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第13章 広大な平原の中で起きていた事

第434話 浮かび上がる疑問

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 思わぬところでターダの兄についての情報が得られたのは嬉しいが、もう少し確かめるべきことがある。

「それでその稲妻を使う男はいまどこにいて、なんと呼ばれているのです」
「どこにいるのかは知らんが、俺たちは奴のことを『稲妻降ろし』と呼んでいたな。天空にある稲妻をこの地上に降ろしたからだ」

 残念だがこれでは何もわからないな。

「ただそいつはあちこちにある、俺たちの神聖なる土地を回っていたんだ。そこで何をしていたか知らんが、たぶんこの場所にも来たことがあるだろうよ」

 なんだって?
 そうすると先ほど、ターダが感じた『雷鳴鳥の卵が放つ音』というのは、カウワイミがここを訪れた結果なのかもしれないのか。
 そうするといったい何が目的なのだろうか。
 あの瘴気を吹き出す肉片は遊牧民の側に立つ神の欠片だったわけだから、それを探ることで何かの発見があるかもしれない。
 次期族長候補ともなれば、いろいろと秘密の知識を有していても不思議ではないからな。
 いずれにせ推測だから、結論を出すにはもっと手がかりが必要だな。
 ロニールがまだ知っている事があれば、可能な限り聞き出したいところだ。

「すみませんうん?」

 気がつくとオレ達の周囲が妙に騒がしくなっていた。
 見回すとこのくぼ地に数多くの霊体が集まっていたのだ。
 どういうことだ?
 あ! もしかしたら。
 瘴気を生み出していた腐りかけた神の欠片には、数多くの霊体が集まってきていたが、それはかつての主にすがるだけでなく、この辺りをうろついているろくでもない霊体も、数多く引き寄せていたのでは無いだろうか。

 それはさしずめ腐肉に虫がたかるようなものだろうか。
 そうすると連中はいつものようにあの神の腐肉にたかろうとやってきたのに、その欠片をオレが異世界に送り出してしまったもので行き場を失ったのだな。
 むう。これはマズい!
 急いでこの場を離れないと、連中が何をしてくるか分からんぞ。

「なんだ……急に寒気がする……」
「おかしいな。まるで虫に付きまとわれているような気がするぞ」

 霊体を見る事は出来ないターダやロニールも、周囲の気配を察してはいるようだ。
 湿原だからしつこく蚊やアブのような害虫に付きまとわれる事はあり得ると思っていたけど、もっと厄介な連中を呼び寄せてしまっていたらしい。

「二人とも……今は黙ってこの場を離れましょう」
「分かった」
「やはり忌まわしい輩が解き放たれてしまったのか」

 ロニールは憤っているようだが、今はそれについて説明している場合では無い。まあ連中の行き場を無くしてしまったのはオレなので、少しばかりの文句は甘んじて受けるとしよう。
 まあターダもロニールも不穏な空気を感じ取って、このくぼ地を急いで離れる事には同意してくれているのはありがたい。
 集まっている連中は今のところ、こちらの様子を伺っているだけらしいが、何かあったら一斉に襲いかかってくるかもしれないからな。
 オレの『霊視』の魔法で見る限り、さほど強力な存在はいないので、襲ってきてもどうにか出来るとは思うけど、ターダとロニールの二人も一緒に守るとなると面倒だ。

 そんなわけでオレ達はこっそりとくぼ地を抜け出す。
 霊体達もオレの能力を観る事は出来るらしく、敢えて手出ししてくる相手がいなかったのは胸をなで下ろすところだな。
 しかしよくよく見ると、霊体の中には遊牧民とおぼしき相手が大勢いるぞ。
 この『悪鬼の湿原』で命を落とした遊牧民がいかに多いかと言う事だろか。

 だがこれも妙だな。
 この地は『定めし者』の聖地であり、またその掟に従ってこの湿地で命を落とした者達がそうそう亡霊になるものなんだろうか。
 そりゃまあ勇者や族長になりたくて、この地にやってきたにも関わらず無念の死を迎えたら浮かばれないのは理解出来る。
 しかしそれで『定めし者』は信徒の魂を救済しないのか?
 それとも霊体の方が神による魂の救済を拒絶するような、何かがあるのだろうか。

 こういうことは神様に直接会って聞いてみたいところだが、オレの場合はいきなり『妻になれ』などと迫られかねない。
 何しろ遊牧民は略奪婚が当たり前どころか、むしろ誇りにしているぐらいだからな。
 それを決めた神様も当然、同じ事をしでかしかねないが、もちろんそんなの真っ平である。
 やっぱり神様に頼っていてはいけないと言うことらしい。
 そんな事を考えていると、オレ達三人はどうにかくぼ地を出た。
 時間はまだ夜中なので、周囲は暗闇に覆われており、遠くにパップスの明かりが見えているだけだ。

「それではお前達とはここまでだな」

 ロニールはオレ達に背を向けて歩き出すが、ここはもっと情報が欲しいところだ。

「待って下さい。もう少し話をさせて下さい」
「それは例の『稲妻降ろし』の事についてか」
「ええ。そうです。何でもいいのでロニールが知っている事があれば教えてくれませんか」
「教えてやってもいいが、これ以上はタダとはいかんぞ」

 ぬう。それも当然か。
 ただ自分達を獅子の眷族だと考えているロニールは、いくら何でもオレに対して『嫁になれ』などと言ってこないだろうから、要求を聞くのはやぶさかではない。

「それでは何をすればいいのですか?」

 いったい何を要求されるのか。オレは緊張と共にロニールの次の言葉を待った。
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