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第19章 神気の山脈にて

第790話 襲撃者達の意図は?

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 幸か不幸か砦の周囲の建物は兵士たちの宿舎とあとはフォラジが住んでいた社やしろぐらいだから、一般人の犠牲はほとんど無さそうなのが唯一の救いか。
 もちろん兵士達に犠牲が出ているのは間違い無いし、ここは危険があるのは承知の上で少し調べに行こう。

 「わたしが行ってきて何が起きているのか見てきます。お二人はここで待っていて下さい」
 「そんなわけにはいかないよ」
 「あ、あたしはここで待たせてもらいます」

  どう考えてもハラーダの方がまともな反応というものだな。フォラジもいい加減、人並みとは言わないが、半分ぐらいは常識を学んで欲しいよ。

 「申し訳ないのですけど、フォラジさんには危険すぎます」
 「それでは君にとって危険ではないとでもいうのかい?」
 「もちろん危険ですよ――」
 「ならばなぜ君だけを危険に晒せるのだ! ボクにだって誇りはある!」

  なんだって? まさかフォラジはオレの身を案じていたのか?
  自分の研究成果のことしか頭に無い人間だとばかり思い込んでいたので、これはちょっとだけ驚きだ。

 「え? フォラジさんはご自身の研究成果がどうなったのかを確認するためにあそこに踏むこむつもりではないのですか?」
 「もちろんそれは大事だが、今駆けつけたところで、ボクにはどうにもならない事ぐらい見れば分かる。連中はここにとどまるわけでもないだろうから、奴らが立ち去った後で確認するしかないだろう」
 「それならばフォラジさんは、ここで待っていて下さい。わたし一人なら、どうにかなりますから」

 オレの言葉を聞いてフォラジはどこか納得する様子を見せる。

 「君のその態度からすると、今までこのような場面に何度も出くわし、しかもそれを乗り切ってきたのだね?」
 「ええ……いろいろありましてね」

 自分でも曖昧すぎる言いぐさだとは思ったが、フォラジは仕方ないとばかりに、大きなため息をつく。

 「分かったよ。ここは君に任せよう。ただし後で君の事について話をさせてもらうよ」
 「それは……いいでしょう」

  また変な記録を残されてしまいそうな気がするが、ここはフォラジが折れてくれた事に感謝して後の事はそれから考えることにしよう。

 「とにかくお二人は隠れていて下さい。また後で会いましょう」

  そんなわけでオレはまだ火が上がっている砦に向け、隠れて近づくことにした。

 「ああ。アル君も気をつけてな」

  去り際にフォラジが浮かべた心配げな表情は、ただオレの身を案じただけではなく、何か別の意図があるかのようにも思えるものだった。



  砦に近づくにあたってはまず『隠身』コンシールの魔法を自分にかけ、次に『忍び足』サイレント・ウォークを使う。
  これでオレの姿は周囲に溶け込み、足音も殆ど聞かれる心配は無くなる。
  ただしこちらから積極的に気付かれるような行動をすれば、魔法の効果は無くなる。
  あと『忍び足』はあくまでもオレ自身が立てる音を消す魔法であって、たとえば扉を開けるような事をした時に出る音まで消えるワケではない。
  周辺の音を全て消す『静寂』サイレンスの魔法なら、一切の音を遮断できるけどその場合は逆に近づいてくる相手の出す音も聞こえなくなってしまうので、かえって危険になる場合もあるのでこの場合は使わない。
  いずれにせよ魔力を感知する手段を使えば、これらの魔法の存在そのものを察知する事は可能だがそこらの山賊にそうそうそんな術は無いだろう。

  そんなわけでオレが砦に近づいて確認したところ、どうやら山賊達は打ち破った門から、砦に備蓄していた兵糧とあとは武器を運び出している様子だ。
  ここで略奪するものがあるとしたらそれぐらいだろうが、やはり普通の山賊の行動では無いな。
  何ものかが彼等を束ね、砦の攻略を命じたとしたらその目的はもっと大がかりな行動のための準備だろうか?
  ひょっとするとその相手は『椀かづき』への信仰を利用して、このあたり一帯を支配しようと目論んでいるのかもしれないな。

  もちろんこの砦を作ったテシュノ王国が黙っているはずはない。確実に討伐軍が編成されるはずだ。
  これが連中の全力では無いとしても、山賊の寄せ集めで討伐軍と正面切って戦うのは不可能だろうけど、こんな山あいの地に莫大な経費をかけて大軍を送り込むのはまず無理だ。
  手強い相手とは戦わず、山の中を逃げ回って、相手が引き上げるのを待つという山賊の戦い方をするに違いない。
  それはともかく連中が砦を襲った目的はそれだけだろうか?
  そう思ってたところで、もっと嫌なものが目に入った。
  門から縛られた兵士達がゾロゾロと連れ出されてきたのだ。
  もちろん大半は怪我をしており、手当は包帯というのもおこがましい汚れた布を傷口に巻き付けているのがせいぜいだ。

 「おらあ! キリキリと歩きやがれ!」
 「お前達はこれから神様とご対面出来る身だからな。何ともうらやましい事だぜ!」

  だいたい予想はしていたが、山賊達は捕虜にした兵士達を生け贄に捧げる事も目的としてここを襲撃したのだな。
  今はオレ一人ではどうしようもないが、しばらく時間をおけば山賊の監視も緩むだろう。
  そのとき機会を見て助け出すとしよう。
  取りあえずこれが分かっただけでも、ここに来た価値はあったと考えるべきかな。
  それと後回しになったけどフォラジの社がどうなったのかを確認して、いったん引き上げるとしよう。
  そう思って改めてフォラジの社を見たらそこに思わぬ光景が広がっていた。
  大勢の山賊がフォラジの社に入り込み、周囲を探し回っていたのだ。
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