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第19章 神気の山脈にて
第809話 フォラジとあらためていろいろと
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フォラジは石の祭壇を前にして、周囲を見回しつつあれこれとメモ書きをしながら、オレに対して説明を続ける。
「その神の首がいかなる存在で、どうなっているのかについては過去、数百年に渡り議論が戦わされ、幾つもの学説が生まれているんだよ」
それはいろいろな人間がめいめい勝手な説を唱えたせいで、かえって真相が分からなくなったという事なのではあるまいか。
元の世界でもせいぜい数十年前の出来事なのに、いろいろな人間が別々の事を唱えた結果、真相が不明になるどころか、むしろ間違った話が一般に広まってしまう事すらあったからな。
「フォラジさんはどう考えているのですか?」
「ボクだっていろいろと考えはあるが……真実はそう簡単に見つかるものじゃない」
「それではあなたがここに来たのは、何か手がかりを探すためだったのでしょうか」
ここでフォラジは少しばかり落胆した様子を見せる。
「ああ。その通りだよ」
「それではまだ手がかりが得られていないのですね?」
これまでもフォラジの振る舞いからして、もしも『神の首』について手がかりがあるなら、どれほどの危険があろうと、そこに駆けつけるはずだ。
それをしていないということは、まだ見当がついていないはず。しかしフォラジは思わぬ事を口にする。
「その首のありかについての見当はついているよ……」
「え? 本当ですか?」
それならどうしてそこを訪れていないのだろうか?
いや。普通に考えて遠い昔に失われて誰も見つけていないものが、そう簡単に手に入るなら苦労は無いし、非常に危険な場所にある事も当然考えられる。
だけどこれまでの向こう見ずなフォラジの態度からすれば、可能性がゼロでないのなら何をさておいても飛び込んでいこうとするはず。
「この地から遥か離れた場所なのでしょうか」
「それも違うよ。そう遠くもないさ」
だったらなぜこんなことをしているのだろうか?
フォラジの態度を見る限り、そこには行きたくないという雰囲気が漂っている。
たぶん自分自身に危険があるからではなく、また別の理由があるのだろう。
「ならばわたしにその場所を教えてくれますか? 見てきましょう」
ここでフォラジはかなり複雑な表情を浮かべる。
やはりこれまでと比較すると何かがおかしい。
「もしかすると……一度、確認して問題があったのですか?」
よくあるパターンで考えると――
『フォラジと言うよりマークホール神の信徒達もとっくの昔に探り当ててはいたけど、そこにあった神の首は既に息絶えたガラクタでしかなかった』
『くだんの首もまた粉々の小さな破片になっていた』
『先ほどの首無し精霊の逆パターンで、失われた胴体を求めて襲いかかってくる凶暴な精霊になっているので近づけない』
とかいろいろとあり得るな。
もっともこれまでそんな想像があまり当たっていない事は認めざるを得ないが。
「やれやれ。君はボクよりもよほど向こう見ずなのだな。普通はつい先ほどあんな目にあったら、少しは躊躇するものだろう」
フォラジは呆れたようにオレを見つめている。
こちらに言わせれば、フォラジの方がよほど無謀だよ。
こう見えてもオレは、あの手のピンチは何度も直面しては切り抜けてきたんだよ。
フォラジにも過去に同様の経験はあったかもしれないけど、傍目には危なっかしくてたまらないぞ。
しかしそこでオレはフォラジの視線の意味に気付く。
ああそうか。フォラジもたぶんオレの事を同じように見ているのか。
そりゃまあ傍目にオレは『か弱い乙女』の外見そのものだから、そう思われて仕方ないのかもしれないな。
だけど今はそのあたりをあれこれと説明している場合では無い。
「それでは教えて下さいますか?」
「分かったよ――」
「いえ。待って下さい」
ここで周囲の空気が先ほどと一変している事にオレもようやく気付いた。
しまった。フォラジとの会話と、後は何より祭壇に消えた『首無し精霊』の事ばかり気にしていたので、周囲への警戒を怠ってしまったよ。
「へへへ……こりゃあ役得だな……」
「男はともかく、女はスゲえ上玉じゃねえか!」
気がつくと周囲には山賊連中が集まってきていたのだ。
ざっと見た限りでも十人以上はいるようだな。
うっかり忘れていたけど、祭壇の周囲で精霊に霊力を奪われていたのは、こいつらの仲間なのだからな。
意識を失って倒れた連中を回収にきたわけか。
しかもオレの方は、気がつくとさっきの精霊との首を巡る争いのせいで、いつの間にか顔がむき出しになっていたのだ。
そんなわけで山賊共はあからさまに目の色を変えていた。
「うひょう。俺が一番だぜ!」
「馬鹿野郎。役得は平等に分け合うもんだ」
今までは神に捧げる『生け贄』を巡って、不毛な争いをしていた癖に、今回は協力するのかよ?!
要するに『生け贄は一度捧げてしまえばお終いだが、女は何度でも』と言う事なんだろう。
まったく胸くそ悪い連中だ。
「おい! 余計な真似をすると痛い目に遭うぜ!」
「光栄に思えよ。男の方は神様に遭わせてやるし、女の方は天国を見せてやるぜ」
「そう考えると本当に俺達は『聖人』だな」
本当に腐った連中だな。
まあこういう奴ら相手だと遠慮の必要も無いから、少しばかり気が楽だよ。
だがここでフォラジは連中からオレをかばうように前に立つ。
「アル君。幾ら君でも、これだけの相手は難しいだろう。ここはボクが連中を引きつけるから逃げたまえ。君なら何とかなるはずだ」
ううむ。そんなフォラジの姿がかっこいいかなという意識が心をよぎったのは、気のせいだと思いたい。
「その神の首がいかなる存在で、どうなっているのかについては過去、数百年に渡り議論が戦わされ、幾つもの学説が生まれているんだよ」
それはいろいろな人間がめいめい勝手な説を唱えたせいで、かえって真相が分からなくなったという事なのではあるまいか。
元の世界でもせいぜい数十年前の出来事なのに、いろいろな人間が別々の事を唱えた結果、真相が不明になるどころか、むしろ間違った話が一般に広まってしまう事すらあったからな。
「フォラジさんはどう考えているのですか?」
「ボクだっていろいろと考えはあるが……真実はそう簡単に見つかるものじゃない」
「それではあなたがここに来たのは、何か手がかりを探すためだったのでしょうか」
ここでフォラジは少しばかり落胆した様子を見せる。
「ああ。その通りだよ」
「それではまだ手がかりが得られていないのですね?」
これまでもフォラジの振る舞いからして、もしも『神の首』について手がかりがあるなら、どれほどの危険があろうと、そこに駆けつけるはずだ。
それをしていないということは、まだ見当がついていないはず。しかしフォラジは思わぬ事を口にする。
「その首のありかについての見当はついているよ……」
「え? 本当ですか?」
それならどうしてそこを訪れていないのだろうか?
いや。普通に考えて遠い昔に失われて誰も見つけていないものが、そう簡単に手に入るなら苦労は無いし、非常に危険な場所にある事も当然考えられる。
だけどこれまでの向こう見ずなフォラジの態度からすれば、可能性がゼロでないのなら何をさておいても飛び込んでいこうとするはず。
「この地から遥か離れた場所なのでしょうか」
「それも違うよ。そう遠くもないさ」
だったらなぜこんなことをしているのだろうか?
フォラジの態度を見る限り、そこには行きたくないという雰囲気が漂っている。
たぶん自分自身に危険があるからではなく、また別の理由があるのだろう。
「ならばわたしにその場所を教えてくれますか? 見てきましょう」
ここでフォラジはかなり複雑な表情を浮かべる。
やはりこれまでと比較すると何かがおかしい。
「もしかすると……一度、確認して問題があったのですか?」
よくあるパターンで考えると――
『フォラジと言うよりマークホール神の信徒達もとっくの昔に探り当ててはいたけど、そこにあった神の首は既に息絶えたガラクタでしかなかった』
『くだんの首もまた粉々の小さな破片になっていた』
『先ほどの首無し精霊の逆パターンで、失われた胴体を求めて襲いかかってくる凶暴な精霊になっているので近づけない』
とかいろいろとあり得るな。
もっともこれまでそんな想像があまり当たっていない事は認めざるを得ないが。
「やれやれ。君はボクよりもよほど向こう見ずなのだな。普通はつい先ほどあんな目にあったら、少しは躊躇するものだろう」
フォラジは呆れたようにオレを見つめている。
こちらに言わせれば、フォラジの方がよほど無謀だよ。
こう見えてもオレは、あの手のピンチは何度も直面しては切り抜けてきたんだよ。
フォラジにも過去に同様の経験はあったかもしれないけど、傍目には危なっかしくてたまらないぞ。
しかしそこでオレはフォラジの視線の意味に気付く。
ああそうか。フォラジもたぶんオレの事を同じように見ているのか。
そりゃまあ傍目にオレは『か弱い乙女』の外見そのものだから、そう思われて仕方ないのかもしれないな。
だけど今はそのあたりをあれこれと説明している場合では無い。
「それでは教えて下さいますか?」
「分かったよ――」
「いえ。待って下さい」
ここで周囲の空気が先ほどと一変している事にオレもようやく気付いた。
しまった。フォラジとの会話と、後は何より祭壇に消えた『首無し精霊』の事ばかり気にしていたので、周囲への警戒を怠ってしまったよ。
「へへへ……こりゃあ役得だな……」
「男はともかく、女はスゲえ上玉じゃねえか!」
気がつくと周囲には山賊連中が集まってきていたのだ。
ざっと見た限りでも十人以上はいるようだな。
うっかり忘れていたけど、祭壇の周囲で精霊に霊力を奪われていたのは、こいつらの仲間なのだからな。
意識を失って倒れた連中を回収にきたわけか。
しかもオレの方は、気がつくとさっきの精霊との首を巡る争いのせいで、いつの間にか顔がむき出しになっていたのだ。
そんなわけで山賊共はあからさまに目の色を変えていた。
「うひょう。俺が一番だぜ!」
「馬鹿野郎。役得は平等に分け合うもんだ」
今までは神に捧げる『生け贄』を巡って、不毛な争いをしていた癖に、今回は協力するのかよ?!
要するに『生け贄は一度捧げてしまえばお終いだが、女は何度でも』と言う事なんだろう。
まったく胸くそ悪い連中だ。
「おい! 余計な真似をすると痛い目に遭うぜ!」
「光栄に思えよ。男の方は神様に遭わせてやるし、女の方は天国を見せてやるぜ」
「そう考えると本当に俺達は『聖人』だな」
本当に腐った連中だな。
まあこういう奴ら相手だと遠慮の必要も無いから、少しばかり気が楽だよ。
だがここでフォラジは連中からオレをかばうように前に立つ。
「アル君。幾ら君でも、これだけの相手は難しいだろう。ここはボクが連中を引きつけるから逃げたまえ。君なら何とかなるはずだ」
ううむ。そんなフォラジの姿がかっこいいかなという意識が心をよぎったのは、気のせいだと思いたい。
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