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第15章 とある御家騒動の話
第520話 新たな厄介事の切っ掛けは
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ビネース達と別れたオレは今のところ大陸の東側を目指して旅を続けている。
ぶっちゃけあんまり当ては無いのだが、それでも一箇所に留まり続けるよりはマシだろうという、まるで逃亡犯のような行動だ。
まあオレの場合、どこにいても目立ちまくるし、そのせいでいつも厄介事に関わるか、周囲の人間から否応なく注目を集めるかのいずれかで、そうなると呼んでもいないのにオレを追いかけてくる相手の心当たりには事欠かない。
そういえばこのあたりは以前に訪れたマニリア帝国の領土に入っているはずだ。
もっともこの世界では精密な地図も無いので、国境線も海だの川だの、明確な地形的境界が無い限り厳密なものでもなく、だいたいの範囲という程度だ。
また表向きはどこかの国の領土となっていても、その王を地域の領主や町が形式的な君主として仰いでいるだけで、実際にはほぼ独立しているというところも多く、元の世界における国境線のようなカッチリした区分けは存在しない。
それはともかくオレがマニリア帝国を出てから半年ちょっとぐらいのはずだけど、もう随分と昔のような気がするな。
初めての女装だとか、一時の事とはいえ後宮に入って『皇帝の女』になっていたとか、あとは思い出したくも無いファーストキスとか、まあいろいろあったものだ。
話によるとオレと別れた後の皇帝ウァリウスは結構、政治家としての手腕を発揮して一応は国の平穏を取り戻してはいるらしい。
そしてあんまり嬉しくもないのだが、それにオレ自身が一役買ってしまっているとも聞いている。
どういう事かといえば、ウァリウスが叔父の大公を取り除いた時、後宮にてウァリウス、及び同行してきた将軍たちの前でオレが尋常で無い魔力を披露したのを利用して、ウァリウスは『女神の恋人』ということで自分の権威付けに使っているらしい。
血筋だけで皇帝になったウァリウスは普通ならば単なる操り人形で終わるはずだが、どうやら皇帝を傀儡にして国政を支配しようとする連中に対抗するため『自分はもう女神様の傀儡だから』と言っているわけだ。
何ともしたたかというか、図々しいというか、さすがは曲がりなりにも千年に渡りこの国の国家元首の座を守ってきた一族の血を引くだけの事はあると感心すべきだろうか。
そんなわけでもしもウァリウス皇帝が、万が一にもオレの存在を察知したら、軍勢を率いて押しかけて結婚を迫ってくるかもしれない。
いや。ほぼ確実にそうなるだろう。
そういう面倒事はなるだけ避けたいので、オレはいつのもように隠れて人里を離れたところを移動していた。
これで何事も無ければいいが、残念ながらそういうわけにもいかないのが、オレの運命というものなのだ。
そして山道を進んでいると、幾人かの武装した人間が見えてきた。
遠目では身なりはそれなりによく、山賊の類いでは無いらしいが、その様子からしてどうやら検問の類いらしい。
こんな山道をわざわざ見張るとなると、密輸の取り締まりか、さもなくば犯罪者の逃亡阻止か。
いずれにしても何かありそうだ。
そうすると向こうもオレに気付いたらしく近づいてくる。
ひょっとすると感知魔法の類いをかけていたのか、結構反応が早いな。
「おい! そこのお前、こっちにこい」
今のオレはフードを被って顔を隠し、髪の毛も黒く染めているから一見して何者かは分からないはずだが、その一方でかなり怪しい外見をしている事は理解している。
ひょっとすると追っている対象はオレ自身かもしれないので、ここはひとまず『調和』をかけて暴力的な行動には出られないようにしておこう。
「あのう。あなた方はどこのどなたですか?」
「そんな事は関係無い! そのフードを取って顔を見せろ!」
もちろん写真など無いこの世界にて、顔を見せたところで即座にオレだとは分かるまい。
しかしオレの容姿が並外れて目立つのは間違い。
仮に連中がオレを追っていなくとも、話を広められるとまた面倒な事になるかもしれないな。
「どうした! 早くフードを取れ!」
どうやら連中が何者か、というこちらの質問には答えてくれないらしい。
まあ『調和』で相手は暴力的な行動には出られないし、オレの場合はドルイド系魔法により野外行動も有利なので彼らを振り切る事はそう難しくないが、今は事を荒げるのもなるだけ避けたい。
「分かりました。それではこれでどうですか?」
ひとまずフードを外して素顔を晒す。
そうするとこちらを注目していた連中が揃って息を呑む様子が感じられた。
「おい……こいつはもしや……」
「いや。話とはだいぶ容姿が違うぞ」
どうやらこの発言からすると、連中が探しているのは今のオレと同じぐらいの若い女性であるらしい。
そしてフードを取れと言った時の態度からすると、その相手が変装している事が想定されているようだな。
「おい。なぜお前は顔を隠していた?」
「一人旅ですから、顔をさらすわけにはいかないのですよ」
この世界では『女の一人旅』など危険極まりないので、フードで顔を隠し性別不詳で行動するのはそう不自然な行動ではないはずだ。
「とにかくこちらにこい。念入りに調べてやる」
おい! 何だその『目当ての相手ならよし。違っていてもこれならよし』と言わんばかりに下心丸出しの態度は。
やっぱりオレの容姿を見せるとろくな事にならんのだな。
今さらながら振り切ってとっとと逃げ出すべきだったと、少しばかり後悔する羽目となっていた。
ぶっちゃけあんまり当ては無いのだが、それでも一箇所に留まり続けるよりはマシだろうという、まるで逃亡犯のような行動だ。
まあオレの場合、どこにいても目立ちまくるし、そのせいでいつも厄介事に関わるか、周囲の人間から否応なく注目を集めるかのいずれかで、そうなると呼んでもいないのにオレを追いかけてくる相手の心当たりには事欠かない。
そういえばこのあたりは以前に訪れたマニリア帝国の領土に入っているはずだ。
もっともこの世界では精密な地図も無いので、国境線も海だの川だの、明確な地形的境界が無い限り厳密なものでもなく、だいたいの範囲という程度だ。
また表向きはどこかの国の領土となっていても、その王を地域の領主や町が形式的な君主として仰いでいるだけで、実際にはほぼ独立しているというところも多く、元の世界における国境線のようなカッチリした区分けは存在しない。
それはともかくオレがマニリア帝国を出てから半年ちょっとぐらいのはずだけど、もう随分と昔のような気がするな。
初めての女装だとか、一時の事とはいえ後宮に入って『皇帝の女』になっていたとか、あとは思い出したくも無いファーストキスとか、まあいろいろあったものだ。
話によるとオレと別れた後の皇帝ウァリウスは結構、政治家としての手腕を発揮して一応は国の平穏を取り戻してはいるらしい。
そしてあんまり嬉しくもないのだが、それにオレ自身が一役買ってしまっているとも聞いている。
どういう事かといえば、ウァリウスが叔父の大公を取り除いた時、後宮にてウァリウス、及び同行してきた将軍たちの前でオレが尋常で無い魔力を披露したのを利用して、ウァリウスは『女神の恋人』ということで自分の権威付けに使っているらしい。
血筋だけで皇帝になったウァリウスは普通ならば単なる操り人形で終わるはずだが、どうやら皇帝を傀儡にして国政を支配しようとする連中に対抗するため『自分はもう女神様の傀儡だから』と言っているわけだ。
何ともしたたかというか、図々しいというか、さすがは曲がりなりにも千年に渡りこの国の国家元首の座を守ってきた一族の血を引くだけの事はあると感心すべきだろうか。
そんなわけでもしもウァリウス皇帝が、万が一にもオレの存在を察知したら、軍勢を率いて押しかけて結婚を迫ってくるかもしれない。
いや。ほぼ確実にそうなるだろう。
そういう面倒事はなるだけ避けたいので、オレはいつのもように隠れて人里を離れたところを移動していた。
これで何事も無ければいいが、残念ながらそういうわけにもいかないのが、オレの運命というものなのだ。
そして山道を進んでいると、幾人かの武装した人間が見えてきた。
遠目では身なりはそれなりによく、山賊の類いでは無いらしいが、その様子からしてどうやら検問の類いらしい。
こんな山道をわざわざ見張るとなると、密輸の取り締まりか、さもなくば犯罪者の逃亡阻止か。
いずれにしても何かありそうだ。
そうすると向こうもオレに気付いたらしく近づいてくる。
ひょっとすると感知魔法の類いをかけていたのか、結構反応が早いな。
「おい! そこのお前、こっちにこい」
今のオレはフードを被って顔を隠し、髪の毛も黒く染めているから一見して何者かは分からないはずだが、その一方でかなり怪しい外見をしている事は理解している。
ひょっとすると追っている対象はオレ自身かもしれないので、ここはひとまず『調和』をかけて暴力的な行動には出られないようにしておこう。
「あのう。あなた方はどこのどなたですか?」
「そんな事は関係無い! そのフードを取って顔を見せろ!」
もちろん写真など無いこの世界にて、顔を見せたところで即座にオレだとは分かるまい。
しかしオレの容姿が並外れて目立つのは間違い。
仮に連中がオレを追っていなくとも、話を広められるとまた面倒な事になるかもしれないな。
「どうした! 早くフードを取れ!」
どうやら連中が何者か、というこちらの質問には答えてくれないらしい。
まあ『調和』で相手は暴力的な行動には出られないし、オレの場合はドルイド系魔法により野外行動も有利なので彼らを振り切る事はそう難しくないが、今は事を荒げるのもなるだけ避けたい。
「分かりました。それではこれでどうですか?」
ひとまずフードを外して素顔を晒す。
そうするとこちらを注目していた連中が揃って息を呑む様子が感じられた。
「おい……こいつはもしや……」
「いや。話とはだいぶ容姿が違うぞ」
どうやらこの発言からすると、連中が探しているのは今のオレと同じぐらいの若い女性であるらしい。
そしてフードを取れと言った時の態度からすると、その相手が変装している事が想定されているようだな。
「おい。なぜお前は顔を隠していた?」
「一人旅ですから、顔をさらすわけにはいかないのですよ」
この世界では『女の一人旅』など危険極まりないので、フードで顔を隠し性別不詳で行動するのはそう不自然な行動ではないはずだ。
「とにかくこちらにこい。念入りに調べてやる」
おい! 何だその『目当ての相手ならよし。違っていてもこれならよし』と言わんばかりに下心丸出しの態度は。
やっぱりオレの容姿を見せるとろくな事にならんのだな。
今さらながら振り切ってとっとと逃げ出すべきだったと、少しばかり後悔する羽目となっていた。
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