472 / 1,316
第14章 拳の王
第472話 剣神の信徒の死生観とは
しおりを挟む
ここでミーリアは少しばかり呼吸を抑える。
どうやら興奮しすぎたとでも思ったのだろう。
「いまあらゆる者が武装すべきと言ったが、もちろん現実はそういうわけにいかない事は分かっている。だから実際には我ら信徒が『ザスターニック神の有する数多の剣』の一振りとなるのだ」
国にもよるだろうけど、安定したところなら一般人の武装が取り締まられる事も多いだろうからな。
オレの感覚だとやっぱり一般人が武装し、戦うような事は可能な限り避けるべきとなるわけだが、この世界ではそれだけではうまくいかない事も間違い無い。
「しかし戦いそのものを重んじるならば、勝敗はさして重要ではないのですか?」
「そうだな。我が神は戦闘では勝利を与え賜わない。ただ信徒にふさわしき戦士が勝利するのを支援して下さるだけだ」
「ならば勝ち目のない戦いから引く事も出来ないのですか?」
「それは違う。絶望的な戦いからは撤退が求められる。我らは死を恐れぬが、死んでしまったものは二度と剣を振るう事は出来ないからだ。しかし絶対に戦闘を避けてはならない。故に撤退した後は体勢を立て直して再戦を挑むべきとされるのだ」
そう言ってミーリアは拳を固く握りしめる。
どうやらビネースとの再戦をまた考えているらしい。
「また戦場では断固として敵を殺害すべきだが、戦争が終わったのならば速やかに戦闘を収めねばならない。まただらだらとした消耗戦もいけない。あくまでも勇猛果敢、速戦即決で誉れ高き戦いがザスターニック神の求めしもの。つまり重要なのは勝敗では無く、戦士として恥じない戦いをすることだ」
つまりミーリア達にとって『目的』は勇猛果敢な戦いをする事であって、勝敗はその『結果』に過ぎないと言う事か。
本当に『剣に生き、剣に死す戦神』らしい教義だな。
しかしそれが本当ならば、どうにかミーリアにも穏便にお引き取り願えるはずだ。
「それならばミーリアさんもあなたのお父さんも正々堂々とビネースさんと戦ったのですから、負けたとしても恥じることはないでしょう」
「な?!」
ここでミーリアは一瞬、息を呑んだ表情を浮かべ、そして急に激発する。
「ふざけるな!」
「え?」
いきなり怒鳴りつけられたのでオレはちょっとばかり面喰らうが、次いで女戦士の方も顔を赤面させつつ頭を下げてくる。
「すまない……またあなたに当たってしまったな」
ミーリアは決して悪人でも粗暴でもないが、気が短く癇癪持ちな面があるな。
すぐに冷静に戻って詫びるだけマシだけど、この性格のために父親の仇をとるために、わざわざここまでやってきたというわけか。
その性格は改めないと、たぶん長生きできないぞ。たぶん本人には長生きする気がないのだろうけど。
「もちろん相手が勇敢な戦士ならば問題はない。しかしガイザーの奴らは武器を否定し、徒手で戦っているではないか。そのような相手と一騎打ちをして敗れ、武器を破壊されるなど不名誉極まりないことなのだ」
なるほど。なんとも厄介だが、ガイザーの信徒が徒手空拳で戦うが故に『武器に生き武器に死す』というザスターニック神の教団の価値観では、そんな相手に負けることは許されない失態というわけか。
ただ良くも悪くも『個人の武勇』が最優先であるらしいザスターニック神の教えに基づくと決闘に敗れる事はあくまでもその当人の問題であって、教団や神の名誉に関わる事ではないようだ。
「そして我が教団では無闇に平和を唱える者は忌まれる。あらゆる紛争を避けようとする者どもは戦うべきときにも戦いを拒否するからだ。それはもっとも邪悪で精力的な専制君主よりも更なる害をもたらす汚らわしい存在だ」
要するにあらゆる面でガイザーの信徒はザスターニックの信徒はとは相容れないということなのか。
どっちも関わりを持たないのが一番いいんじゃないかと思うけど、そういうわけにもいかないから本当に面倒くさい。
「ならばミーリアさんはこれからどうされるおつもりなんですか?」
「もちろん折られた剣の代わりを探す。そしてビネースに次の戦いを挑む。私の剣は折られても『ザスターニックの剣』たるこの私が折れたワケではない」
どうやらミーリアは一騎打ちで勝つか死ぬまでビネースとやりあうつもりらしい。
勝敗そのものが重要ではないし、結果として死んでも構わないという教義の上ではそんな考えになってしまうのだろうか。
幸か不幸かこの世界では剣は高価なものだし、ミーリアはそれほど裕福というわけではないらしいので、代わりの剣は簡単に手に入らないらしいが、このままにしておくわけにもいかないし、本当に困ったものだ。
「とにかくあなたには世話になったな。私はいったん去るが、また会おう」
出来ればもう二度と会いたくないけど、引き留める事も出来ないし、ここはミーリアが剣を手に入れられずに諦めてくれるのを祈るのが関の山か。
そうこうしていると、街道にはチラホラと通る人間が増えてきた。
どうやらビネースの《招集》に応じた近隣のガイザー信徒が通過しているらしいな。
もちろん彼らはいずれもビネース同様に武器を持たず、防具もつけることなくその身一つで歩んでいる。
しかしここでオレは思わぬものを見つける事になる。
いかにも巡礼者らしい質素な服装をしている一団の先頭に、何故か大きな馬にまたがった完全武装の騎士らしき人物がいたからだ。
どうやら興奮しすぎたとでも思ったのだろう。
「いまあらゆる者が武装すべきと言ったが、もちろん現実はそういうわけにいかない事は分かっている。だから実際には我ら信徒が『ザスターニック神の有する数多の剣』の一振りとなるのだ」
国にもよるだろうけど、安定したところなら一般人の武装が取り締まられる事も多いだろうからな。
オレの感覚だとやっぱり一般人が武装し、戦うような事は可能な限り避けるべきとなるわけだが、この世界ではそれだけではうまくいかない事も間違い無い。
「しかし戦いそのものを重んじるならば、勝敗はさして重要ではないのですか?」
「そうだな。我が神は戦闘では勝利を与え賜わない。ただ信徒にふさわしき戦士が勝利するのを支援して下さるだけだ」
「ならば勝ち目のない戦いから引く事も出来ないのですか?」
「それは違う。絶望的な戦いからは撤退が求められる。我らは死を恐れぬが、死んでしまったものは二度と剣を振るう事は出来ないからだ。しかし絶対に戦闘を避けてはならない。故に撤退した後は体勢を立て直して再戦を挑むべきとされるのだ」
そう言ってミーリアは拳を固く握りしめる。
どうやらビネースとの再戦をまた考えているらしい。
「また戦場では断固として敵を殺害すべきだが、戦争が終わったのならば速やかに戦闘を収めねばならない。まただらだらとした消耗戦もいけない。あくまでも勇猛果敢、速戦即決で誉れ高き戦いがザスターニック神の求めしもの。つまり重要なのは勝敗では無く、戦士として恥じない戦いをすることだ」
つまりミーリア達にとって『目的』は勇猛果敢な戦いをする事であって、勝敗はその『結果』に過ぎないと言う事か。
本当に『剣に生き、剣に死す戦神』らしい教義だな。
しかしそれが本当ならば、どうにかミーリアにも穏便にお引き取り願えるはずだ。
「それならばミーリアさんもあなたのお父さんも正々堂々とビネースさんと戦ったのですから、負けたとしても恥じることはないでしょう」
「な?!」
ここでミーリアは一瞬、息を呑んだ表情を浮かべ、そして急に激発する。
「ふざけるな!」
「え?」
いきなり怒鳴りつけられたのでオレはちょっとばかり面喰らうが、次いで女戦士の方も顔を赤面させつつ頭を下げてくる。
「すまない……またあなたに当たってしまったな」
ミーリアは決して悪人でも粗暴でもないが、気が短く癇癪持ちな面があるな。
すぐに冷静に戻って詫びるだけマシだけど、この性格のために父親の仇をとるために、わざわざここまでやってきたというわけか。
その性格は改めないと、たぶん長生きできないぞ。たぶん本人には長生きする気がないのだろうけど。
「もちろん相手が勇敢な戦士ならば問題はない。しかしガイザーの奴らは武器を否定し、徒手で戦っているではないか。そのような相手と一騎打ちをして敗れ、武器を破壊されるなど不名誉極まりないことなのだ」
なるほど。なんとも厄介だが、ガイザーの信徒が徒手空拳で戦うが故に『武器に生き武器に死す』というザスターニック神の教団の価値観では、そんな相手に負けることは許されない失態というわけか。
ただ良くも悪くも『個人の武勇』が最優先であるらしいザスターニック神の教えに基づくと決闘に敗れる事はあくまでもその当人の問題であって、教団や神の名誉に関わる事ではないようだ。
「そして我が教団では無闇に平和を唱える者は忌まれる。あらゆる紛争を避けようとする者どもは戦うべきときにも戦いを拒否するからだ。それはもっとも邪悪で精力的な専制君主よりも更なる害をもたらす汚らわしい存在だ」
要するにあらゆる面でガイザーの信徒はザスターニックの信徒はとは相容れないということなのか。
どっちも関わりを持たないのが一番いいんじゃないかと思うけど、そういうわけにもいかないから本当に面倒くさい。
「ならばミーリアさんはこれからどうされるおつもりなんですか?」
「もちろん折られた剣の代わりを探す。そしてビネースに次の戦いを挑む。私の剣は折られても『ザスターニックの剣』たるこの私が折れたワケではない」
どうやらミーリアは一騎打ちで勝つか死ぬまでビネースとやりあうつもりらしい。
勝敗そのものが重要ではないし、結果として死んでも構わないという教義の上ではそんな考えになってしまうのだろうか。
幸か不幸かこの世界では剣は高価なものだし、ミーリアはそれほど裕福というわけではないらしいので、代わりの剣は簡単に手に入らないらしいが、このままにしておくわけにもいかないし、本当に困ったものだ。
「とにかくあなたには世話になったな。私はいったん去るが、また会おう」
出来ればもう二度と会いたくないけど、引き留める事も出来ないし、ここはミーリアが剣を手に入れられずに諦めてくれるのを祈るのが関の山か。
そうこうしていると、街道にはチラホラと通る人間が増えてきた。
どうやらビネースの《招集》に応じた近隣のガイザー信徒が通過しているらしいな。
もちろん彼らはいずれもビネース同様に武器を持たず、防具もつけることなくその身一つで歩んでいる。
しかしここでオレは思わぬものを見つける事になる。
いかにも巡礼者らしい質素な服装をしている一団の先頭に、何故か大きな馬にまたがった完全武装の騎士らしき人物がいたからだ。
0
お気に入りに追加
1,787
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

5歳で前世の記憶が混入してきた --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--
ばふぉりん
ファンタジー
「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は
「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」
この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。
剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。
そんな中、この五歳児が得たスキルは
□□□□
もはや文字ですら無かった
~~~~~~~~~~~~~~~~~
本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。
本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。

異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~
イノナかノかワズ
ファンタジー
助けて、刺されて、死亡した主人公。神様に会ったりなんやかんやあったけど、社畜だった前世から一転、ゆるいスローライフを送る……筈であるが、そこは知識チートと能力チートを持った主人公。波乱に巻き込まれたりしそうになるが、そこはのんびり暮らしたいと持っている主人公。波乱に逆らい、世界に名が知れ渡ることはなくなり、知る人ぞ知る感じに収まる。まぁ、それは置いといて、主人公の新たな人生は、温かな家族とのんびりした自然、そしてちょっとした研究生活が彩りを与え、幸せに溢れています。
*話はとてもゆっくりに進みます。また、序盤はややこしい設定が多々あるので、流しても構いません。
*他の小説や漫画、ゲームの影響が見え隠れします。作者の願望も見え隠れします。ご了承下さい。
*頑張って週一で投稿しますが、基本不定期です。
*無断転載、無断翻訳を禁止します。
小説家になろうにて先行公開中です。主にそっちを優先して投稿します。
カクヨムにても公開しています。
更新は不定期です。

魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました
紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。
国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です
更新は1週間に1度くらいのペースになります。
何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。
自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる