?」
「なんでも新入生の前にサバシーナ先生がお姿を現したとか」
「ええ?! そんな馬鹿な!」
「信じられませんわ。何かの間違いでしょう」
生徒はもちろん教師を含めた、数々の黄色い声が廊下から響いてくる。
ネアラが大声で騒ぎまわっていたので、サバシーナがオレの前に現れたことはもうとっくに学校中に広まってしまったらしい。
「あのう。ネアラさん――」
「お姉さまでしょう」
誇らしげに訂正するネアラを見ながら、オレは自分の垣間見た小さな希望が粉々に打ち砕かれたことを思い知らされた。
しばしの後、オレは講堂にて学長により全校生徒の前で紹介された。
「アルさん。あなたの希望に反することになってしまいましたが、こうなってしまった以上はやむをえません。生徒の動揺を抑えるためにもはっきり説明せねばなりませんからね」
「分かりました……」
普段は新入生ひとりのためにこんなことはしないが、今回はオレがしょっぱなからサバシーナと対面したことで生徒や教師が動揺しているので、特別扱いになったわけだ。
目立たないように心がけて行動しようと思っていたら、初日からここまで極端に振れるとはいったい何に呪われたらこんなことになるのだろうか?
見たところ大雑把に生徒は三百人ぐらい。年齢は十代初頭から、中には二十代に入っていると思しき女性もいる。
元の世界の学校に比べると、通学する年齢も厳密に決められておらず、同じカリキュラムを受けていても年齢には相当な差がありそうだな。
「今日から皆さんと共に勉強をするアルさんです」
「アルです。皆さんよろしくお願いします」
生徒達の間にどよめきが走る。オレの有する魔力を見たから――ではなく、単純に容姿に驚いたのだろう。
「あの美貌……同じ人間とは思えない……」
「なんでも初日から初代学長がお姿を顕現されたそうよ」
「確かに容姿は素晴らしいけど……本当なのですか?」
「聞いたところでは下級貴族の養女になったばかりだとか。きっと何かの勘違いだわ」
感嘆、羨望、困惑、嫉妬などなど幾つものささやきが、魔法で知覚を強化しているオレの耳に否応なく飛び込んでくる。
「もう皆さんも聞いているでしょうけど、つい先ほどアルさんの前に初代学長であり、この蒼穹女学院の守護精霊であられるサバシーナ先生が顕現されました」
学長の説明を聞き、改めて生徒たちがどよめく。
「やっぱり本当だったのですか?」
「私の前にはお姿を見せないのにどうして……」
どうやら半信半疑だった生徒や教師も多かった様子だが、これで否応なしに全員受け入れざるを得なくなったようだ。
そしてオレもまた目の前の現実を受け入れて、この蒼穹女学院でどうするか考えねばならないようだ。
「あのう。学長先生。いきなりで申し訳ないのですが少しお願いがあります」
「いったい何でしょう」
「わたしが『サバシーナ先生』と対面していた事は、少しの間、秘密にしていただけませんか?」
オレの願いを聞いて学長はその表情を硬くする。
「それはサバシーナ先生とあなたの話に関わるものなのですか?」
「は、はい」
かなり無理のある返答だとは思うが、ここは無理を通して道理には引っ込んでもらうとする。
「そうですか……分かりました。ここはあなたの意思を尊重して――」
おお! この国に来てから初めてオレの意思が尊重されたような気がするぞ。
小さな希望が垣間見えたと思った瞬間、ドアが大きく開け広げられた。
「こちらです! 急いでください!」
「しかし……本当に『サバシーナ先生』が顕現されたのですか?」
「学長先生のお言葉ですから、間違いありません!」
ドアの向こうからは血相を変え、学校中に響くかと思えるかのように大声を張り上げているネアラと、半信半疑の様子で同行して来た白衣の女性が姿を現した。
白衣の女性は見たところ三十代前半ぐらいの年齢だが、人目を引く金髪と青紫の瞳が意味するものは明白だった。
ここの保健室には聖女が入っていたのか。
若さを長期間保つ聖女で換算すると実年齢は六十歳ぐらいだろうから、第一線を退いてここで学校医をやっているのだろう。
その可能性を考えていなかったのは迂闊だったか?
「落ち着いてください。サバシーナ先生が顕現されたのは間違いありませんが、危惧するような事はありませんよ」
「そうですか。それは安心しました」
学長に言われて、保険医は単純に胸をなで下ろしているようだ。
どうやらオレのことを女神イロールから聞いているわけではないらしい。
あのでしゃばり女神も、いく先々の聖女全員にオレの事を啓示しているわけではないから、知らないのならオレも胸をなでおろすところだよ。
「ふう。精霊の顕現に出くわしたら、ショックを受けて寝込んでしまう事もあると聞いていたから、心配したのよ」
ネアラも安堵したらしい。どうやらまともにオレの事を憂慮していてくれたようで、少しは嬉しいかな。
常人だったら精霊と一対一で対面するなんて、滅多にないから衝撃を受けてしまう事もあるだろうけど、オレはそんなのしょっちゅうなので驚いたりはしないよ。
いや。待て。問題なのはネアラたちの背後の様子だ。
「これは何の騒ぎなのですか?」
「なんでも新入生の前にサバシーナ先生がお姿を現したとか」
「ええ?! そんな馬鹿な!」
「信じられませんわ。何かの間違いでしょう」
生徒はもちろん教師を含めた、数々の黄色い声が廊下から響いてくる。
ネアラが大声で騒ぎまわっていたので、サバシーナがオレの前に現れたことはもうとっくに学校中に広まってしまったらしい。
「あのう。ネアラさん――」
「お姉さまでしょう」
誇らしげに訂正するネアラを見ながら、オレは自分の垣間見た小さな希望が粉々に打ち砕かれたことを思い知らされた。
しばしの後、オレは講堂にて学長により全校生徒の前で紹介された。
「アルさん。あなたの希望に反することになってしまいましたが、こうなってしまった以上はやむをえません。生徒の動揺を抑えるためにもはっきり説明せねばなりませんからね」
「分かりました……」
普段は新入生ひとりのためにこんなことはしないが、今回はオレがしょっぱなからサバシーナと対面したことで生徒や教師が動揺しているので、特別扱いになったわけだ。
目立たないように心がけて行動しようと思っていたら、初日からここまで極端に振れるとはいったい何に呪われたらこんなことになるのだろうか?
見たところ大雑把に生徒は三百人ぐらい。年齢は十代初頭から、中には二十代に入っていると思しき女性もいる。
元の世界の学校に比べると、通学する年齢も厳密に決められておらず、同じカリキュラムを受けていても年齢には相当な差がありそうだな。
「今日から皆さんと共に勉強をするアルさんです」
「アルです。皆さんよろしくお願いします」
生徒達の間にどよめきが走る。オレの有する魔力を見たから――ではなく、単純に容姿に驚いたのだろう。
「あの美貌……同じ人間とは思えない……」
「なんでも初日から初代学長がお姿を顕現されたそうよ」
「確かに容姿は素晴らしいけど……本当なのですか?」
「聞いたところでは下級貴族の養女になったばかりだとか。きっと何かの勘違いだわ」
感嘆、羨望、困惑、嫉妬などなど幾つものささやきが、魔法で知覚を強化しているオレの耳に否応なく飛び込んでくる。
「もう皆さんも聞いているでしょうけど、つい先ほどアルさんの前に初代学長であり、この蒼穹女学院の守護精霊であられるサバシーナ先生が顕現されました」
学長の説明を聞き、改めて生徒たちがどよめく。
「やっぱり本当だったのですか?」
「私の前にはお姿を見せないのにどうして……」
どうやら半信半疑だった生徒や教師も多かった様子だが、これで否応なしに全員受け入れざるを得なくなったようだ。
そしてオレもまた目の前の現実を受け入れて、この蒼穹女学院でどうするか考えねばならないようだ。
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