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第17章 海と大地の狭間に
第683話 ここから先は『開拓者』の領分です
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関所は見たところ十人ほど兵士達が街道を警戒している様子だ。
兵士達はどうやら地元の村人を徴集した民兵らしく、使い回しとおぼしき粗末な革鎧と槍を持っている。
またその中で一人だけ金属の胸鎧と大きな円形の盾、あとかなり立派な槍を装備しているのが見える。
明らかに装備が別格なので、恐らくはここの指揮官だろう。
円形の盾には地平線らしき線と、そこから伸びる光条らしきものが描かれている。恐らくは日の出を象徴しているのだろう。
確かにヴェガの言葉通り、彼らは太陽神を信仰しているらしいな。
今までの経験から、こういう連中には下卑た言葉で絡まれるどころか、下手をすれば襲われ事すらあり得るのでひとまず『調和』をかけて、暴力的行動を抑止しておこう。
「止まれ! 何用だ!」
オレ達四人――エレリアは馬に乗せてもらって後は徒歩――が関所に近づくと、民兵の一人が静止の声をかけてくる。
それに対しヴェガは愛用の槍を掲げて応える。
「我が名はヴェガ=インヴィクタス。アンティリウス神に仕えし武装司法官だ」
「なんだと? お前が司法官だと?」
明らかに民兵達は怪訝な表情を浮かべている。
まあヴェガは司法官に女性は例外的な存在だと言っていたから、そういう反応をされる事は何度もあったのだけど、今回は少しばかり勝手が違うようだ。
どういうわけかヴェガが名乗ったところでむしろ兵士達の警戒度がむしろ増しているように感じられる。
そして先ほどの指揮官らしき男が民兵に連れられてやってきて、ここでヴェガを含めたオレ達一行に厳しい視線を注ぐ。
「我はケルマル神に仕えし『光の主』ジャルストだ。アンティリウスの司法官だという輩はお前か?」
ケルマルの名は大分前に太陽信仰に触れたとき、名前を聞いた事があるな。確か朝焼け夕焼けを司る神だったはず。
そしてジャルストと名乗った男はヴェガに対してあからさまに警戒と侮蔑の意志を示しているが、ケルマル神とアンティリウス神の教団は同じ太陽信仰の勢力に属しているにもかかわらず、そんなに敵対しているのだろうか?
確か以前にライバンスの大図書館で調べた記録を魔法で脳内に収納しているので、久しぶりにそこから記録を引き出してみるか。
まあこの情報はあくまでも図書館にあった資料のものであって、記載した人間の主観が強く出ているから、鵜呑みにするのは禁物だけどそれでも参考にはなるだろう。
《ケルマルは太陽神の一柱であり、太陽が地表から出る前の朝焼けの光、そして地平線に沈んだ後の夕焼けの淡い光を司る》
このあたりはこれまで断片的に聞いていた事と変わらないな。
《この神への崇拝はごく少数派であり、太陽を信仰する地域でも辺境の地で僅かな勢力を有するのみである。それは彼らの神が太陽が地表から見えない僅かな時間だけ輝く事の象徴であると見なされる》
まあ朝焼け、夕焼けの神様ならその程度のものだろうな。
しかしそれにしては信徒達は随分と偉そうな態度を取っているように思えるな。
《信徒は少数ではあるがこの神は『開拓者の神』として知られている。信徒達は未開発の辺境の地、天変地異で荒廃した地域に乗り出し、開拓にその生涯を捧げる事を喜びとする。なぜならば彼らの教義ではそのような地域は『日の沈んだ後の光を受けた夕焼けの地』と呼ばれ、神の祝福を受けた土地と見なされるからである》
う~ん。朝焼け夕焼けの弱い光を司っているのならおとなしい神様かと思ったら、それだからこそ信徒には過酷な『開拓者魂』を要求する神様なのか。
そしてこの先は遠い昔、火山の噴火で火砕流に呑み込まれた地域だからな。
そのような土地に分け入り、開拓するのが彼らに与えられた神命というわけだ。
これだけなら立派な教団に思えるけど、それだけで事が済むとはとても思えない。
《そしてその地の開拓が進むとそこは『日の出前の光を受けた朝焼けの地』となり、信徒達は小さな国を作って自らの支配地域とする》
むう。これはちょっとやばい空気が漂ってくるぞ。
《ケルマル信徒は自分達の開拓した土地を巡り、多くの場合、周囲の勢力と恒常的な緊張関係にある。このため彼らの共同体は通常、極めて排他的である》
ああ。やっぱりそうか。
未開の荒野と言っても、そこを自分達の領域としている先住民は当然いるだろうし、災害で荒廃したとしても、それ以前にその地を支配していた勢力が、勝手に入り込んで開拓する人間をよく思う筈が無い。
ましてやケルマル信徒が苦労して開拓した土地を『そこは自分達の土地だ』だと権利を主張する相手がいたら、確実に争いになるだろうな。
だからこうやって彼らの考える『朝焼けの土地』を必死で守っているというわけか。
《ケルマル信徒は神に与えられた開拓地にて彼らに協力し、過酷な生活を共にする人間は喜んで仲間に迎え入れて心からの友情を示すが、そうでない――つまり殆どのよそ者――には常に警戒、そして槍の切っ先をもって接する》
なるほど。確かにこれではオレ達が歓迎されるワケが無い。
しかしこれもまた何とも厄介な話だな。
ケルマル信徒にすれば血のにじむような努力をして火山の噴火で荒廃した地域を開拓したのだから、そこは間違い無く『自分達の土地』であるわけだ。
そしてそういう譲れない状況にあるから、外部の人間に対しては常に閉鎖的ということになる。
まあこの地の場合は幸か不幸か、元からいた人間は噴火の折に殆ど潰滅してしまったのかもしれないけど、それでも周囲に対して疑いの目を向ける事に変わりは無いらしい。
オレの予想とは確かに大違いだったが、これはこれから行動するにあたって実に面倒な土地なのは間違い無い。
兵士達はどうやら地元の村人を徴集した民兵らしく、使い回しとおぼしき粗末な革鎧と槍を持っている。
またその中で一人だけ金属の胸鎧と大きな円形の盾、あとかなり立派な槍を装備しているのが見える。
明らかに装備が別格なので、恐らくはここの指揮官だろう。
円形の盾には地平線らしき線と、そこから伸びる光条らしきものが描かれている。恐らくは日の出を象徴しているのだろう。
確かにヴェガの言葉通り、彼らは太陽神を信仰しているらしいな。
今までの経験から、こういう連中には下卑た言葉で絡まれるどころか、下手をすれば襲われ事すらあり得るのでひとまず『調和』をかけて、暴力的行動を抑止しておこう。
「止まれ! 何用だ!」
オレ達四人――エレリアは馬に乗せてもらって後は徒歩――が関所に近づくと、民兵の一人が静止の声をかけてくる。
それに対しヴェガは愛用の槍を掲げて応える。
「我が名はヴェガ=インヴィクタス。アンティリウス神に仕えし武装司法官だ」
「なんだと? お前が司法官だと?」
明らかに民兵達は怪訝な表情を浮かべている。
まあヴェガは司法官に女性は例外的な存在だと言っていたから、そういう反応をされる事は何度もあったのだけど、今回は少しばかり勝手が違うようだ。
どういうわけかヴェガが名乗ったところでむしろ兵士達の警戒度がむしろ増しているように感じられる。
そして先ほどの指揮官らしき男が民兵に連れられてやってきて、ここでヴェガを含めたオレ達一行に厳しい視線を注ぐ。
「我はケルマル神に仕えし『光の主』ジャルストだ。アンティリウスの司法官だという輩はお前か?」
ケルマルの名は大分前に太陽信仰に触れたとき、名前を聞いた事があるな。確か朝焼け夕焼けを司る神だったはず。
そしてジャルストと名乗った男はヴェガに対してあからさまに警戒と侮蔑の意志を示しているが、ケルマル神とアンティリウス神の教団は同じ太陽信仰の勢力に属しているにもかかわらず、そんなに敵対しているのだろうか?
確か以前にライバンスの大図書館で調べた記録を魔法で脳内に収納しているので、久しぶりにそこから記録を引き出してみるか。
まあこの情報はあくまでも図書館にあった資料のものであって、記載した人間の主観が強く出ているから、鵜呑みにするのは禁物だけどそれでも参考にはなるだろう。
《ケルマルは太陽神の一柱であり、太陽が地表から出る前の朝焼けの光、そして地平線に沈んだ後の夕焼けの淡い光を司る》
このあたりはこれまで断片的に聞いていた事と変わらないな。
《この神への崇拝はごく少数派であり、太陽を信仰する地域でも辺境の地で僅かな勢力を有するのみである。それは彼らの神が太陽が地表から見えない僅かな時間だけ輝く事の象徴であると見なされる》
まあ朝焼け、夕焼けの神様ならその程度のものだろうな。
しかしそれにしては信徒達は随分と偉そうな態度を取っているように思えるな。
《信徒は少数ではあるがこの神は『開拓者の神』として知られている。信徒達は未開発の辺境の地、天変地異で荒廃した地域に乗り出し、開拓にその生涯を捧げる事を喜びとする。なぜならば彼らの教義ではそのような地域は『日の沈んだ後の光を受けた夕焼けの地』と呼ばれ、神の祝福を受けた土地と見なされるからである》
う~ん。朝焼け夕焼けの弱い光を司っているのならおとなしい神様かと思ったら、それだからこそ信徒には過酷な『開拓者魂』を要求する神様なのか。
そしてこの先は遠い昔、火山の噴火で火砕流に呑み込まれた地域だからな。
そのような土地に分け入り、開拓するのが彼らに与えられた神命というわけだ。
これだけなら立派な教団に思えるけど、それだけで事が済むとはとても思えない。
《そしてその地の開拓が進むとそこは『日の出前の光を受けた朝焼けの地』となり、信徒達は小さな国を作って自らの支配地域とする》
むう。これはちょっとやばい空気が漂ってくるぞ。
《ケルマル信徒は自分達の開拓した土地を巡り、多くの場合、周囲の勢力と恒常的な緊張関係にある。このため彼らの共同体は通常、極めて排他的である》
ああ。やっぱりそうか。
未開の荒野と言っても、そこを自分達の領域としている先住民は当然いるだろうし、災害で荒廃したとしても、それ以前にその地を支配していた勢力が、勝手に入り込んで開拓する人間をよく思う筈が無い。
ましてやケルマル信徒が苦労して開拓した土地を『そこは自分達の土地だ』だと権利を主張する相手がいたら、確実に争いになるだろうな。
だからこうやって彼らの考える『朝焼けの土地』を必死で守っているというわけか。
《ケルマル信徒は神に与えられた開拓地にて彼らに協力し、過酷な生活を共にする人間は喜んで仲間に迎え入れて心からの友情を示すが、そうでない――つまり殆どのよそ者――には常に警戒、そして槍の切っ先をもって接する》
なるほど。確かにこれではオレ達が歓迎されるワケが無い。
しかしこれもまた何とも厄介な話だな。
ケルマル信徒にすれば血のにじむような努力をして火山の噴火で荒廃した地域を開拓したのだから、そこは間違い無く『自分達の土地』であるわけだ。
そしてそういう譲れない状況にあるから、外部の人間に対しては常に閉鎖的ということになる。
まあこの地の場合は幸か不幸か、元からいた人間は噴火の折に殆ど潰滅してしまったのかもしれないけど、それでも周囲に対して疑いの目を向ける事に変わりは無いらしい。
オレの予想とは確かに大違いだったが、これはこれから行動するにあたって実に面倒な土地なのは間違い無い。
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