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第15章 とある御家騒動の話

第551話 ひとまず目的地について

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 見たところ小さな検問だが、こんな裏道でも見張りがいるとは。
 まあ相手がドズ・カムの町にいるのなら、当然ながら地元の利があるわけで町に向かう道は全部、封鎖されていても不思議では無い。
 ただ見えている相手は五人しかいないようだ。
 またあまり真剣に見張っている様子もないところを見ると、さほど気にはしていないらしい。これならここを突破するだけなら簡単だ。
 ただ面倒なのは相手がドズ・カムの町の関係者だと、危害を加えたらこっちが犯罪者と言う事にされてしまいかねない。
 そうすると相手が少数であるなら、ここはちょっとばかり黙ってもらうとしよう。

「ミリンサさんはここで隠れていて」
「どうするのですか?」
「わたしが何とかしますので、合図するまで待っていて下さい」
「……大丈夫なのですか?」
「もちろんですよ」

 そう言ってオレはゆっくりと検問に近づく。
 当然ながらフードをかぶって顔を隠しているオレを見ると、一斉に視線が注がれる。
 そして少し離れたところで警戒の声が飛んできた。

「おい。そこのお前、ちょっと止まれ」
「なんでしょうか?」

 オレがひとまず応じて足を止めると、相手は武器を構えつつ、こちらを警戒した様子を見せる。

「あの? どうかしましたか?」
「とりあえずそのフードを取って顔を見せろ」

 その要求は当然考えられたけど、顔を見るなら普通はもっと近くに寄ってからにすべきなのではなかろうか。

「別に構いませんけど、よろしければ理由を教えて下さい」
「その声は女か……」
「なんだと?!」

 待ち構える連中の間に更なる緊張が走る。
 もっともそれは以前に出会った連中のように『女の一人旅を格好の餌食』にするつもりがあるからなのか、また別の意図があるのかは分からない。

「それで理由は何ですか?」
「何でもろくでもない女の魔法使いが、ドズ・カムの町に向かっているそうだ。だから俺達が見張っているんだよ」

 どうやらオレの行動がかなり無駄に注目されてしまったらしい。
 ただこれだけではミリンサについてどう考えているのかは分からない。
 しかし相手が『魔法使い』を警戒しているとなると、詳しく聞き出すのは難しいな。
 オレの場合、どれだけの魔力があろうと、一度捕まって拘束されてしまったら圧倒的に不利になってしまうのだ。
 そんなわけでオレは『平静』カームの魔法を一人一人にかけていく。
 これで短時間は連中の意識を固定して、一切行動出来ないようにするのだ。

「おい? どうした――」
「なんだ? なにが起きて――」

 仲間が立ちすくんで動きを止めたのを見て、驚いた男もまた次々に動きを止める。

「まさかお前は――」

 最後の男がオレを睨み付けたところで、また動きが止まる。
 とりあえず他に動く相手がいないのを確認したところで、オレはミリンサを呼び寄せる。

「これでしばらくは大丈夫です。すぐにこの場を離れましょう」
「ありがとう……しかし……」

 どうやら検問していた相手の中にちょっとした知り合いがいたらしいな。

「とりあえず急ぎましょう。もうしばらくすればあの人達も正気を取り戻しますよ」

 何らかの精霊にでもイタズラされたと思ってくれたらいいけど、そんなに都合よくいくとは思えない。
 とにかく急いでドズ・カムの町に向かうしかない。

「もうしばらく先に進めば、ドズ・カムの城壁の町が見えてくるのですね」

 もともとミリンサ本人が罪人として追われているワケでは無い以上、いくら何でも城壁が見えているところで大騒ぎは出来ないはずだ。

「ええ。そうです……」

 ミリンサは不安そうだな。これだけ大がかりに追い回されたら当然というべきか。
 しかし本当にどんな理由があって、こんな大事になっているんだろう。
 これまでの情報を整理すると

・ドズ・カムの町では最近、領主が亡くなった。領主後継者は複数名乗り出ていて、後継者争いが起きている。
・次代の領主は市民である成人女性達の無記名投票で決まる。なお市民の女性はミリンサによると数にして数百人はいる。
・ミリンサはこの領主選挙に投票するため、ドズ・カムの町に向かっていて追っ手はその妨害なりミリンサを捕らえるなりしようとしている。
・追っ手は大勢の人間を駆り出し、魔法使いを何人も雇うだけの勢力である。
・候補者の一人はミリンサの幼なじみ(名前はアラズバン)だが、そのアラズバンを含めてミリンサ自身も個々の候補については詳しく知らない。
・ミリンサの実家はそれなりに裕福だが、歴代の領主とは殆ど関係が無く、市政には関わらない傍流の家である。
・ミリンサの票については実家が候補者達に売り込むだけの価値がある。またミリンサ自身も自分が追われる理由には見当がついている。

 う~ん。仮に市民の女性が数百人いる状況で、有力候補が一票レベルの差で争っていたとしても、ミリンサ一人をそんなに躍起になって追い回すよりも、元から町にいる女性達の票を固めた方がよほど確実な筈だ。
 それなのにここまでミリンサ一人に固執する理由は何なのだろう。
 ミリンサの実家は歴代の領主とは殆ど関係が無いのだから、他の投票人に大きな影響があるとも思えない。
 待てよ――今までオレは漠然と領主との関わりの深さの事を考えてきたけど、ひょっとしたら歴代の領主との関わりが薄い事にこそかえって何か意味があるのかもしれないぞ。

「ミリンサさん……ひょっとしたらあなたの実家が――」
「あ?!」

 オレがそこまで口にしたところで、ミリンサの小さく叫んで表情が一変する。

「どうしました?」
「どうやらもう大丈夫なようです。出迎えが来ました」

 見ると何人かの一団がこちらに近寄ってきていた。そしてミリンサもフードを外し、そこで何かに気付いた様子でオレに振り向く。

「すみませんが髪を元に戻してくれますか?」
「あ……分かりました」

 そういえばミリンサの髪はオレが魔法で黒く染めていたのだな。
 そしてオレ達はひとまずその出迎えという一団に合流するが、それがどんな結果を招く事になるのか分かるまでもうしばらくかかるのだった。

【後書き】
ちなみにドズ・カムの名前の由来はエルリックサーガにちょっとだけ出てくる地名です。
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