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第18章 奇怪なる殺戮者?

第758話 身も心も一つになって

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 サレナはオレと怪物の両方を交互に見る。

「あんたがあたしと一体化して……それで『あれ』をどうにかするというの?」
「はい。今はそれが最善だと思います」

 最善の道を選択した時点で、既に崖っぷち状態なのはオレにとって本当にいつものことなんですけどね。

「そんな事を考えるなんて……あんた……やっぱりこのあたしよりもよっぽど人間離れしているわね……」
「そうかもしれません」

 まあ女神様扱いはしょっちゅうだからな。

「本当に……ほんっ~とうに名高い女英雄様の考える事は分からないわ」
「いまはそんな事を言っている場合ではありませんよ」

 オレは改めてサレナに頼み込む。

「人格や記憶を取り込まずにわたしと一体化すれば、きっとあれをどうにかするだけの力が得られる筈です。それで決着がついた後、改めて分離すればみんなが助かりますよ」
「あんたはあたしが『あれ』と一緒にこの世からいなくなった方がいいとか、そんな事は考えていないわけ?」
「当たり前です!」

 オレは躊躇なく即答した。

「あたしが『あれ』と共に人格を全部消すのは、疑似生命体という『化け物』が全部、まとめて封印できる一番、いい方法……そう思うのが普通なんだけどね……」
「確かにそれを考えなかったと言えば嘘になります」

 しかし『サレナ』が消えてしまうのを、はいそうですかと受け入れる事は出来なかった。
 彼女は確かに人間では無いかも知れないが、オレにとっては『友人』だし、何よりシドンの『姉』でもあるのだ。

「あんたは嘘つきなのか正直なのかよく分からないわ」
「そういうのをお互い様というのですよ」

 何というか、妙なところで息があってしてしまった気がするな。
 まあ。変わった友人には事欠かない自負はあるよ。

「断っておくけど、そこまでしても『あれ』を倒せる保証も無いし、ましてその後で無事にあんたと分離出来るかどうかも分からないのよ」
「それぐらいはわたしにとってはいつもの事ですよ」
「あんたは本当にこれまでいろいろなモノを見てきたのね……まったく想像の埒外にも程があるわ」

 どうやら納得はしてくれたらしい。

「それで前もって聞いておくけど……仮にあんたの思惑通りいったとして、その後の事は考えているの?」
「当然、シドンに事情を説明しましょう。わたしも協力しますし、きっとわかってくれるはずです」

 正直言って、シドンの件については自分でも楽観が過ぎているとは思う。
 シドンがこちらの語る『真実』を聞き入れてくれない場合もあるし、仮に聞き入れたとしてもオレのようにあっさりとサレナを受け入れるとは限らない。
 それどころかシドンから『化け物』扱いのままとなる可能性だって否定出来ない。
 サレナだってそんな事は分かりきっていたから、シドンに対し自分の正体を隠していたのは自明の理というものだろう。
 むしろあっさり受け入れたオレが『異常』なのだ。
 しかしそこでサレナも覚悟を固めたようだ。

「分かったわ。それから先の話は、この場をどうにかしてからにしましょう」

 そういってサレナはオレを抱きしめ、そして水銀の身体が溶けはじめる。いや。そんなものではない。
 その水銀がどんどんオレの身に染みこんできているのだ。
 正直なところ、あまり気分がいいものではないな。

「どうするの? 今からでも辞めていいけど」
「必要がなければ最初からやる気はありませんよ」

 オレ達が傍目には暢気とも思えるやり取りをしている間にも、かつてガザックだった毒々しい色の巨体はヒュールの町を暴れ回っている。
 もちろん周囲からは攻撃魔法らしきものが次々に撃ち込まれているのだが、少しばかり肉を抉るぐらいで、倒すどころかその破壊活動を食い止める程の力も無いらしい。
 このままでは本当に町は壊滅してしまうだろう。

「それではいくわよ!」

 オレの視界を白銀が覆い、そして次の瞬間には意識もまた白銀で満たされた。


《どうやら何とかなったようね……》
「あれ? ここは?」

 一瞬だが意識を失っていたオレがサレナの言葉に気がつくと、周囲の風景は一変していた。
 魔法の『鷹の目』イーグルアイで見下ろしているのに近い感覚もあるが、ただ単純に視点が高くなったようだ。
 思わず自分の身体を確認したが、どうやらさっきまでの『水銀の乙女』が大幅に巨大化したものらしい。
 周囲の建物と比較して、だいたい十倍ぐらいのサイズになっただろうか。
 白銀の巨人だと、もしも身体に赤いラインが入っていたら、名高き特撮ヒーローたるウル○ラマンを彷彿とさせる姿かもしれない。
 もっとも空を飛ぶとか、光線を放って敵を爆殺するとか、ヒーローっぽい能力はさすがに無いだろうけどな。

《ちょっと、あんた! しっかりしてよ! あんまりこの形態をとっていられる時間は無いんだからね!》

 改めてサレナの叱責が脳内に響き、どこか現実逃避していたオレはどうにか正気に戻る。

「あんまり聞きたくはありませんけど、その時間を過ぎたらどうなるのですか?」
《もちろんお互いの人格が融合して、離れられなくなるわよ。狂気に陥るか、仮に正気を維持出来たとしても、ずっとこの形態のままになるわ》

 うげげ。なんて嫌な『身も心も一つになる』行為だろうか。
 もちろん時間を教えてくれるカラータイマーなんて無いから、こうなってはとにかく急いでやるしかない!
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