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第19章 神気の山脈にて
第813話 シャーマンが逃げ去った後
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あのシャーマンがこのまま逃げ去ってくれるだけならいいのだが、やけになって大勢の生贄を捧げるとかとんでもない行為に出てしまいかねない。
とにかく今は追いかけて、捕まえるしかないな。
「フォラジさんはここで待っていてください!」
「むう。ひょっとするとボクは余計なことをしてしまったのかな?」
いまさら気づいたのかよ! 遅すぎるけどな!
そんなわけでオレは駆け出す。
「ちょっと待ちたまえ――」
悪いけど誰かさんのせいで、ややこしくなりそうなので今は付き合っていられないんだよ。
だが次の瞬間、オレの前には行く手を塞ぐかのように炎が立ち上ったかと思うと、あっという間に周りに広がっていく。
それはまるで炎そのものが生きているかのようだ。
いや。オレの『霊視』でも霊力が感じられるから、間違い無く炎の精霊だろう。
どうやらあのシャーマンは自分の手なずけていた精霊を、ここで解き放ったらしい。
「ひぇぇぇ!」
「助けてくれぇ!」
先ほどオレが植物で縛り上げた山賊連中にも炎が延びていく。
もちろんこのままでは動く事も出来ないあいつらだけでなく、精霊に霊力を奪われ、地面に転がったままの奴らも全員、黒こげなのは確実だ。
ええい。不本意だけど仕方ない。
あんな外道連中でも生きたまま焼かれるのを見過ごしたら寝覚めが悪い。
オレは『霊体遮断』の魔法を使って、ひとまず炎の精霊を食い止める。
しかし精霊を止められても、そいつがつけた火まで消えるワケではなく、どんどんと燃え広がっていく。
「このままでは危ない。アル君。ここはいったん引こう」
フォラジはあっさりと言い切る。今まさに炎に飲み込まれようとしている山賊連中の事など考慮どころか、視界にも入っていないらしい。
もちろんフォラジにすれば、あいつらを助ける義理などこれっぽっちも無いどころか、砦を攻め落として神の社とそこにあった貴重な資料を破壊した連中なのだから、ここで死んでも自業自得としか思わないのだろう。
しかしオレはそんなわけにはいかないのだ。
ここで改めて『植物歪曲』を使って、縛り上げている連中を部分的に解放する。
顔が僅かに露出したところで、奴らは口々に喚く。
「早く助けてくれ!」
「このままでは死んじまう!」
「それではこちらに倒れているあなたの仲間達はどうします?」
「そんな事はどうでもいいから、早く助けやがれ!」
まったく相変わらずこういう連中は見苦しいな。このまま放置してやろうか、などという意識が僅かでも心にはよぎる。
「そうですか? ここでお別れですね」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
「それではここに倒れているあなた方の仲間も助けなさい」
「分かった。すぐにやるから!」
連中は口々に喚く。助かりたい一心で叫んでいるだけなのは分かっているけど、まあ倒れているのは奴らの仲間のはずだから、ここは信じるしかないか。
「君はそんな奴らを助けるつもりなのかね?」
「そうですよ」
「……」
躊躇無くオレが即答したら、一瞬だがフォラジは呆れた表情を浮かべるも、どこか納得した様子で頷く。
「まあ君ならそういうのだろうな。そんなところがボク達とは違うところか」
そんなわけでオレは捕まえた連中を解放する。
「ひぃぃぃ!」
「おい! こら! 手伝いやがれ!」
逃げていく連中もいるが、いそいそと仲間を助けようとするのもいる。
そっちはたぶん前々から仲間だったのだろうな。
それだったらそもそも仲間を『精霊のエサ』になんかするんじゃない、とツッコミを入れたいが命まで奪われない筈だったからそこは許容したのだろう。
「とにかくフォラジさんは逃げて下さい。わたしはさっきのシャーマンの後を追いますから」
シャーマン本人はたぶんオレが捕まえた山賊を助けるなどとは思っていなかっただろうから、さっきの炎の精霊など、ほんの少しの目くらまし程度にしか考えていなかったろう。
結果的にはかなり有効な足止めになってしまったが、これは仕方ない。
今からでも後を追ってどうにか捕まえるしかないが、どこに行ったのか分からないのでは探すだけでも一苦労だな。
「ちょっと待てよ!」
ここで山賊の一人――気絶した仲間を担いだ状態で――がオレに向けて叫んできた。
「なんですか? いまあなた方の相手をしている暇は無いんですけど」
「心配するな。今さらてめえとやり合う気はねえよ。こっちだって命は惜しい」
「それなら何の用です」
「お前はさっきのあいつを追うのか?」
「あいつ、ですか?」
「これまで『お頭』と仰いでいた俺達を焼き殺そうとしたヤツにまで付き合う気はねえよ」
それもそうか。
こいつらがもともとあのシャーマンについているのは、その方が得だと思っただけで、それ以上の忠誠心があったわけでもないからな。
「あいつならきっとこの先の山頂にある、古い古い小さな石造りの社にいるはずだ」
「そこで何をしているのですか?」
「詳しい事は知らねえが、そこで何かを見つけたとは言っていたな。もちろん俺達には見せてくれるどころか、何なのかすら教えてくれなかったけどな」
「分かりました。ありがとうございます」
「礼を言われる筋合いはねえよ……てめえとあいつがそこで一緒にくたばってくれたら、むしろせいせいするぐらいだ」
「それはどうも……」
オレは少々苦笑いしつつ、その山頂に向かうことにした。
とにかく今は追いかけて、捕まえるしかないな。
「フォラジさんはここで待っていてください!」
「むう。ひょっとするとボクは余計なことをしてしまったのかな?」
いまさら気づいたのかよ! 遅すぎるけどな!
そんなわけでオレは駆け出す。
「ちょっと待ちたまえ――」
悪いけど誰かさんのせいで、ややこしくなりそうなので今は付き合っていられないんだよ。
だが次の瞬間、オレの前には行く手を塞ぐかのように炎が立ち上ったかと思うと、あっという間に周りに広がっていく。
それはまるで炎そのものが生きているかのようだ。
いや。オレの『霊視』でも霊力が感じられるから、間違い無く炎の精霊だろう。
どうやらあのシャーマンは自分の手なずけていた精霊を、ここで解き放ったらしい。
「ひぇぇぇ!」
「助けてくれぇ!」
先ほどオレが植物で縛り上げた山賊連中にも炎が延びていく。
もちろんこのままでは動く事も出来ないあいつらだけでなく、精霊に霊力を奪われ、地面に転がったままの奴らも全員、黒こげなのは確実だ。
ええい。不本意だけど仕方ない。
あんな外道連中でも生きたまま焼かれるのを見過ごしたら寝覚めが悪い。
オレは『霊体遮断』の魔法を使って、ひとまず炎の精霊を食い止める。
しかし精霊を止められても、そいつがつけた火まで消えるワケではなく、どんどんと燃え広がっていく。
「このままでは危ない。アル君。ここはいったん引こう」
フォラジはあっさりと言い切る。今まさに炎に飲み込まれようとしている山賊連中の事など考慮どころか、視界にも入っていないらしい。
もちろんフォラジにすれば、あいつらを助ける義理などこれっぽっちも無いどころか、砦を攻め落として神の社とそこにあった貴重な資料を破壊した連中なのだから、ここで死んでも自業自得としか思わないのだろう。
しかしオレはそんなわけにはいかないのだ。
ここで改めて『植物歪曲』を使って、縛り上げている連中を部分的に解放する。
顔が僅かに露出したところで、奴らは口々に喚く。
「早く助けてくれ!」
「このままでは死んじまう!」
「それではこちらに倒れているあなたの仲間達はどうします?」
「そんな事はどうでもいいから、早く助けやがれ!」
まったく相変わらずこういう連中は見苦しいな。このまま放置してやろうか、などという意識が僅かでも心にはよぎる。
「そうですか? ここでお別れですね」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
「それではここに倒れているあなた方の仲間も助けなさい」
「分かった。すぐにやるから!」
連中は口々に喚く。助かりたい一心で叫んでいるだけなのは分かっているけど、まあ倒れているのは奴らの仲間のはずだから、ここは信じるしかないか。
「君はそんな奴らを助けるつもりなのかね?」
「そうですよ」
「……」
躊躇無くオレが即答したら、一瞬だがフォラジは呆れた表情を浮かべるも、どこか納得した様子で頷く。
「まあ君ならそういうのだろうな。そんなところがボク達とは違うところか」
そんなわけでオレは捕まえた連中を解放する。
「ひぃぃぃ!」
「おい! こら! 手伝いやがれ!」
逃げていく連中もいるが、いそいそと仲間を助けようとするのもいる。
そっちはたぶん前々から仲間だったのだろうな。
それだったらそもそも仲間を『精霊のエサ』になんかするんじゃない、とツッコミを入れたいが命まで奪われない筈だったからそこは許容したのだろう。
「とにかくフォラジさんは逃げて下さい。わたしはさっきのシャーマンの後を追いますから」
シャーマン本人はたぶんオレが捕まえた山賊を助けるなどとは思っていなかっただろうから、さっきの炎の精霊など、ほんの少しの目くらまし程度にしか考えていなかったろう。
結果的にはかなり有効な足止めになってしまったが、これは仕方ない。
今からでも後を追ってどうにか捕まえるしかないが、どこに行ったのか分からないのでは探すだけでも一苦労だな。
「ちょっと待てよ!」
ここで山賊の一人――気絶した仲間を担いだ状態で――がオレに向けて叫んできた。
「なんですか? いまあなた方の相手をしている暇は無いんですけど」
「心配するな。今さらてめえとやり合う気はねえよ。こっちだって命は惜しい」
「それなら何の用です」
「お前はさっきのあいつを追うのか?」
「あいつ、ですか?」
「これまで『お頭』と仰いでいた俺達を焼き殺そうとしたヤツにまで付き合う気はねえよ」
それもそうか。
こいつらがもともとあのシャーマンについているのは、その方が得だと思っただけで、それ以上の忠誠心があったわけでもないからな。
「あいつならきっとこの先の山頂にある、古い古い小さな石造りの社にいるはずだ」
「そこで何をしているのですか?」
「詳しい事は知らねえが、そこで何かを見つけたとは言っていたな。もちろん俺達には見せてくれるどころか、何なのかすら教えてくれなかったけどな」
「分かりました。ありがとうございます」
「礼を言われる筋合いはねえよ……てめえとあいつがそこで一緒にくたばってくれたら、むしろせいせいするぐらいだ」
「それはどうも……」
オレは少々苦笑いしつつ、その山頂に向かうことにした。
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