異世界転移したら女神の化身にされてしまったので、世界を回って伝説を残します

高崎三吉

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第15章 とある御家騒動の話

第557話 改めてドズ・カムの町について

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 そんなわけでオレはしばらくドズ・カムの町に逗留する事となった。
 もちろん現状では自由に出歩くのは難しいし、当面は情報収集をするしかあるまい。
 この世界では、公正な第三者によって記された記録というものは殆ど無く、とんでもない偏見や誤解に基づくものも多いから、そこは注意が必要だ。

「ところでミリンサさんはどうされるのですか?」

 ミリンサの立場を考えれば、少なくとも投票で領主が決まるまでは実家に気軽に帰るわけにはいかないだろう。
 どの勢力も血眼になって迫ってくるはずだ。

「ミリンサもしばらくはこの寺院に逗留してもらいましょう。アルタシャ様もそれでよろしいでしょうか?」
「それしかないでしょうね……」

 ミリンサも不本意らしいが、投票までの辛抱となると仕方ない話だな。
 さすがに町の神の寺院を武力で襲撃はしないだろうけど、それでもミリンサに会わせろといろいろ押しかけてくるに違いない。
 しかしこの場合、言ってみれば大司祭が『最後の一票』を握るわけで、ドロムはこの状況を利用して自分の権威を高めようとする意図があるのかもしれないな。
 そう考えるといろいろ複雑だが、今はそれしか選択肢が無いのも確かだろう。


 しばしの後、ミリンサが別の部屋に移ったところでドロムが問いかけてくる。

「ところでアルタシャ様に何かお望みの事はあるでしょうか?」
「それでは現在の町の状況についてお教えいただけますか」
「分かりました」

 大司祭ドロムの説明によると、現在このドズ・カムは帝国との関わりをどうするかで大ざっぱに三つの勢力に別れているらしい。
 もともとこの町は数百年前にマニリア帝国の傘下に入り、帝国と皇帝に忠誠を誓ってはいるが、それはあくまでも表向きの話だ。
 実際には『税を納める見返りに、外敵の侵略など自分達の手に余る出来事について国家の庇護を得る』という関係であり、町の政治に関しては自治が認められていた――これはマニリア帝国に限らず、この世界における地方領主の多くが国家と似た関係にある。

 当然、それらの領主は傘下に入っている国が頼りにならないと判断すれば、さっさと見限ってもっと頼りになる別の国に乗り換えるか、そこまでいかなくとも独立の傾向を強める事になる。
 このドズ・カムの町でも帝国の勢力衰退により、その独立意識が強まる傾向にあったのだが、ウァリウス皇帝が帝国を立て直しつつある事から、この町でもいろいろな立場の人間が出てきたらしい。

 まずは帝国派と呼ばれる勢力だが、彼らは名前の通り帝国との関係強化を望んでおり、主に帝国と商売している商人達の支持が多い。
 帝国法とこの町のしきたりとの違いをなるだけ無くす事を望むなど、自治よりも帝国との一体化を優先している派閥だ。

 次にくるのが保守派。つまり現状維持を望む勢力であり、行動を起こすよりも状況を傍観して結果を見るのを望んでいる。
 取りあえずは平穏に過ごすことを優先しており、数の上ではもっとも多いようだが、一つの勢力というよりは雑多な集まりなので集団として行動しているわけではなく、数の割に声は小さい――元の世界で言えば『サイレントマジョリティ』というところだ。

 最後が独立派で彼らは帝国に税金を納める事を帝国の搾取と見なし、帝国からやってきた商人達が町を食い物にしていると反発している。
 どちらかと言えば若者に支持が多く、彼らは性急な行動に出る傾向があるようだ。
 ただミリンサを襲ってきた連中が、そのどこに属しているかはよく分からない。
 性急な行動に出る傾向があるとすれば独立派だけど、それもあくまでも傾向に過ぎない。

 どの派閥が絡んでいても不思議では無いし、逆を言えば派閥とは関係無くただ領主の座が欲しいだけという事も考えられるのだ。
 そんなわけで迂闊な決めつけは禁物だな。
 あとドロム本人がどの派閥に属しているのかはよく分からない。
 もちろん大司祭本人の考えはあるのだろうが、どうも各派閥のバランスを取って市政を安定させるのを望んでいるらしい――ただそのためか性急な行動に出やすいらしい独立派を警戒しているようにも見える。
 それにオレの逗留を望んだと言う事は、少なくともドロムは『帝国の権威』を利用しようとしているわけで、その意味でも独立派と距離があるのは確かだろう。
 そんな事を考えていると、ドロムはおずおずと問いかけてくる。

「アルタシャ様とすれば、やはり帝国派を支持なさいますか?」

 まあオレが皇帝と昵懇な関係にあると聞いていれば、そう考えるのが当たり前だよな。
 オレも皇帝もこの町の領主が誰になろうと興味は無いとは伝えたが、大司祭がはいそうですかとそれを聞き入れるとは思えない。

「いいえ。繰り返しになりますが、この町の政治に口を挟む気はありません」
「そう言って下さると私も助かります……」

 ドロムは胸をなで下ろした様子だ。
 オレが迂闊な発言をすれば、各派閥のバランスが崩れかねないので、町の神の大司祭とすれば神経質にならざるを得ないのだろう。
 要するにドロムは『皇帝の権威だのオレの名声だのを利用しつつ、口出しをされない微妙な綱渡り』をやろうとしているわけだ。
 しかしこんな地方都市でも、政治のややこしさは変わる事は無いのだなあ。
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