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第12章 強奪の地にて

第391話 真実を伝えたところで

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 この大人ドラゴンの考えている事は分かったが、そうするとやはり幼生が刃向かったらこの場で殺されてしまいかねないらしい。
 しかし少なくとも怒り狂ってここにやってきたわけでもなく、どうにか話し合いの余地があるだろう。
 そしてここで背後の幼生ドラゴンが問いかけてくる。

《なんだよ? さっきからアルタシャはあいつと何の話をしているの?》
「あなたの同胞について話をしているんですよ」
《そんなのどうでもいいよ。あれがアルタシャに手出ししないならね》

 生まれたばかりの子どもにそういう話をしても、興味ないのは当たり前かもしれないけど、オレの方に執着しているのはいくら何でもおかしいじゃないか。
 そんなにオレの魔力は良かったのかよ?
 あいにくだけどどんなに慕われてもドラゴンとオレでは文字通り住む世界が違うんです。

「今はあちらがどうするつもりなのかが大事ですよ」

 オレは幼生の方を抑えて、あらためて大人ドラゴンに問いかける。

「あなたがここに来たのは、この子どもがあなた達の想定よりもずっと早く成長している事が分かったからなんですよね」
【それ以外の理由があるのか? 我らは人間に関わるのは望まぬ。人間と争ったところで、奴らはどれほど潰しても幾らでも湧いて出てくるからキリが無い】

 それなら卵を川に流すのも辞めて欲しかったところだ。
 たぶんそれはこの地に人間が来るずっと前からやっていることであって、人間には何世代も入れ替わる時間でも、ドラゴンにとってはちょっと前に過ぎないので、その変化に意識がついていけないのだ。

「ならばこの子どもをどうするつもりなんですか?」

 今のところ暴力的な行動に出る様子はないけど、万が一にもそんな事をされたらこちらとしては激しく困る。
 勝ち目がないのは当然だけど、どうにか逃がす方策を考えるしかないだろう。
 そんなわけで相手が何を言ってくるのか、オレは固唾を呑んで見守るしかなかった。

【このように急速に成長するとは予想外だった。本来ならば我らは戻ってきた子どものための場所を用意しておくのだがな――】

 ぎくう。この言葉からすると、未だに幼生ドラゴンを受け入れる準備はまだ整っていないということか。
 戦うつもりはなくとも、成長したのはオレの責任だから、それが整うまで面倒見ろとか言われかねない。
 通常なら戻るのは数年先という事だから、さっき精霊が要求したようにそれだけの期間を付き合う事を要求されたらたまったもんじゃない。
 しかしオレの予想は思わぬ方向に裏切られる。

【――ただ人間共に卵を略奪されたために、過去に用意したものがそのまま残っている。だから受け入れは可能だ】
「そ、そうですか……」

 これにはマジで安堵したよ。
 元はと言えば人間が川を下ってくるドラゴンの卵を略奪していたのが全ての元凶だけど、まさかそれで自分が救われるとは夢にも思わなかったな。

「それでは――」

 思わず勢い込んでこの幼生ドラゴンを引き取ってくれるのかと問おうとしたが、ここで少しばかり躊躇する。
 この子どもがオレに固執している現状でそういう事を伝えると、興奮して怒り出すかもしれないと思ったからだが、もちろんそんなこっちの気持ちなど、大人のドラゴンは気にもとめなかった。

【我はその幼生を受け入れに来たのだ】

 おお! まさかオレの希望通りだったとはこれは本当に予想外としか言いようが無い。
 何か悪い事の前兆なのかと、むしろ不安になってくるぞ。
 いや。ここで第一に警戒すべきは、オレの背後にいる子どもの方の意志だ、

《それは――》
「良かったですね! これであなたも仲間のところに戻って、立派な一人前のドラゴンになれますよ!」

 幼生が拒絶する前に、それがいい事だと伝えるのがこの状況における最善の選択だろう。
 納得してくれるかどうか分からないが、とにかくやるしかない。

《そうなの? よく分からないけど――》

 どうやらピンとこないので、動揺しているらしい。まあ故郷については文字通り『生まれる前の出来事』なので分かる方がおかしい。
 しかしここで納得してもらわないと、こちらが困るんだ。

《それならアルタシャも一緒に来てくれるよね》

 そりゃ不可能だろ!
 ドラゴンの住処がどんなところかなど、オレは全く知らないが、そこにいるのはまさに『ウルト○マンの怪獣クラス』の連中だ。
 一緒にいったところでオレなどネズミ同然の存在でしかないぞ。
 ちょっと前まで『女神』だの何だのもてはやされていたオレだが、所詮は井の中の蛙でしか無かったと言う事か。
 しかしいつまでもごまかしているわけにもいかない。
 ここはハッキリと伝えるしかないな。

「残念ですけどあなたと一緒にはいられないんです」
《どうして? 今までずっと一緒にいてくれたじゃないか》

 ちょっと待ってよ!
 一緒にいたのって、オレがロブエッグ卵さらいのところで卵を守ってからせいぜい数日だろ!
 いや。卵の中でこの子どもが意識を得てからと考えると、オレは『ずっと一緒にいた』ことになるのか。
 ええい。寿命が人間よりも遥かに長くて、人間社会の変化にはついていけないドラゴン族のはずなのに、そんな短期間で魅了されるなんて無駄にチョロすぎるだろ。
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